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フォーンキャッスル冷徹の姫 作者:佐久野宗希
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24話 フィンブル


大穴から吹き出し続ける青い冷気。
一気に温度が下がったのが分かった。
シュネリアは両手で体を抱き、寒さに耐えていた。

「こ、これは……!」
「ぐ……!」

グランは片膝をついた。
見れば片足がすでに凍りついている。

「グラン!」
「リアの嬢ちゃん……!それ以上近づいちゃならねぇ!!」

グランはシュネリアよりも大穴……フィンブルと近い位置に居たためか、体のいたるところが凍りつきはじめていた。

「しかしこのままでは……!」
「俺の事はいい……!聞いただろ!?その石なら、ヘイアスを……!」

勢いよく吹き出していた冷気は、容赦なくグランの体を凍りづけにし……やがて全体を覆い尽くした。
シュネリアは意を決し、口を開いた。

「我が名はシュネリア!!フォーン家の王!」

シュネリアの声が洞窟内に反響する。
しかし、吹き出す冷気の音にすぐかき消された。

「……話が、したい!」

めげずに大穴に向かって声を出す。
その声が届いたのか、勢いよく吹き出す冷気が止んでいった。

『その石を使い、何をする気だ』

音がする。
間違いなく、それは言葉であり、フィンブルのものであると確信したシュネリアは、まっすぐに大穴を見つめ、喋り始めた。

「私の愚かさと未熟さゆえに……愛する人の命が失われました。その生命を再び……」
『ならん。なぜなら、やがて生命は消えゆくもの』

シュネリアはその発言に疑問を生じた。
それではなぜこのような石があるのか。

「……では、この石はなんのために」
『だからこそ、ここにあるのだ』

シュネリアは布袋に入った石を握った。
使われないために、このような秘境にある……そう言われたのは分かった。

『その石を使い、大陸を再び戦乱の世にする気か』
「そのような事は……!」
『人間……。お前達が大陸を闊歩するようになってから、争いが耐えない。なぜだ』
「それは……」

人は野心が多い。
しかしエルフやダークエルフも同じなのではないかとも思った。

「人間、だけではないはずです。他の種族も争い続けている」
『それは今の話。我は長い年月この大陸を見てきた。人間が居なかった大陸は、争いなどなかった』
「……!?」

人間がこの大陸に住み始めてから、争いが起こり始めたという事など知る由もないシュネリアはただ驚愕した。

『昔、ある男がここへ到達し、そして我にこう言った。"人間が汚したこの世界を、言葉で制覇する"と。だが未だに大陸は争っている』

その争いは、シュネリアが原因だという事と、ある男というのが自分の父親……スルドアだと言う事なのだろうと思った。
しかし、火種を振りまいているのは紛うことなきダークエルフだ。

「私達人間は今……争いなど起こしていません……!火種を作っているのはダークエルフです」
『女王コルは争いをするような者ではない』
「では、その腹心であるラクリマという者の仕業と私は確信しております」

コル女王親衛隊四天王の1人、ラクリマ。
狂っていると思った。
まだオクルスやマヌスの方が言葉は通じるのではないかとシュネリアは思っている。

『……そうか。女王はどうやら、力を失っている』
「……え?」

一瞬、何を言われたのか分からなかった。

「そ、それは……女王が、ラクリマの人形と化しているとでも?」
『そのようだ』

なぜそんな事が分かるのか。
不思議でならなかった。
嘘をついている可能性も否定出来ない。
しかし、それが嘘と断定できる材料をシュネリアは持ちあわせていなかった。

『フォーン家の王よ。昔にここへ来た男も、フォーン家の王と名乗っていたが、お前は娘だな』
「……はい」
『……エルフが敵になったのか』
「!?」
『エルフに城を攻められたようだな』
「なぜ……それを」
『我は大陸をずっと見ている。もうずっとだ』
「それは、何のために」
『……』

フィンブルの言葉を待つが、沈黙が続いた。
シュネリアは待ちきれず、次の質問へと変えた。

「……女王コルとは、どのような関係なのでしょうか」
『コルは我の腹心。大陸を平和にするため、外へ行かせた。随分前に』

これには驚きを隠せなかった。
ダークエルフの女王が、神秘の泉を守る守護神フィンブルの腹心。
そのような人物がなぜ、普通のダークエルフに力を奪われているのか。
もしヘイアスなら……分かるかもしれないと思う自分が情けなかった。

『我は大陸を見守る者……。平和になるまで、我は永遠にここで見守り続ける。そのためにコルを放ったのだ……』

まるで呪いだとシュネリアは思った。
大陸が平和になった時、このフィンブルがどうなるのか……ただ興味が沸いた。

「守護神フィンブルよ……。もし平和をもたらした時……どうなるのですか」
『……出来るのか』
「……え?」
『平和へ導けるのか?コルの変わりに』
「……」

突然な問いだと思ったが、いつも自分が言っている事のようだとも思い、少し可笑しかった。
同時にこれはチャンスかもしれないとも思った。
間違いなく、平和にはしたい。
だが、それは1人の力では無理な話だ。
……ヘイアスが居れば、可能だと確信していた。
2人で力を合わせていけば、やがて。

「それでは、お願いがあります。……そのために、ある力が必要なのです」

シュネリアは、布袋に入った石……生命の雫と思われる石を取り出し、フィンブルが居るであろう大穴に向けた。

「この石……生命の雫で、平和をもたらす者を蘇生したいのです」
『……』
「お願いします……!」

大陸を統べる人間の王、シュネリアは頭を下げた。
長い沈黙が続く。

『……コルを連れてくると約束出来るか』
「女王コルを……?」
『……精神が崩壊する前に、救いたい』

ダークエルフやエルフの寿命は計り知れない。
何年前から居るのか気にはなるが、聞いた所で解決策にはならないだろうと思い、考えを捨てる。

「分かりました」
『その石の力……間違えるな』
「はい」

生命の雫を大穴にかざしたまま、シュネリアは首肯する。
氷の洞窟内の光が反射し、生命の雫の石は、より一掃輝やいていた。
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