挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
フォーンキャッスル冷徹の姫 作者:佐久野宗希
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

20/32

20話 決意

フォーン城4階。
最上階でもあるこの展望台には、様々な思いが残る場所だ。
その場所では今、2人の男女が対峙していた。
ダークエルフは両手で持つように作られた剣を、左肩に手を当てながら片膝をついているウルリアへ向けていた。
盾は地面に転がり、血が飛び散っていた。
ウルリアの体の至る所から流れ出している血。
状況は最悪であった。

「そこまでです」

シュネリアはダークエルフを見据える。

「これはこれは、シュネリア姫。待っていましたよ」

ウルリアに剣を向けながら、ラクリマという名であろうダークエルフはシュネリアを見る。
目つきは鋭く、一目で油断できない相手だと分かった。
シュネリアは黙ったまま剣を抜き放つ。
青く輝いた刀身を目にしたラクリマは、感嘆の声を漏らした。

「その剣……フィンブルの結晶から作られた神秘の剣、ですね」
「そうです」
「確か名は……ウクソルインペラートーリア。意味はご存知ですか?」
「……」
「女帝、ですよ。貴女にふさわしい剣ではありませんか?」
「……」
「素晴らしい……」

恍惚こうこつと目を細めながら言う姿に、シュネリアは測りかねていた。
何が目的なのか。
言葉とは裏腹に、ラクリマの剣は絶えずウルリアの方へ向いている。

「そうだ、取引をしましょう。その剣とこの女を交換、というのはどうでしょうか?」
「剣と、ウルリアを……?」
「そうです。その剣を頂ければ、この女はお返ししましょう」

なぜこのタイミングで剣を欲しがるのか分からなかった。
ただ、シュネリアにとってこの剣は、今は亡き父親からもらった大切な物だ。

「なぜこの剣を欲しがるのです?」
「私の愛おしいコル女王様へのプレゼントですよ。あぁ……きっとお喜びになられる……!」

それを聞いて、このダークエルフは異常だとシュネリアは思った。

「さぁ、剣を……」

シュネリアは目を閉じた。
次の瞬間には、シュネリアの剣が、ウルリアに向けられている剣を下から上へ弾いていた。
ガキィン!という金属音を立ててラクリマの剣はウルリアから逸れ、シュネリアは己の剣をすぐさま振り下ろす。
完全に隙を付いた攻撃だと思っていたが、ラクリマは予想していたようで、シュネリアの剣は難なく弾き返された。

「話の途中で突っ込んでくるとは……姫とは思えない立ち居振る舞いですね」

続けざまに繰り出すシュネリアの剣戟を、ラクリマは次々と弾いていく。
あのウルリアに片膝をつかせるほどの強さなのだ。
簡単にはいかないとは分かっていた。

「さすがはフォーン軍の王だ」
「ふっ!はっ!」

気合の声と共に繰り出される剣は、ウルリアのものよりも正確に急所をとらえている事に、ラクリマは気づき始めていた。

「なんという……!」

ラクリマが、次はどの急所を狙ってくるのか予想できずに弾くことしか出来ないでいる事など、シュネリアには知る由もなかった。
剣と剣がぶつかる度に、どちらかの刀身が欠けていく。
シュネリアは確信している。
この剣に勝る得物など存在しない、と。
そしてウルリアとも猛攻を繰り広げられていた剣など、すでに寿命が近い事も。

「おのれ……!」

ラクリマが怒りを見せたと同時だった。
ガキィンと音が鳴り、半分になった刀身が地面へ落ちた。
虚しい金属音だと、シュネリアは思う。
青く輝いた刀身をラクリマへ向ける。

「見事な剣筋ですが、相手が悪かったですね」
「……」

まさか同じことを言われるとは思ってもいなかったのだろう。
ラクリマは呆然とシュネリアを見つめていた。

「……?」

そんな事も知らず、シュネリアは首を傾げる。
その姿を見たラクリマは、両手を上げた。

「……完敗です、姫。私の、負けです!」
「……あ!」

ラクリマは勢いよく後ろへ飛び……そのまま落ちていくと思われたが、下から一匹のヘルコンドルが遠ざかっていくのを見て、シュネリアは呟く。

「逃げられた……!」

同時に外から大群が迫ってきているのが見えた。
シュネリアは驚き目を見開く。
だが見知った旗を確認した瞬間、安堵する。

「……あれは、フォーン軍の旗」

きっとヘイアスの策だろうと思いながら剣を鞘に収めた。
もはや気絶しているであろうウルリアの側へ行く。

「……しっかりして」

シュネリアはポーチを弄るが、何もない。

「すぐ戻るから……!」

傷の治療が出来る物を持ってこようと立ち上がった時だった。
誰かがこちらへ向かってくる音が聞こえた。

「……」

シュネリアは階段を見つめる。
ダークエルフは一掃し、しかも外には援軍だ。
もはや敵ではないだろうと思いつつも油断は出来ない。
いつでも斬れるようにと剣の柄を握る。
しかし階段から上がってきたその姿を見た時、一気に力が抜けた。

「リアの嬢ちゃん……!無事か!」

エルフ騎士団長のグランが駆け寄ってくる。

「私は平気です……しかし」
「ま、まだ生きてるんだよな!?」
「はい……ですが、早く治療をしないと」
「そうだな……!」

グランはウルリアをそっと担ぐ。

「医務室に連れて行く。嬢ちゃんも、来てくれ」

そう言ったグランの顔色が変わった。
そのグランを見たシュネリアは、とても悲しそうだと感じる。

「はい……」

一体何があったのか。
考えれば考えるほど不安になっていく。
しかし、そんなはずはないと思い直し、シュネリアはグランの後に続いた。









医務室にはすでに、1人が寝ていた。
その姿を見たシュネリアは目を見開き、駆け寄った。

「ヘイアス……!」
「シュ、シュネリア様……!」

ヘイアスの眠るベッドの脇に座っていたオーキスは、シュネリアを見ると立ち上がり頭を下げる。

「申し訳ございません……!お、俺のせいで……!俺の……!」
「……ヘイアスは」
「お、俺を、庇って……!」
「……そうですか」

シュネリアはヘイアスを見たままだった。

「リアの嬢ちゃん……ヘイアスは……」
「……」

ヘイアスがいなくなる。
大声で叫びたかった。
もう何もやる気が起きない。
これから何のために生きていけばいいのか。
2人だから歩いてこれた。
考えれば考えるほど、悲しみがシュネリアを襲った。

「ヘイアス……」

オーキスはシュネリアの事を見ていられなかった。
自分が居なければ、こんな事にはならなかったのだと思っていた。
耐え切れず、目線をグランへ向けた。
グランはウルリアを入り口近くのベッドへ寝かしている所だった。

「……ウルリアもなのか?」

オーキスがもたついた足取りでウルリアが寝かされたベッドへ向かう。

「ウルリアは気絶しているだけだ。ちゃんと治療をすればいずれ目を覚ます」
「そ、そうですか……」

グランは待機していたエルフへ指示を出す。

「すぐ治療にとりかかってくれ」
「はっ!」

エルフがウルリアの治療を始めたのを確認したグランは、シュネリアへ声をかける。

「……リアの嬢ちゃん、ちょっと話がある」
「……」

グランが部屋を出る。
シュネリアはヘイアスを見つめた。
静かに眠るその姿を見ていると、また起き上がってくるんじゃないかと思えた。

「……ヘイアス」

ヘイアスの頬を撫でる。
自然と溢れ出そうになる涙を、部屋の天井を見つめて堪える。
人はいつか死ぬ。
それが早いか遅いかだけ。
そう割り切れればどんなに楽かと思う。
今すぐ自分の部屋に戻り、ベッドの中で眠っていたい。
でも、まだやらねばならない事は山程ある。
しかしこれからヘイアス無しで自分は生きていけるのか。
そう思うと足は動かなかった。

「……皆、私を置いて行かないでよ」

1人呟き、目を閉じる。
グランの話とは一体なんなのか。
このタイミングで、何を話されるのか。
シュネリアは、自分が今フォーン軍の姫という立場である事を忘れたかった。

「……ヘイアス、私はどうしたら」

こういう時、ヘイアスはなんと言うのだろうか。
『もういいんだよ』と言って、優しく抱き寄せてくれるだろうか……。
いや。
考えるまでもない。
背中を押し、こう言うだろう。
『まだまだ我々は、やらねばならぬ事が山程あります』

「そうだよね……」

シュネリアは目を開けた。
ヘイアスは変わらず、静かに眠っている。

「……行ってくるね、ヘイアス」

シュネリアは姫になってからヘイアスに2回目となる微笑みを見せ、医務室を後にした。









シュネリアとグランは氷の洞窟の前まで来ていた。

「……嬢ちゃん、落ち着いて聞いてくれ」
「……」

心臓の部分がキュっと縮まるような感じがする。
あの日……親しい友人や両親が死んだ日と同じように……ただ、苦しかった。

「……こういう言い伝えがあるんだ。神秘の泉の水には、蘇生の効果があるって」
「……永遠の命という話ですか」
「違う。神秘の泉の、生命の雫という石があるらしいんだ」
「生命の雫……?」
「聞いたことがないだろうな……。だが冒険者の間ではかなり広まっているらしい」
「そ、そうなのですか……?」

初耳であった。
ウルリアも知っているのだろうかと思ったが、知っていたらその生命の雫とやらを使って大切な者を蘇生させているだろう。
そうしていたら復讐なんて……しないはずだ。

「ウルリアは知らないようでした」
「俺の耳に入ったのも最近なんだ。知らない冒険者も居るとは思うが……まぁとにかくそれを使えば、ヘイアスを蘇生出来るかもしれんのだ」
「……そんな夢のような物など、手に入るはずが」
「この氷の洞窟にあるらしいぞ」
「……え?」

あれだけ父が探索をしていたのに、許可証がないと足を運べない冒険者がなぜ知っているのか。
シュネリアは信憑性のない噂だと思った。

「……そうなんですか」
「俺は今からフィンブルに会って、その在り処を聞こうと思ってる」
「……今、なんと?」

フィンブル。
この洞窟に棲まう、神秘の泉の守護獣と言われている。
母が昔、父を負かせるのはこの守護獣だけと言っていたのを思い出し、懐かしく感じた。

「フィンブルに聞くと言ったんだ。嬢ちゃんの父、スルドア様が言っていただろう?魔物だって言葉を持っているって」

それは父の口癖でもあった。

『魔物はどうやって意志を疎通していると思う?あいつらも私達と同じように言葉を持っているからだ』

最初は信じられなかったが、ダークエルフが連れているベアーダークネスやヘルコンドルを見ていると、あながち間違ってはいないと思うようになった。

「嬢ちゃんの方が道に詳しい。それに、姫の許可なく入るのは……ダメなんだろ?」

グランはシュネリアへ向けて笑顔を向ける。
シュネリアは何を今更と思うと同時に、グランが自分に気遣っているという事を感じていた。

「……俺はやっちゃいけねぇ事を繰り返した。でもよ……ヘイアスは俺の息子みてえなもんなんだよ……!処罰なら、後でいくらでも受ける覚悟はある……!頼む」

グランはシュネリアをまっすぐに見て、頭を下げた。
確かにグランが原因でこの戦いは起きているのだろうが、それを促した者を罰するのが正当なのではないかとシュネリアは思うが、それよりも、今はむしろ頭を下げたいのはシュネリア自身だった。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

いくら信憑性が低くても、今は信じたかった。
ヘイアスが目を覚ます可能性があるのなら。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ