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フォーンキャッスル冷徹の姫 作者:佐久野宗希
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1話 フォーン軍と兵士長ヘイアス

人間の住む町の1つ、フォーンキャッスル。
フォーンキャッスルから見て、北西の森にはエルフが住み、北東に広がる荒野の地下にはダークエルフが住んでいる。

そして。
東には氷の洞窟。
そこには古代の魔物が存在し、フォーン軍は厳重な監視と警備を続けている。
フォーン軍はフォーンキャッスルに属する兵士達で、フォーンキャッスルの王は、兵士や平民等から「冷徹の姫」と呼ばれている。
理由は様々で、
「優れた剣術で、どんな相手も容赦なく倒す」
「自分の2倍はある巨漢を、表情1つ変えず剣一振りで倒した」
「冷静こそ、王の器」
「そもそも姫に感情は存在しない」
など、他にも沢山あるがこのように言われている。
噂になるほど、姫の剣術は非常に優れていた。
幼い頃から剣が好きらしく、よく兵士の訓練所に顔を出しては一緒に剣を振るうほどでもあった。
名前はシュネリア。
愛称はリア。
愛称は、親しい間柄でしか呼び合わないため、そう呼ばれる事はない。

いや。
何年か前までは、呼ぶ者も多かった。

――
――――
――――――

挿絵(By みてみん)
フォーンキャッスルは、戦場と化した。
エルフの大臣、ロマールが率いるエルフ軍の襲撃はフォーン軍を混乱に陥れ、多くの命を奪った。
しかし、この戦いに終止符を打ったのは同じエルフだった。
エルフの女王、プランシア。
フォーン軍とは友好的で、エルフを1つにまとめようとしていた最中だった。
プランシアの登場で、エルフ達は剣を収める。
ロマールはというと……何があったのか、精神状態が不安定になっており、言葉も交わせない状態となっていた。

それから数年間、エルフ達はフォーンキャッスルの復興に積極的で、あっという間にほとんどが元通りとなった。

フォーン家と親しい間柄にあった、フォーン軍の兵士長ヘイアスは、フォーンキャッスルが戦場と化してから今日(こんにち)まで、ずっと考えている事がある。
生き残ったフォーン家の姫シュネリアが、その日以来感情という感情を表に出さなくなった事だ。
笑顔が美しく、活発で、よく喋ったあの頃のシュネリアを取り戻したいと思うヘイアスだが、今はそれどころではないという事が嫌でも分かっていた。
そして今、シュネリア自身に過去の感傷に浸られてはフォーン軍が危機に陥ってしまうという事も簡単に予想出来た。
というよりも、そもそもシュネリア自身が感傷に浸りたいと思うはずがない……。
そうヘイアスは感じていた。
シュネリア姫は、前を向こうとしている。
ならばとヘイアスは、忠実に物事を淡々と進める事こそシュネリア姫の心を癒やす最善の方法なのではないかと思った。
そうするにはまず、フォーンキャッスル全体の力を取り戻さなければならない。
しかしシュネリアとヘイアスの2人だけではとてもじゃないが時間がかかりすぎる。
信頼が出来て、力のある兵士が必要だった。

ヘイアスは、玉座の間の扉を開ける。
フォーン家の紋章が刺繍された青いマントを翻し、玉座へまっすぐ向かう。
貴重な布を使った上級士官の正装をベースに、胸には青銅の胸当て。
服の色は、フォーン家の証とも言える青色。
全体的に軽装で、まるで軍師のような格好だ。
茶色の髪は、目元にかかるほどの長さで、グリーンの瞳は迷いなく正面を見つめている。

「状況をお伝えします」

兵士長ヘイアスは、冷徹の姫が座る玉座の前で跪き告げる。

「手が空いている兵士を数名ファストブルーへ送り、指示通りの立て札を設置しました」
「……」

冷徹の姫は、目を閉じながら次の言葉を待つかのように動かない。

「力ある者、賢い者等様々でしょうが、シルバーベア―討伐は着々とクリアしている模様です」
「人数は?」
「詳細は、まだ。しかし、一人の剣士がずば抜けているとの情報はあります」
「……剣士」

冷徹の姫の表情が、少し動いたかのように見えた。
剣士という単語に反応をする事に、懐かしさを感じた。

「その剣士は、既にスリーグリンに居るとの事です」
「……予定通りに、ガーゴイルとワーウルフの討伐をさせて」
「はっ」

ヘイアスは一礼し、玉座の間を後にする。
歩きながら、思い返す。
数年前の、エルフ軍の襲撃を。
ヘイアス自身はほとんど気絶していたあの戦いで、フォーン軍の力ある者達はほとんど倒れてしまった。
まるで狙われたかのように。

シュネリアの母親でもある、心配性のリーン。
商人ギルドで物資の数や値段を常々(つねづね)確認し、平民の不満のないような値打ち設定をしていた。
良心的価格で、平民の反応はとても良く、そして良く売れる。
商人ギルドもその価格設定を参考にし、他の街へ販売をしていた。

兵士長フレデリック。
ヘイアスの父親であり、フォーン軍の兵士の訓練、編成、配置等を決め、さらに軍師も務めていたスペシャリスト。
数々の奇策と先読みで、負けた事はなかった。

そしてシュネリアの父親でもある、フォーンキャッスルの王、スルドア。
全てが完璧の人だった。
力、知恵、名誉、そして何よりも器の大きさ。
寛大だった。

「言葉、か」

スルドア最後の死。
ヘイアスが目を覚ました時、スルドアがエルフに強く訴えているのが聞こえた。
その時の内容はかなり印象深い。
スルドアは言った。
『言葉で全てを制する事が出来る』
……そんな事が本当に可能なのだろうか?
言葉の通じない魔物はどうすれば……。
しかし、スルドアは魔物とも会話が出来るはずだとも言っていた。

「……全く。スルドア様は、人の想像を超える先を見られている」

ヘイアスは一人で呟く。
スルドアの言葉の意味も、いずれ解明していかなければならないと思いながら。

「なんにしても、これからまだまだやる事がいっぱいだ」

父の意志を継ぎ兵士長になったヘイアスは、シュネリアのために今日も行く。
彼女の本当の想いを知らぬまま。
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