無性に腹が立っていた。
耳から入ってくる感情とは裏腹に、俺はキレる寸前だった。
薄い壁からは、延々と笑い声が聞こえている。
もう2時間にもなる。
朝方からの激しい雨で家にこもっていたらこれだ。
一体なにが楽しいんだ。
こんな安アパートで1人暮らししてるくせに。
俺と同じ身分のくせしやがって、なにがそんなにおかしい。
そう独り言ちていたが、だいたい答えはわかっていた。
彼女がいるからだろう。
何度か隣のヤツとはすれ違ったし、そのときに女を連れていたから、そいつが彼女だろう。
聞こえてくる笑い声には、女の哄笑も混じっている。
いいご身分だ。
2人分の笑い声は、まるで俺を嘲笑っているように聞こえる。
どうせオレは3年も一人身だよ。
それから俺はなおも耐えた。
辛抱強いのは、俺の長所だ。
けれど、さすがに我慢の限界だ。
俺は握り拳を固め、立ち上がった。
するとパッと窓の外が光った。
目をやると、空気を揺るがすような雷鳴が響いた。
そしてバチンと鳴るとともに、部屋が真っ暗になる。
一目で停電だとわかった。
視覚がさえぎられると、雨音がうるさく聞こえた。
そして、いつのまにか笑い声は消えていた。
雷にビビったと踏んで、俺は壁に耳を付けた。
聞こえてきたのは、泣き声だった。
急にバンと耳元でなにか鳴ったと思うと、隣から小声で叫ぶのが聞こえた。
「こんな別れ方ってねーよ……」
一瞬で光がついた。
電気がもとにもどったと思うと同時に、部屋の隣から笑い声が響いた。
俺は、なんとなく理解した。
さっきまでの哄笑は、俺に対してではなく隣の部屋のヤツに対しての嘲笑だったように聞こえていた。
耳から入ってくる感情とは裏腹に、哀しくなるのが不思議だった。
雨脚は、まだ強くなりそうだ。 |