第6節
◇Fia side
――まだ、生きてるんだ。
目が覚めるたびに思う。
全く動けないのに、声も出せないのに、ほとんど飲まず食わずなのに、それでもフィアは死なずに居た。
だから思う。もう少し、生きてみようと。
せめて今日は、出来たら明日も、そう思って気づけば数日が過ぎていた。
そのことに自分でも驚く。捨てられた時にはもう、その日のうちに死ぬだろうと、自分でも思っていたのだから。
ただ、良くなるようには思えなかった。残念ながら自分の身体に、そういう気配は全く見えない。
それでも。
あの助けてくれた彼――ニールと言うらしい――が、ことあるごとにフィアを覗き込んでは話しかけ、頭を撫で、スープなどを食べさせてくれ、励ましてくれる。
それが嬉しくて応えたくて、フィアは必死に生きていた。
この身体では、何も返せない。
それならせめて、「がんばれ」と言う言葉に応えたかった。
館に居た時は、こんなふうに面倒をみてもらうことなどなかった。誰もが自分の身を守るのに必死で、他人まで手が回らなかった。
だからそれしか知らずに育ってきたフィアには……この暖かさは天上にも匹敵するものだったのだ。
まどろみながら、人の気配を感じて目を覚まし、少し相手をしてもらってまたまどろむ。
フィアが目を覚ますたび、身体が弱いらしいお姉さん――こちらはイルゼと言った――も、とても喜んだ。
最初はそんなに起きていて大丈夫なのかと、ぼんやりとした頭で考えたりしたが、どうも平気らしかった。話し声を聞いていた限りでは、どうやら振ってわいた妹?の面倒を見るのが楽しくて、体調が良くなったのだという。
それなら尚更と、フィアも自分を励ます。
――もう少し、生きられるところまで。
――みんなが、悲しまないように。
だからその時も、話し声で目を覚ました。
フィアが目を覚ましたのに気づいて、彼が頭を撫でてくれる。
「ちょっと出かけてくっから。帰ってきたら、旨いモノ食わせてやっからな」
言えない『いってらっしゃい』の代わりのつもりで微笑むと、彼も笑った。
と、視界に入ったものにはっとする。
何かは知らない。見たこともない。
だが、身体の奥底から何かが告げた。『あれ』が必要だと。
必死に手を伸ばす。
指先だけでも触れれば、それで十分なはずだ。本能がそう告げている。
「おい、どした?」
フィアの様子に、彼が気づいた。
「これか?」
必死にうなずく。
不思議そうな表情のままフィアの手に、彼がその宝石を握らせた。
「え……?」
彼の驚いたような声と共に光が満ちる。
心が大きく息をつく。
――生き延びた。
全身がそう謳った。
まだ辛いが、身体は動く。そのままフィアは、ベッドに手を付いて起き上がった。
「フィア?」
「ごめんなさい、だいじょうぶ……」
久しぶりに、自分で自分の声を聞く。
「動けるのか?」
「――はい」
ずっと寝ていたせいだろう、まだ少し辛い。が、それだけだった。動けなかったほんの少し前までとは、雲泥の差だ。
「こーゆー使い方するもんだったのか」
「いえ、普通はちょっと、違うんですけど……」
訊かれて、説明に窮する。
取り込んだ今なら分かるが、これは精霊の類だ。「力ある石」とも言われる。
それでも瀕死の病人が治るとは思えないのだが……自分の場合は、この石の力が上手く作用するらしかった。
ただ、これが何かも知らない相手に、どう説明したら理解出来るのかと困り果てる。
が、先に彼のほうが諦めた。
「まぁいいや、治ったんだから」
結局はそういうことだ。
戦乱の続く今の世の中、過程や理由をとやかく言う人間は少なかった。過程よりも、食べられた、生き延びたという結果の方が重要なのだ。
彼が優しい笑顔を向ける。
「あ、まだ寝てろよ? ずっと寝てたんだから、急に動いたらまた倒れるぞ」
うなずいて横になると――実際ずっと起きているとまだ辛い――彼が毛布をかけてくれた。
「なんか食いたいものあるか?」
「えっと……」
ずっと食べていなかったせいか、さすがにまだ食欲がない。
困っていると、隣からお姉さんが口を挟んだ。
「それよりニール、フィアの服が先でしょう?」
「え? あ……」
突拍子もないことを言われて、今度は彼が答えに窮する。
「あ〜、それえーと、明日にでも俺……じゃなくておばさんに頼んで見繕ってもらって、とりあえず今日はなんか旨いモノ――」
女物の服と言うのが効いたのだろう。慌てぶりがおかしい。
久しぶりにこんなふうに笑った。そう思いながらフィアは、起き上がりながら切り出した。
「そしたらあの、あたし、お湯……」
「だから寝てろって。そのうち元気なったら、やってくれればいいからさ。
ともかく今日はおばさんも呼んで、みんなで快気祝いだ」
じゃぁ行ってくると、足取りも軽く出て行くニールの後姿に、フィアも嬉しさを覚えながらまたベッドにもぐりこんだ。

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