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第24節
 道を行くとだんだん、行き会うひとたちの様子が酷くなってった。埃まみれでボロボロってだけじゃなくて、どっかケガしてる人が多い。道端にしゃがみ込んでる人や、中には倒れて動かない人もいた。
 たぶんさっき言ってた、「ぜんぶ吹っ飛んだ」ときに、こうなったんだろう。
 まだ半分程度しか来てないのにこれじゃ、王都はこないだ俺らの町が魔物に襲われたとき以上に、ヒドいことになってそうだ。

――これを、フィアが。
 背筋に冷たいものが伝う。
 何かふつうとは違う、とんでもないモノを持ってるのは分かってたけど、こんなのもう人じゃない。
 そう思うと怖くなって、足が止まった。
 あの寂しげな表情を思うと、行かなきゃダメだと思う。けど、足が動かない。

「――そこの坊や」
 とつぜん、誰かに声をかけられた。
 あたりを見回す。
「私よ」

 いつの間にか、背の高い女の人がすぐ横に居た。
 フードを目深にかぶってて、手には杖。外套はびっしり、不思議な紋様で縁取りされてる。どう見ても、どっかの魔道士ギルドに属してるとか、長年経験積んだ占い師とか、そんな雰囲気だ。

「ちょっとこっちへいらっしゃい。あなたと、話さなきゃいけないことがあるようだから」
 自分でもワケが分からなくなってたせいか、この人に言われるまま、俺は街道から離れたところまで行く。
「さて、と。ここなら誰も、聴く者もないわ。
――坊やはあの、巫女さまの知り合いね?」
 驚く俺に、女の人が笑った。

「そんなに驚かなくていいわ、この水晶玉が囁いただけ。世の中には不思議なことは、ゴマンとあるのだし。
 さ、坊やも座りなさい」
 野原の中にいくつも転がる大きな石のひとつを、俺に勧める。

「いい子ね。さて坊や、巫女さまをどう思う?」
 とっさに答えられなかった。
「怖い?」
 下を向く。
「怖いでしょうね。でも、それがふつうよ」
「え?」

 この人は笑って言った。
「人は自分より強いものを、恐れるもの。殺されるかもしれないから、それは当たり前。だから、おかしいことじゃないわ」
 女の人がそこで、一回言葉を切る。
 ふっと、風が通ってった。

「けど坊や、いちばん怖かったのは、いちばん辛かったのは、誰かしら?」
「あ……」
 そんなこと、考えるまでもなかった。それは間違いなくフィアだ。
「行っておあげなさい。あの子、待ってるから。
――そうそう、そのペンダントを貸して」

 言われるまま、俺はずっと持ってた、フィアのペンダントを差し出した。女の人が手をかざして、何か呪を唱える。
「これで、あの子の居場所が分かるはず。さぁ、早く行きなさい」
 俺に返しながら、この人が急かす。
 ペンダントを握るとたしかに、なんとなくフィアのいる方向が分かった。

「ありがとう――え?」
 視線を上げてお礼を言おうとしたときには、女の人の姿はない。
 首をひねりながら歩き出すと、また違う人に呼び止められた。見るからに調理人って格好の、恰幅のいい人だ。

「あんた今、女の人と話してなかったか?」
「ええ。でも急に、いなくなっちゃって」
 俺の答えに、調理人がなんとも言えない表情になる。
「俺は以前城の調理場で、長く働いてたんだが……あの人、ずいぶん昔に亡くなった、太后様だよ」
「え……」

 背中があわ立つ。
 太后さまってたしか、今の王の母親のことだ。その人が、とっくに死んでるのに、俺の前にいたってことは……。
 おじさんが話を続ける。

「もともとは、力のある魔道士だったらしい。城のお抱え占い師になって、よく当たるって評判で、前王のお妃になったんだ。
 亡くなられたあともこの国を心配して、ときどき姿を現すって、もっぱらの噂なんだよ」
「そうなんですか……」

 そんな人がいたのに、なんでこんなことになったのか。
 そもそもなんで、そんな人が俺のとこに出たのか。
 思う俺の背に、風が囁いた。
――あの子もあの人も、昔はあんなじゃなかった。私が、死ななければ。

 声が空に舞い散る。
――巫女の末裔よ、許して。国の者たちよ、許して。

 そして最後に、俺の耳元で。
――行ってあげて、あの子のところへ。
 フィアのペンダントを握り締めて、俺は歩き出した。

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