第23節 再会
◇Neal
「王都が、壊滅?」
あと一息で王都ってとこにある宿場町の、貸し走竜の小屋で、俺は思わず聞き返した。
「ああ。二日前の話だよ。とつぜん何もかも吹き飛んだとかで、かなりの人が逃げてきてる」
だから王都へ行くなら走竜は貸せない、ってことらしい。
貸し走竜は、この国ではちょっと大きな町や宿場ならどこにでもある、よく知られたシステムだ。俺みたいな旅人はお金払って、走竜と特殊な魔法の手綱を借りて、次の目的地まで乗っていく。
たまに行方をくらまして走竜を盗もうってヤツもいるけど、魔法の手綱の効力がそんなに長くない。しかも切れると、走竜が暴れ出すようになってる。
「王都の貸し竜舎は跡形もないっていうし、かといってここからじゃ、王都と往復するほど効力は持たないしね。戻る前に暴れ出してしまうよ」
盗難防止のためだから、走竜の暴れはハンパじゃない。殺すしかない、っていわれるほどだ。
「すまないね」
「いえ、大丈夫です」
ここでゴネても仕方ない。
姉貴やドクターに悪いと思いながらも、別邸を出たあと、俺は貸し走竜を乗り継いでここまで来た。急ぎたかったのと、さすがに歩いてくのは自信なかったからだ。
そうやってやっと昨日の夕方、王都の近くまでたどり着いたとこだった。
で、今朝また借りていよいよ王都へと思った矢先、さっきの話だ。
一昨日起こった騒ぎなら、昨日にはこの宿場にも報せが届いてたはずだ。ただ俺は夕方ここへ着いてメシもそこそこに寝ちまったから、知るチャンスを逃したんだろう。
ともかく立っててもしょうがないから、歩き出す。ただひさびさに荷物背負って自分の足で歩いたせいか、思ってたよりキツい。
王都からここまでは、歩くと半日くらいの距離だ。けどこの調子だと、日暮れ前になりそうだった。
街道は、意外に人の姿があった。走竜や自分の背、荷台なんかに荷物をいっぱい持ってる人が多い。たぶん王都に親戚がいるとか、そういう人たちが様子を見に行くんだろう。
その人たちに混じって、黙々と歩く。
逆方向から来る人たちにも、けっこう会った。こっちはみんなボロボロで、荷物を持ってる人のほうが少ない。
「――リャノ、リャノじゃないか!」
「兄貴!」
少し先で声が上がった。向こうから逃げてきた人とこっちから向かってた人が、上手く行き会ったらしい。
「心配で、食べ物を持って行くところだったんだ。無事だったのか!」
「あぁ、うちはみんな無事だよ。公開処刑に行かなかったおかげで、助かったんだ」
なんか物騒な言葉が聞こえる。
「隣は夫婦で公開処刑見に行ったっきり、行方知れずだよ」
「人様の死にざまをわざわざ見に行ったりするから、バチが当たったんだろう」
俺は思わず声をかけた。
「あの、何があったんですか?」
俺に視線が注がれる。
「あんたも誰か、王都に知り合いがいるのか?」
「兄貴、いま王都へ向かう人で、そうじゃない人居ないと思うぞ」
「それもそうか」
突っ込まれて、兄貴が頭掻いた。
「王都で何がって、どこから言えばいいかなぁ」
弟のほうが、考え込みながら話し始める。
「ともかく公開処刑で火あぶりがあるって話で、けっこうみんな見に行っちまってさ。けど俺そういうの苦手なんで、行かなかったんだ。
それで開始の鐘がなったと思ったら、わりとすぐ、いきなりぜんぶ吹っ飛んじまったんだよ」
王都に居た人たちも、よく分からないほど、とつぜんだったらしい。
「王城はぜんぶ、崩れちまったってさ。俺の家からでも、塔とかなくなっちまったの分かったから、ホントだろうな。
広場はいちばん酷くて、でっかい穴しか残ってなかったらしいし」
最大クラスの古竜が大暴れしたとかくらいの、ものすごい状態みたいだ。しかもそれが一瞬でっていうんだから、どんだけ被害がでたかなんて、想像もつかない。
「でもなんで、そんなことに」
「ぜんぜんわかんねぇよ。でもウワサじゃ、公開処刑のせいだろうって」
知り合いに会えてほっとしたのもあるんだろう、この人熱っぽい調子で、どんどん喋る。
「公開処刑か……。それにしても、火あぶりってのは相当だな。いったい何やらかしたんだ?」
「それも、よくわかんねぇんだよな」
ほんとに、いろんなことが謎のまんまみたいだ。
「何日か前にお触れがあって、『巫女の末裔』さまとやらが、この国に来たって。お披露目があったんだ」
出てきた言葉にはっとする。
「あの、それで?」
「え? あぁ、それで何日かしたら、こんどはそれがウソだったって。だからそんな大罪人は、火あぶりって話だった」
フィアのことだ。
フィアをムリに連れて行っておいて、何か思惑と違ったから、殺そうとしたに違いなかった。
「ただ俺はさ、なんか違う気がすんだよな。あの王様のことだから巫女さまってのはホンモノで、でもなんかムチャ言って断られて、そのせいで火あぶりじゃねえかなって」
「ありそうだな……」
俺の居た町は王都から遠くて、王様とかあんま関係ないから、好きとか嫌いとかって話もなかった。けどこの辺じゃ、けっこう嫌われてるらしい。
「このあいだもどっかの使者を、無礼働いたとかで、首切って晒してたからな」
王様ってのは、かなり血の気の多い人みたいだった。
「その巫女って、どうなったか分かりますか?」
何か少しでも、分からないかと訊いてみる。
男が考え込みながら答えた。
「吹っ飛んだあと、ぶち切れた連中が殺してやるっつって、探して見つけたっては言ってたな。ただそいつらもやられちまったから、そのあとはどうなったか……」
とりあえず、そのとき生きてたのは確かみたいだ。
「俺、やっぱりこのまま王都行ってみます。あいつまだ、いるかもしれないんで」
「そうか、気をつけてな。会えること祈ってるよ」
別れてまた歩き出す。

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