第2節 出会い
◇Neil
「遅くなっちまったな……」
独り言をつぶやきながら、俺は通りを駆けてた。
いい加減陽が落ちかけてて、そろそろ行きかう人もまばらだ。
――近道するか。
縄張りに入ったならともかく、この辺はまだそこからちょっと遠い。なのに日が落ちてからもウロついてたら、場所が場所なだけにヤバかった。
建物の間の、路地っていうより隙間に入り込んで、次の通りへ一気に抜ける。
それを繰り返して何度目か。
「っと――」
暗い物陰をうっかり見落として、俺はなんかにつまづいた。
けっこうデカイ。
「ったく、こんなど真ん中に、こんなでかいモン――!」
悪態つきかけて、途中で言葉を飲み込む。
ボロ布かなんかだと思ってた塊から、足が出てた。
――それも、人間の。
ただ、そんなに大きくない。たぶん十歳くらいの子供だ。
死体。
その言葉が真っ先に、脳裏に浮かんだ。
この辺りじゃ……時々ある話だ。
交易で栄えてるこの街だけど、貧民街はひたすら貧しい。スリ、かっぱらいは当たり前だし、コキ使われまくったり食いっぱぐれたりで死んだ人――けっこう子供が多い――がこうして道端に放り出されてることも、たまにはあった。
しゃがみこんで、そっと毛布をめくる。
――うわ。
見られないようなのを想像してたけど、違う意味で絶句する。
淡い色の髪。陶器みたいな肌。真っ白な衣装。「汚れてない」って言葉が似合う、人形みたいにきれいな女の子だ。
どっかケガした様子はなかった。だからたぶん、病気か衰弱死だろう。
ふつうはこれほどきれいな子なら、どっかの金持ちに売られてそれなりの暮らしが出来る。
もちろん奴隷扱いだけど、食いっぱぐれることはないし、運が良けりゃ養子にしてもらえることだってあった。
万が一大人になる前に病死とかしても、道端にそのまま放り出されるなんてことはない。家の墓地の隅っこくらいには、入れてもらえるはずだ。
なのにこんなとこに死んで放り出されてるってのは、そんなちょこっとの幸運にさえ見捨てられて、独りっきりでここまでやっと生きたんだろう。
かといって、この辺の通りの子でもないはずだった。
これほどの美少女なら、どこの縄張りに居ても噂になる。けど、見たことも聞いたこともない。
だからたぶん、どっかこの辺のとんでもない店に売られてきて、店の奥でコキ使われてたはずだ。
で、病気かなんかのお決まりのパターンで……死んで放り出されたんだろう。
「ひどいよな……お前が悪いワケじゃないのに」
せめて町外れの共同墓地に、そう思ってこの子をくるみ直して抱き上げようとして。
――生きてる?
触れた肌がまだあったかい。
「おい!」
ゆすって軽くはたくと、この子がうめいてかすかに目を開けた。
透き通った、そんな感じの瞳。それが少しの間さまよった後、俺の方へ向けられる。
子供らしくない諦めきった表情に、寂しい微笑みが浮かんだ。
――ありがとう。でももう、いいの。
そう言ってるのが分かった。
「だめだ、死ぬな!」
思わず言葉が出る。
もう長くなさそうだけど、でも目の前で出会った子に、こんな死に方させたくなかった。
薄汚れた建物の裏で、ボロ布にくるまって虫にかじられながら独りで死ぬのを待つなんて、まともな死に方じゃない。
せめてベッドの上で、そう思って、この子を抱きなおす。
「もうちょっとがんばれ、いいな?」
ぐったりしてるこの子に声をかけながら、抜け道を急ぐ。家はここからならすぐだった。
古い石造りの階段を駆け上がって、ドアの前で騒ぐ。
「姉貴、開けてくれ!」

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