第19節
入れ替わるようにして、一団が部屋へ入ってくる。
つい警戒したイルゼに向かい、一行のリーダーは気さくに話しかけてきた。
「お若いが、立派なかたですな」
「あ、はい」
先日の白鎧たちとは、少々違うようだ。
「失礼ですが、こちらの奥方ですか? それとも妹君でしょうか?
ともかく、椅子にかけてたほうがいいのでは? だいぶ顔色がお悪いですぞ」
「あの、でも、お客様が立っているのに座れません」
イルゼがそう返すと、一行の誰もが優しい笑みを見せた。
「我々は慣れているので。
けれどあなたは、だいぶお疲れのようだ。遠慮せずに座ってください」
再度勧められて、イルゼは腰を下ろした。正直なところ、立っているのは辛かったのだ。
「奥に、怪我人がいるようですが」
「はい。私の……弟です」
一行の間に、軽い驚きが走った。
「それはなんとも……ですが、なぜ?」
もっともな疑問だった。庶民が兵に剣で突かれるのは、滅多にあることではない。
イルゼは少しの間迷ったが、彼らに事の顛末を話した。フィアを守ろうとして傷つき、彼女は連れ去られてしまった、と。
「――遅かったか」
思いもしなかった言葉に、ついオウム返しに聞き返す。
「遅かった、とは?」
「言葉どおりです。もちろん、我らの予想が正しければ、ですが。
できればその少女のことを、詳しく聞かせてもらえませんか?」
乞われて、イルゼは話し始めた。路地裏に捨てられていたこと。とても弱っていたこと。不思議な石を手にしたとたん、元気になったこと。街を魔物が襲ったとき、魔法で退けたこと。荒れ狂う風から、自分たちを護ってくれたこと。そして、津波を食い止めたこと……。
「間違いありませんな」
「ああ、まず間違いないだろう」
話を聞いた一行が、囁き交わす。
「あの、いったい何が」
不安になったイルゼが訊ねると、こんどは一行のリーダが話し始めた。
「フィアというその子は、おそらく我々の一族に言い伝えられている、“人の守り手”です」
「ひとの、まもり、て……?」
初めて聞く言葉だった。
リーダーがうなずいて続ける。自分たちの一族には、災厄から人々を守る者が、生まれると言われているのだと。
「じつを言えばほんの十年ちょっと前まで、誰もがそれはただの言い伝えだと、思っていたのです。
ある日、何かが囁き出すまでは」
聞けば十年ちょっと前のある日、一族の占い師が一斉に、「守り手が生まれる」との暗示を受けたのだという。それは誰がどんなカードを引いても、どんな香を焚いても、すべて同じだった。
「それでも当時は、薄気味悪く思うものがいる程度でした。
ところが十年前、一族のものが全員同時に、守人が生まれたと感じたのです」
さすがにこれは何かある、そういう話になり、守人探しが始まった。
言い伝えでは守人は、一族の中に生まれるという。それなら最近生まれた子どもの誰かだろうと、片っ端から調べて回ったそうだ。
「けれどみな違いまして。
散々悩んだ挙句、一族を捨てた誰かの子かもしれないということになって、捜索が始まりました」
だがそれでも見つからず、いい加減諦めかけていた折に、今回のフィアの話を耳にしたのだという。
「それで、この家に?」
「ええ」
津波を止めた少女なら、何かあるに違いない。そう思って訊ねてきたのだそうだ。
「一歩、遅かったようですが」
本当にそうだと思う。ほんの少し早く来てくれれば、ニールもフィアもこんなことに、ならなかったかもしれない。
そこへ、魔法医が戻ってきた。
「どうした?」
「いま出来ることは、すべてしてきました。ですが、霊液が足りません」
魔法医の話ではニールは、いま急に死んでもおかしくないほど、危なかったらしい。
「その場で応急手当がされたのと、そのあと医師が続けてきちんと診ていたために、どうにか生きていられたのでしょうね」
今は魔法で強引に、命を繋ぎとめているのだそうだ。ただそれはあくまでも「繋ぎとめている」だけで、治すには至らないのだという。
「治すには特殊な結界を張り、その中にしばらく居ないとなりませんが、その結界を描くときに使う霊液が……」
それがなくては、どうにもならないらしい。
「インクか何かで代用できないのか?」
「ペンのインクと、いっしょにしないでください」
つまり、ダメなのだろう。
「なら、家の者に持ってこさせては?」
「その間に、あの少年が死にますよ。
ともかくこの街の魔道士ギルドに行って、掛け合ってきます。ただこの被災状況だと、使いきっている可能性が高いので、手に入るかどうかは」
八方ふさがりということのようだ。
要するに、その霊液とやらがあれば、いいのだろうが……。
「――あっ!」
思い出して、思わず声を上げる。

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