第15節 招聘
◇Neil
フィアはまた、何かと寝込むようになった。
っても、最初よりはずっといい。あんなふうにまったく動けないわけじゃなくて、ちょっと起きるとすぐ疲れて、って程度だ。
原因は……あの津波の時のことで、間違いないだろう。
いま居るのは丘の裏側の、ドクターの別邸だ。
丘の上にあった館のほうは、あの爆風で半壊した。町を追われて身を寄せてた人たちも、かなりの数が巻き込まれて、怪我したり亡くなったりしてる。
ともかく住めるような状態じゃなくて、仕方なく俺たちはあそこを捨てた。
ここは向こうよりかなり狭くて、同じくらい荒れ果ててるけど、まだ住めるだけマシだ。いまじゃ町のほうも、住める場所なんてほんの少しになってる。
貧民外は、文字通り壊滅。町の繁栄を担ってた港も、爆風でやられた船の残骸とか、そういうのがあって使えない。城壁に守られた市街の一部が、どうにか生き延びた感じだった。
すべてが動かなくなって、町の人間のかなりが、領主からの配給で食いつないでる。
「この町に、いつまで居られるんかな」
「そうねぇ……」
ドクターが駆り出されて居ないあいだに、姉貴とこれからのことを話す。ずっと厄介になるわけにもいかないし、何よりこういうことになった町は、先行きがたいていヤバい。
港さえ動き出せば、まだ荷が来るからどうにかなりそうだけど、見通しは立ってなかった。
そういうのを考え合わせると、ここを出るって選択肢も、十分ありそうだ。
「隣町とか、噂じゃどうなの?」
「ここよりマシだけど、そんでもこないだの爆風で、だいぶ被害出てるってさ。
そこへこの町からけっこう避難民が行ったんで、摩擦起きてるらしい」
どこの町だって、新参者ってのは歓迎されない。俺らが故郷捨てたあとここに落ち着いたのも、この町がここらじゃいちばん大きくて、新参者をそれほど嫌わなかったからだ。
加えて天災で被害が出てるんじゃ、町にも余裕なんてあるわけがない。
穏便になんていくわけなかった。
「だとすると、ここでどうにかやってくか、どこかもっと大きいところへ行くかよね」
「もっと大きいって姉貴、それいちばん近いの王都だぞ?」
王都ってだけあって、この国でも最大だけど、代わりに軍やなんかも最大規模だ。ほかに古くから下町を牛耳ってる連中もいるとか、あんまりいい噂は聞かない。
「それにさ、いまフィア動かせねーし」
弱ってるのに引越しとか、よけい悪くするだけだ。
ともかくしばらくは様子見て、それから考える。それ以外にやりようがないだろう。
そのとき、乱暴に戸が叩かれた。
「誰かいないのか!」
言い方といい叩き方といい、何か横柄だ。
顔を見合わせてから、俺らは急いで戸を開けた。
「王立、軍……?」
外に居たのは、白く輝く鎧の一団だった。甲冑の胸に燦然と輝く王国の紋が、所属と権威を物語ってる。
「ノエアド伯爵の住まいに相違ないか?」
ノエアドってのは、ドクターの名前だ。
「はい、そうです。でもここの主人は、いま出かけておりまして……」
姉貴が答える。
「さようか。だが今日は、伯に用ではない。ここに年のころは十ほどの女の子が、いると聞いたが」
フィアのことだ。
どう答えようか迷ってると、鎧の一団の間から、上等な服を着た初老の男が前へ出てきた。どこかで見たことある顔だ。
「君らはなんだね? 物取りではなさそうだが――小間使いか?」
いきなり神経逆撫でするような事を言う。
「私たちは先日の騒ぎで家を失くしまして、ここで世話になっている者です」
さすが姉貴、冷静だ。
「そうか。ならば入らせてもらう」
けどエラそうな態度で、強引に入ってこようとする。
「ちょっと待てよ、あんた誰――」
「無礼者!」
耳がどうかなりそうな大喝とともに、白鎧に突き飛ばされた。
「よいよい、下々がこの顔を知らぬでも、やむを得まい。ここの領主、ドムイヌじゃ。忘れぬようにな」
ここの領主って言えば、たしか国王に近い血筋の人で、貴族の中でもトップクラスの有力者だ。それを考えると、かなり気さくな人なんだろう。
けどこの言い方とか、悪意なく見下されてる感じだった。
「して、ここに娘御はおるのか? 先日の津波を食い止めた、巫女の末裔がおると聞いたのだが」
「巫女の、末裔……?」
何のことだか分からない。でも、フィアに関係あることなんだろう。

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