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第12節
◇Neil
「おーい、あがっていいぞー」
 下のほうから親方のデカい声がする。
「あ、はいー」
 答えて俺は荷物の山から降りた。

 あれから数日。あの橋とやらは今んとこ、それ以上何もない。
――夜は不気味だけど。
 月が昇ってくると、ぼんやりした橋が夜空に見える。
 でもそれだけだし、そんなことより食うほうが先だから、俺初めみんなどっか働き口見つけて働いてる。

 街は、マジでヒドかった。
 聞いた話じゃ俺らが抜け出した後、かなりヤバいことになったらしい。魔物と炎とに追われた連中が市街への城門へ押し寄せたけど、市民連中が門を開けるわけない。
 けっきょく最後は魔物が門を破って中まで入っちまった――ザマみろってんだ――らしいけど、そいつらが通り過ぎた後は死体の山だったっていう。
 貧民外で助かったのは桁外れに運が良かった連中と、どうにか港方向へ逃れられた連中、後は俺らみたいにいち早く街を捨てたヤツだけだった。

 焼け落ちた街の中を通って、港へ向かう。
 市場のあった広場は今、家なくした連中の住み場所になってて、物の売り買いとか出来ない。
 ただ逞しいもんで、ほとんど無傷だった港には翌日から船が出入りしてるから、そこでみんな働いたり売り買いしてた。どうにか難を逃れて、先生の屋敷に身を寄せた連中も、ほとんどが港で働きだしてる。

 ヤな言い方だけど、貧民街の被害が大きかったせいで、港とかの荷運びはワケわかんねーほどの人不足だ。だから五体満足で働けるヤツは、いくらでも働き口があった。
「親方〜?」
「おう、来たか。
――嬢ちゃんも偉ぇなぁ。あんまムリしねーでいいかんな? 途中でもなんでも終わりにするんだぞ?」
 親方、その猫なで声ヤメてくれ。鳥肌立つ。

「えっと、あの、大丈夫です……」
 律儀に答えるこいつもこいつだし。
 この親方、あの晩はとうとう最後まで気がつかなかったっていうからスゴすぎる。酒かっくらって船の上で寝てたらしいけど、朝になったら街が丸焼けで、酔いがいっぺんで醒めたってた。
 おかみさん――こないだフィアが助けた人だ――の方も、あの晩は運良く隣町の親戚の家に行ってたとかで、夫婦そろって難逃れしたっていう。

 だから翌日俺が顔を出したら、この騒ぎで同業が死んじまったって嘆きながら、港の荷降ろし作業を一手に引き受けてた。
 当たり前って言えば当たり前だけど、その場で俺も捕まって働かされたし。
 オマケで、一緒に来てたフィアまで捕まった。
――自分でわざわざ捕まった、っても言うだろうけど。

 荷の計算してたヤツもあの晩亡くなっちまったらしくて、親方が困った困った言ってたら、フィアが自分から名乗り出ちまった。
 ってもこいつのことだから、下向いて消えそうな声で、「簡単な計算なら出来る」って言っただけだけど。
 どっちしても、計算がちゃんと出来るヤツってのは数が少ないから、その場で親方に雇われた。

「おーい、フィア、テキトーなとこで終わりにして帰んねーと」
「あ、うん」
 律儀なフィアを、仕事から引き剥がしにかかる。
「ずっとやってるとキリねーし、みんなの帰りも遅くなっちまうぞ?」
「あ……!」
 どんな時でも他人優先のフィアには、この手の説得がかなり効く。

「そうだぞ嬢ちゃん。
 どうせ嬢ちゃんのことだから、仕事自体は終わってんだろ? ほら、暗くならんうちに帰んな」
 だから親方その猫なで声、気色悪りぃってば。
 ともかくフィアが手を止めて、どうにか帰る体制になった。

「ほれ、今日の働き賃だ。
 ほら嬢ちゃん、小遣いもあげような。あと、土産ももってくといい」
 だ、だから親方ぁ……。
「ニール……?」
 親方の猫なで声にアテられて脱力した俺を、フィアの透き通った瞳が覗き込んだ。

「だいじょうぶ?」
「あ、へーきへーき、気にすんなって」
 大丈夫じゃないとか、言えるワケない。
「さ、今度こそ帰るぞ」
「うん」

 フィアと連れ立って、壊滅しまくった街を抜ける。行き先は当たり前だけど、ドクターの屋敷だ。
 時間が合わなかったのか、屋敷から来てる他の連中の姿は見えなかった。
 丘へ続く道を、並んで歩く。

「お〜い」
「あ、ドクター」
 麓の門の辺りで、ドクターと姉貴とに出くわした。
「仕事、いいんですか?」
「いやぁ、さすがに疲れてね。迎えを兼ねて散歩さ」

 今、屋敷は怪我人だらけだ。
 なんせあの騒ぎだったし、しかも普通の医者は貧乏人なんぞ診やしない。
――つか、診てもらっても金払えないし。
 そんなわけで、運良くここまでたどり着けた怪我人で、屋敷はあふれてる。

 もちろん一緒に逃げた隣のおばさんとか付き添いとかが手伝ってるけど、治療は一手に引き受けてるわけだから、ドクターの仕事ったら半端じゃないはずだ。
 で、抜け出してきたってことらしい。
 姉貴はまぁ……よーするにオマケでついてきたんだろう。

「仕事はどんな感じ?」
「ちっと忙しいけど、いつもどおりだからな〜」
 答えたら睨まれた。
「あなたに訊いてないわよ。
――フィアちゃん、疲れてない?」

 姉貴ひでぇ。
 けどだからって、ストレートに怒れないのも辛いとこだ。フィアが気にするし、つかこいつが大事にされるの、俺も嬉しかったりするし。

「さ、1日分の話があるのは分かるけど、戻ったほうがいい。話は歩きながらでも出来るしね」
 ドクターに促されて、みんなで歩き出す。例の屋敷は丘の上だから、延々上り坂だ。

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手のひらの上 筆者の童話(?)短編です。
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