転ばす人
小学生の時、T君という友人がいた。
彼の住んでいた家には、不思議なルールがあった。――それは、二階に上がる階段の四段目を踏んではいけないということ。
踏むと、階段を転げ落ちてしまうのである。
――ある日、彼の家で遊んでいた時のこと。やることがなくなり、“かくれんぼ”をしようとなった。彼の家は広く、隠れるところがたくさんあったのだ。
T君が最初の鬼に決まり、私たちは隠れるために家の中を駆けた。私も、隠れる場所を探す。
私が目をつけたのは、階段下の収納スペースだった。扉を勢い良く、開ける。
――中には、男が居た。大人の、がりがりに痩せた男だ。
男は、その中にある階段の段差――ちょうど四段目の辺りをジッと見つめている。
しかし、扉を開けた私に気付いた様で、ゆっくりとこちらを向いた。
私は、男が完全にこちらに顔を向けてしまう前に、扉を閉める。
「あっ」
閉まる瞬間、中からそう聞こえた。
――私は目を瞑って数を数え続けるT君に「帰るね」とだけ言って、一人で帰った。
二度と、T君の家には行かなかった。