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怪物…恐怖…トカゲ男
作者:SMILE
 『夏休み怪奇スペシャル! H県I市にUFO現わる! N県山中にトカゲ男発見か!?』

 ダダダーン! と、けたたましい音とともに書きなぐったような文字でTV画面いっぱいにタイトルが踊る。

「こんばんは、今年も始まりました、怪奇スペシャル。今夜はこちらの皆さんと数々の謎を追っていきたいと思います。」

 司会者は興奮気味に、しかし淡々と番組の開始を告げた。
僕は今、自分の部屋でビールを飲みながらこの番組を見ている。毎年恒例の特番だ。実は、この番組には僕も関わっていた。とは言っても、端役のスタッフとしてだが…。

 もちろん、僕は番組の内容を知っていた。どう展開し、どう終わるかを。にもかかわらずこの番組を見ているのは僕なりの礼儀だった。僕の人生を変えてくれた、いや正確に言えばこれから変えてくれるきっかけを与えてくれた番組への。



 我が「トカゲ男」チームは7人だった。少数精鋭と言うわけではない。今回のスペシャルのメインはUFOだったので人員もそちらに多く取られただけのことだ。その中でも僕は雑用係のようなもので、扱いは一番下だった。

 僕らの仕事の段取りはこうだ。まず、周辺の住民から聞き込み。過去のトカゲ男の目撃例、資料の収集。そして我がチームの目玉、『トカゲ男、捕獲大作戦』だ。

 聞き込みと資料集めには他のメンバーが向かったようで、その他の数人と僕は捕獲用の罠の部品と思われる鉄パイプの束を載せたトラックとともに山へ向かった。

 予想通り、山に着くと罠の組み立てが始まった。熊でも捕まえるつもりだろうか。かなり大きな檻だ。一個組み立てるのも一苦労な檻を十個作り上げる。

 全部が出来上がったのは真夜中だった。暗闇の中では罠の配置は難しいので、明るくなるまで車の中で仮眠をとることになった。外は夏も近い季節だったが、空気はひんやりと張りつめていた。暗闇の中に潜む何か。何かに期待しながら、僕は眠りに落ちた。

 辺りが明るくなると、罠の設置に取りかかる。僕らは山のあちこちに罠を仕掛けた。無骨な鉄の箱に期待しつつ、僕らは山を後にした。

 
 そして、罠を仕掛けてから三日目の朝。僕らは山へ向かった。本番用の思わせぶりな撮影をする前に、罠の下見に行くことになっている。チームリーダーの河崎がつぶやいた。

「罠の下見、行くのは山下一人でいいだろ。どうせ何もかかってないだろうし、見てくるだけだ。」

「あ……はい。わかりました。」

 リーダーの命令には逆らえない。仕方なく僕は従う。

「おい、山下。」

 河崎は片手持ちのハンディカメラを僕に渡した。

「一応、それ持ってけ。なんかあったら撮っとけよ。使えるかも知れねぇからな。それと、十個目の罠にタヌキでも放り込んどけ。何もかかりませんでした、じゃ格好つかないからな。」

 仕掛けられた十個の罠。確かめるのは、全部僕の仕事になってしまった。

「期待してないなら、もっと数を減らしても良いんじゃないかな。」

 愚痴りながら罠を一個ずつチェックする。一個目、何もなし。二個目も空だ。三個目……四個目……本当に何も入ってない。河崎さんの予想通りだ。次で八個目だ。

「あと少しだ……。」

 僕は自分に言い聞かせた。

「まったく、誰か手伝ってくれたって良さそうなもんだ。絶対に効率悪いって。」

 独り言も増える。しかし、八個目の罠は様子が違っていた。罠の蓋が、閉まっている。

(どうせ、タヌキかなんかだろ。でも……)

 期待せずにはいられなかった。恐る恐る近寄ると緑色の何かが、うずくまっているのが見えた。

 音をたてないように、僕は檻を覗き込んだ。突然、緑色の何かは起き上がり、僕を睨みつけた。僕は固まった。トカゲだ。トカゲ男。まさにその通り。人間の体(肌は緑色だ)にトカゲの頭がついている。

「あなた、私を捕まえるの? そうだよね、こんな罠にかかった私がマヌケだもの。」

 トカゲ男(?) は僕から視線をそらさずに言った。

「喋れるのか? ……すごい。どうなっているんだ? 君は、一体何者だ?」

「……」

 黙ってしまった。視線は相変わらず僕を突き刺している。僕の頭は計算を働かせた。

「じゃあ、こうしないか君を逃がしてやるよ。ただし、僕のインタビューに答えてくれたらだけど。」

 僕はハンディカメラを取り出して見せる。

 (この申し出にコイツが乗れば、どこかのTV局にでもこのネタを売りつけよう。そうすれば手柄は丸々僕のものだ。でなければ……他のスタッフを呼ぶだけだ。)

 数秒の沈黙が辺りをつつむ……。

「わかった。……逃がしてよ、絶対。」
 
 嘘をついたら殺されるかもしれない。僕の動物的なカンがそう言った。檻の中のトカゲ相手に。

「じゃあ、インタビューを始めます。あ、僕は山下徹。よろしく。」

 僕はカメラを構える。

「丁寧にどうも、私は田中佳代子。」

「君……、名前あるんだ。」

 ちょっとした衝撃が僕に走る。

「今はこんなだけど、ちょっと前まではOLやってたんだ。東京で。」

 そんな格好で? と言いたくなったが、僕は我慢した。

「そんな目で見ないでよ。その時は普通の人間だったの。」

「ごめん。じゃあ、今はどうしてこんなところに?」

「よく覚えてないんだけど……。えーと……なんて言ったらいいか……。」

「ゆっくりでいいから、よく思い出して。」

「本当に大したことは覚えてないの。普通にOLとして生活してて、いつも通り自分の部屋に帰って、寝て……。気づいたらここに居たの。こんな姿で。」

「……それだけ?」

「そう、これだけ。今じゃ昔の生活は夢だったんじゃないかと思ったりもするの。」

 トカゲの表情は分かりにくかったが、彼女は悲しそうに見えた。

「最初は悲しくて泣いてばかりだったけど、そのうち泣いてもいられなくなった。あなたのような、面白がって私を探す人たちが現れたから。」

「そりゃまあ……、そっちから見ればそうだよな……。」

 僕は、ばつが悪くなった。

「捕まったらどうなるか分からない。だから私は必死に逃げてきた。」

 僕はそれ以上聞けなかった。そこには人間という怪物に恐怖するトカゲ男……じゃなくて、トカゲ女の姿があった。

「それじゃあ、約束通りに。」

 檻の蓋を開けてやる。

「お礼は言わないけど……でも助かった。もう探さないで。」

 彼女は森の中に消えた。僕は仲間のもとに帰り、何もいませんでした。と報告した。



 番組が終わる。結局この番組では大した真実は明かされない。大事な情報は僕の手の中にある。あのカメラで撮ったテープだ。もちろん備品のカメラを返すときに空のテープとすり替えた。明日、売り込みに行こう。行動は早いほうがいい。彼女がいつ捕まるかも分からない。そうなったらこのテープの価値は落ちるだろう。


 次の日、僕は某TV局にいた。

「……というわけなんですが、これがそのテープです。ご覧になりますか?」

 僕は無理を言って、大物プロデューサーである砂川に会っていた。
 
「いまいち信じられないね。もったいぶらないで、早くそれを見せなよ。」

 僕は砂川にテープを見せた。

「これは……すごい。このテープは頂いても構わないかい?」

 砂川は興味を持ってくれたようだった。

「ええ、どうぞ。それはコピーですから。その代わり、その分の見返りをよろしくお願いします。」

「ああ、それは任せておけ。」

 力強い言葉だった。

「それでは、失礼します。」

 僕は部屋を出た。僕はこみ上げてくる笑いを噛み殺しながら、帰途についた。



「まさか、こんな事が起こるとはな。」

 砂川は携帯電話を取り出した。

「私だ。河崎君、山下という男なんだが……。そうだ。ああ、そうなのか。なら話は早いな。頼む。」

 砂川は電話を切り、外に目をやった。

「佳代子のことがばれるとはね……。彼にはモグラ男にでもなってもらうか。今度は記憶も、しっかりと消して。」
              
SFの王道っぽいもの(=怪物もの)が書きたくて、書きました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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