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ピクニック山中談
作:灯宮義流


 とても仲の良い、お隣同士の関係にある二つの家族がありました。
それぞれ二人の子どもに恵まれた若い夫婦で、毎日が幸せでした。
この夫婦、実はただ単にお隣さんというわけではない、実はこの夫婦、互いに高校から大学まで一緒だった仲でした。
だからお隣さんでなくても、二人は仲の良い夫婦でした。

 子ども達が春休みの時期に入った時のこと、互いの家族はピクニックを計画しました。
気の合う人達が計画したことだったので、ほとんど面倒なくそれらは全て決まりました。

 そして当日、大人と子ども、合わせて8人は山へとピクニックへと出かけました。
この時の山の木々は、春の風を受け止めていたのでしょうか、彼等は見ているだけで暖かい気持ちになりました。
子ども達は最初からはしゃいでいたため、少し上っていくと、すぐにバテてしまいました。
しかし、大人達は甘やかそうとはせずに、ちゃんと自分で上がるように言いました。
でもそのうちに、子どもの一人が転んでしまい、泣いてしまいました、父親はすぐ駆けつけました。
見ると原因は靴紐が解けていたからでした、解けていないほうの足を見ると、その結び方は無茶苦茶でした。

「靴の結び方くらいしっかりしなさいって、お母さんにそう教わらなかったのか?」

 子どもは泣きじゃくるだけで何も答えませんでした。よく見ると左足の膝が思い切り擦り剥けていました。
困ったなあと父親が頭をかくと、お隣さんのお父さんが駆け寄ってきました。

「こんなこともあろうかと、持ってきたんだ」

 そういってお隣さんのお父さんは、救急セットの箱をガタッと取り出しました。
消毒剤を吹きかけ、子どもが薬が染みたと目を細めたものの、それを気にせずパパッと絆創膏を貼ってしまいます。

「相変わらずお前の用意周到さには驚かされるな。お礼に帰ったら飲み物奢ってやるよ」
「こんなことで一々いいよ、別に恩を着せるためにやったわけじゃないからさ」

 お隣さんは、そういってささやかな申し出を断りました。
子どもは、改めて父親によって靴紐を結びなおされると、また元気良くなりました。
でも走る元気はないようで、仕方なく大人達は、ペースをゆっくりにして歩くことにしました。
しかしこの調子では、近いうちにバテて親に縋ってくるのは時間の問題だな、と思って、父親二人はいつでも背中を貸せるように、少し腰を伸ばしました。





 それからどれほど経ったことでしょうか、お隣さんのお父さんが突然前のほうを指差して、大声を出しました。

「あれを見ろ! 頂上だぞ!」

 お父さんの声に、両方の家の子ども達がはしゃぎました。山の頂上が見えてきたからです。『ここが頂上』という看板がよく見えました。
あれから子ども達は、一度として父親に甘えるようなことはしませんでした。それだけに彼等は嬉しかったようです。

「正直、ここまでついてくるとは思わなかったぞ」
「子ども達も日々成長する、ってことだね」
「もう気づけば小学生だもんなあ、驚くなあ」

 といいつつ、二人は穏やかに笑いました。妻達二人は、そんな二人に対して、遠い目をしながら子ども達を眺めていました。
自分達が数年育ててきた子ども達の成長ぶりが、とても眩しくて、嬉しいようでした。
着いた時には、もう時間は正午を大きく過ぎていて、お昼の時間にはピッタリでした。
妻達は早速お弁当を広げましたが、男二人だけはそこから席を立ちました。
ここでは灰皿がないから煙草が吸えないために、吸って文句を言われない、頂上にある喫茶店にいくと言い出したのです。
母親二人と子ども達は、そんな二人に呆れた様子でしたが、二人はそんなことを気にせずに、さっさと言ってしまいました。



 春休みだというのに人は全くいませんでした。父二人と店主だけです。
店主は、どうやら後ろの母親達と子どもを残しているのに気づいて、いいんですかと聞きました。
しかし事情を知ると、店主は苦笑いしながら灰皿を出して、これを貸すのでそちらで食べてくるといいと促しました。
でも男達は、今更戻れないし、男二人で話したいことだってあると言って、結局店主の申し出を断りました。
店主に、ランチセットを注文した後、早速煙草を取り出す二人でしたが、すかさず店主が手でそれを静止します。

「うちは1時まで禁煙だよ。だから向こうで吸ってくればいいって言ったのに」
「山の空気を直に汚して、子ども達の夢を壊すほど俺達は傲慢ではないよ」

 もはや父親達も意地でした。まあどうせ1時まであと10分ですし、好きにしてくださいと、店主は店の裏に消えました。
二人は、久々に二人きりで話すのか、とても久しく会うような感じでしばらく語り続けていました。
昔やったくだらない話。喧嘩した話。死ぬほど大変だったときの話。そして恋の話……。
その場の背景に、二人の走馬灯が流れていくように、話はとても盛り上がりました。
しばらく話しているうちに、料理をやってきました。とても当たり障りの無い普通の食事でしたが、味だけは格別でした。
美味しいですよと、二人が店主に賛美を言うと、たぶんおたくらの奥さんには敵わないよと苦笑いして、また去っていきました。
丁度食べ終わった頃。目の前の時計が1時を示しました。

「……もう1時だぜ。こっからは大人の時間だ」

 そうお隣さんの父親が少し決めたように言います。、そして二人は、まるで示し合わせたかのような同じタイミングで、煙草の箱を懐から取り出しました。
たちまち店の中は煙草の煙で充満し始めました。それからしばらく沈黙が続いた後、怪我をした子どもの父親は、店主に今度はコーヒーを注文しました。
コーヒーの香りは、すぐさま煙草の匂いと混ざり合って、独特の香りを醸し出しました。まもなくコーヒーは父親の手にやってきました。

「とりあえずこいつはサービスです」

 店主は、コーヒーに加えてそれにあいそうな甘いお菓子も出してくれました。二人分ありました。
それを見てじゃあ自分もコーヒーを頼んじゃおうかな、と言うと、店主は背中に隠していた、淹れたてのコーヒーをもう一つ出しました。
お隣さんは、それを見て軽く笑うと、店主にとてもお礼を言いました。

 それからまたしばらく沈黙が続きました。
先に口を開いたのは、お隣さんのほうでした。

「最近仕事のほうはどうだい?」

 先ほどの青春真っ盛りな話とは打って変わって、とても現実的な話になりました。
もう一方の父親は、その話になると、表情とても堅苦しい変わりました。
あまり聞いて欲しくなかったのか、むしろ険しいようにも見えました。

 今度は嫌な沈黙が続きました。お隣さんも段々只ならぬ表情になった時でした。

「家族には内緒にしてほしいことがあるんだ……」

 父親が口を開きました。お隣さんは無言で頷きました。
店主はその空気に気づいてか、気を使って店の奥へとまた消えていきました。

「うちの会社な、倒産しちゃってね……これから子どもの教育費とかあるのに、大変で」
「……」

 とても気まずい雰囲気になりました。お隣さんは、何一つ言葉を返すことが出来ませんでした。
頑張れ、とも、大変だな、とも。何もいえませんでした。
むしろそんなことを言っては、彼にまた嫌なプレッシャーなどを乗っけてしまう気がしたからです。
しばらくすると父親は、そんな空気を打開するように、急に明るくなりました。

「これはな、実を言うと結構前の話なんだ。さっきもいったように、妻にも話してない。お前を親友と思って話してる」
「……そうなのか」
「でも、こんな状況ともそろそろおさらばできそうなんだ……だから頼むよ」
「そんなこと、頼まれたって奥さんや子どもに言えるわけないさ、それは自分で言わなくちゃいけないことだ。だから俺は言わない」

 そう肩を叩くお隣さんに、父親は少し頷いて、軽く礼の態度を示しました。

「やっぱりお前は……友達だよ」

 彼の言うとおり、二人は何年経っても友達でした。

それからしばらくして、お隣さんの子どもが二人を迎えにやってきました。
吸殻を店主に任せて金を払うと、いきなり子どもに手を引かれて、転びそうになりました。
お弁当を食べていた母親二人は、夫たちの帰りを笑顔で待っていました。
少しだけ、彼女達の作ってきたお弁当は残っていたので、二人は美味しそうに食べました。幸せでした。





 しばらく子供達を遊ばせていると、ふいにあの父親が意を決したように、自分の妻を呼び出しました。
ちょっとこんな時で悪いけど話があるといって、お隣さんの両親に子どもを任せて、静かなところに連れて行きました。
そこは、落ちたら一溜まりもないだろう、崖でした。
話ってなあに? と妻が言うと、父親は妻の肩をがっちりと掴みました。とても神妙な面持ちでした。

「愛していたよ」

 そう言うと、父親は、妻を突き飛ばしました。妻は何も叫ばないうちに。崖の下に落ちていきました。
父親はその落ちていく光景を見ませんでした。彼は落ちる音も聞かないまま、さっさと逃げてました。





 一方で、お隣さんの奥さんは、子ども達にそこから動かないように言いきかせて、夫を連れ出しました。
連れて行ったそこは、まるで日本とは思えないような崖でした。妻は夫をそこまで連れて行くと、彼の言葉を待つ暇もなく突き落としました。
突き落とした後、妻は去り際に一度崖を振り向いて、一言だけこういいました。

「ありがとう……さようなら……」





 お隣さんのお母さんが戻ってくると、そこにはあの妻を突き落とした夫が待っていました。二人とも笑顔でした。
子ども達は、勿論父と母のことを聞きました。とても純粋無垢な口調でした。
ちょっと気分が悪いから先に帰ってしまったと二人は説明しました。じゃあしょうがないねとそれまた純真無垢な言い方でした。
すると子どもは、ふいにお弁当箱からあるものを取り出しました。
それは水筒に入れてきた紅茶にいれる砂糖の袋でした。みんなで飲むために取っておいたみたいでした。
少し二人は顔を見合わせつつ、二人は子どもが砂糖を入れてくれた紅茶を飲みました。子ども達も全員飲みました。
美味しそうな息をはぁーと吐いたあと、まず父親が、カエルが潰れたような声をぐえっとあげました。そのまま血を吐いて死にました。
それから特に時間をおかず、他の家族達も次々に倒れていきました。皆、たくさんの血を吐いていました。

 しばらくして、喫茶店の店長がそれを見つけて、即座に救急車を呼びました。
そのときは、妻と夫が一人ずつ足りないのを、彼は気づいてしませんでした。




「怪我は大丈夫でしたかい?」
「ええ、落とされるとわかってましたから」
「それならよかった、いてて……」
「大丈夫ですか? 足の骨が折れてるんじゃ」
「こんなもの大したことありませんよ、あなたが支えてくれるなら僕はどこまでもいけます」
「そう……よかった。でもコレでお互いによかったんですよね」
「はい。あなただって未来のない夫とは一緒にいたくないでしょう」
「あなただって、強欲なあの人といるのが耐えられなくなったから、今こうしてここにいるんですね」
「似たもの同志ですね。じゃあ行きましょうか、新たな人生への道へ」
「ええ」

 もう一組の夫婦は、下にあった木に上手く引っかかって命からがら助かっていました。
二人は、この殺人計画を既に知っていました。それで前々から不倫をしていた二人は、快く結ばれるにはこれしかないと考えて、あえて相手の計画にのることにしました。
でも、砂糖に毒が仕込んで合ったのは、お隣さんのお父さんは気づいていない様子でした。
この後二人は、山奥にある、誰も住んでいない小屋で暮らそうとしていました。しかしその前に二人は熊に遭遇して、殴り殺されてしまいました。
上の家族の死骸が発見されてから2日後、二人の遺体もすぐに発見され、回収されました。
警察では、謎の怪死事件としてこの件を扱い、捜査を始めましたが、結局真相は何年経っても掴ませんでした。


少し前にお題・台詞を縛り、数人と出し合い競って行った短編作品。自由のない作品というのはこういうものなんだなというのが学べました。台詞条件を満たすために無理矢理「天使と悪魔が人間の業や面白い部分を観察する連作もの」にしようと考えましたが、結局企画倒れ。よって天使と悪魔の会話部分を削っています。それが今の怪社に受け継がれている感じです。内容としては相変わらず。元のタイトルがイマイチだったので少し変更してます。













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