奇跡の価値は(2/2)縦書き表示RDF


平和な風見家を襲ったの悲劇は、両親の「死」だった?
真相を確かめるべく病院へと向かう宗を待ち受けるものとは?
奇跡の価値は
作:伊庭 はじめ



後編


 チチチ…チチ…

居間全体に朝日が差し込んできている。

それにしても、なんだか臭いがするな。

寝惚け寝たりない頭を叩き起こしながら、台所へ向かう。

そこには、手際よく朝食であろう支度をしている朱里がいた。

「お、おい。何してるんだ。」
分かっていながら、つい呆けたことを聞いてしまう。

「はい、おはよう。
 その分だと、それなりには寝たみたいね?
 見ての通り朝ごはんの支度してるの、わからない?」
朱里は、呆れ悪戯が成功したような笑みを浮かべている。

「あぁ、わかるんだけどな。
 うちの冷蔵庫は、空に近かったような気がするんだけど。」
昨日の夕飯で、あらかたを使っていたのだ。

「うん?お母さんが、材料は持たせてくれたからね。」
家の冷蔵庫の中身などあてにしていないと言わんばかりである。

俺は、そんな朱里とのやり取りを切り上げると居間を出ようとした。

妹が、蒔緒が気になったからだ。

居間の扉に手を掛けると。

「どこいくのよ?
 もう直にできるんだけど?」
と、朱里が不満そうにしている。

「毛布片付けるついでに、蒔緒を見てくる。」
言葉、短く返事を返し居間を出た。

毛布を自分の部屋に片付け、蒔緒の部屋を覗くと変わらずに眠っているようだった。

そっと扉を閉めると、居間へと戻った。

しかし、居間の扉を開けると妙に期待した顔の朱里がいるではないか。

仮にも我が家の一大事だ。

そんな顔をするのは、どうなんだろうか。

「一体、なんでそんな顔をしてる?」
至って、当たり前の疑問を真っ直ぐに聞いてみることにした。

「えっ?いや、朝ごはんがさ。
 我ながら会心の出来栄えってやつでして。」
あはは、と笑う朱里を見て怒る気が失せていく。

テーブルの朝食を見ると、その…かなり豪勢だ。

これからのことを考えると、食欲が失せていくのだが。

残そうものなら、何をされるかわかったものじゃないんだ。

しかし、そんな考えも箸をつけてみると吹き飛んだ。

(う…うまい。旨いぞ)
本気で、そう思ってしまった。

自然と箸のスピードが上がってしまう。

会話そっちのけで食べる俺を朱里が満足そうに見ているのを見つけると照れくさくなる。

そう…昨晩の事が嘘のようだ…。

一息つきながら、後片付けをする朱里を見ながらそんことを思ってしまう。

ふいに気が付くと、朱里がこっちを見ている。

「ね、何時に出るの?」
当然の、疑問とうやつだ。

「うん、後40分くらかな。
 かなり余裕をもってるから大丈夫だよ。」
大方、朱里が気にしているだろうことを添えて返した。

「そっか。
 あ、あのさ・・・。」
珍しく言いよどんでいる、朱里をみていると居間の扉が開いた。

蒔緒が、起きてきたようだった。

「兄さん、おはよう。」
毎朝、決まった言葉だが今日は何だか酷く安心させられる言葉だった。

「おはよう、飯あるから食えよ。」
と、片付かないので蒔緒を促した。

「うん。え・・・朱里姉さん・・・?」
ボケッと固まった。

見事に固まった蒔緒が居るではないか。

やれやれと、溜息をつきたくなって来たのは俺だけだろうか。

「俺が、昨日のうちに頼んだんだよ。
 今日は、何かと忙しいからな。」
敢えて、思い出させるかのように言葉を返した。

しかし、蒔緒は返事もしないままにテーブルへとついた。

朱里は、蒔緒の朝食を用意しながら「当たり前だ」という顔をしている。

まぁ、正直なところ返事を期待してたわけじゃない。

俺でも、夢かと疑ったくらいだ。

夢かと思ってましたでは、済まないんだ。

まだ、蒔緒が隣で食事をしていたが構わず俺は支度を始めた。

一通りの確認を終えると、箸が止まっている蒔緒に告げた。

「これから病院へ行ってくる。
 蒔緒は、朱里と家で待っていること。
 いいな?」
一応、最後は確認で聞いてみたのだが…

返事はなかった。

仕方がない、受け入れ難いことだという事ぐらい自分でも嫌という程にわかってる。

「それじゃ、いってくるよ。
 朱里、蒔緒を頼むな。」
改めて、朱里に頼むと玄関へと向かった。

「あ、玄関まで送るよ。」
慌てて朱里が着いて来た。

「あのさ、気をつけなよ?」
何と言うか、縁起の悪いことこの上ないではないか。

「いや、まるで俺まで死ななきゃならんようなことを言わないでくれよ。」
頬が引きつっているのが、自分で分かるじゃないか。

「そ、そうだね。
 いってらっしゃい。」

「うん、いってくるよ。
 向こうで一段落ついたら連絡するから。」
取り合えずの、ことを伝え玄関を後にした。

指定された病院は、此処から電車を乗り継いで40分弱は掛かる。

受付開始の少し前には、着くだろうという計算だ。


9時を回るホンの少し前に病院へ着くことができた。

思っていたよりも大きな病院だ。

心臓が壊れそうなほどに鳴っている。

"すゥー ハぁー"

深呼吸だ、もう目の前まで来てるんだ。

覚悟を決めろ。

柄にもなく、自分を叱咤し歩き出した。

歩き始めてしまえば、なんのことはない。

受付で仔細を話すと、担当が来るので待たされた。

しかし、朝が早かったせいか待つ事もなく担当とやらが声を掛けて来た。

案内されたのは、よく映画やドラマでも見る地価の遺体安置所という奴だった。

まずは、親父・・・父親だ。

医者の話では、火傷による損傷が激しいということだった。

ゆっくりと見せられた父親?はあまり綺麗なものではなかった。

「どうだい?
 君のお父さんに間違いはないかい?」
と、医者が聞いてくる。

俺は、遺体を見つめたまま動けなかった。

何せ父親とは似ても似つかなかったのだからだ。

その、見せられた遺体はいわゆる肥満体系なんだ。

しかし、うちの父親は筋肉質で細身。

明らかに違う。

違うんだ。

俺は、笑い出すのを堪えながら医者に言ってやったんだ。

「すいません、この方は父ではありません。」

医者は「何を言ってるんだ」という顔をこちらを見つめてくる。

俺は、念の為にと用意した父の写真を見せた。

その写真を見て医者も納得をしたようだった。

水死体ならまだしも焼死体は、膨張などしない。

つまり”絶対に俺の父親ではない”ということなんだ。

付き添っていた医者は、慌てて内線で連絡をしていた。

安置所からロビーへと回され、再度待たされることとなったんだ。

俺は、笑みが零れるのを抑えられなかった。

傍から見れば、可笑しな子供だったろう。

病院のロビーで一人、ニヤニヤしていたんだから。

そんな時、先ほどの医者が慌ててこちらにやってきた。

「君のご両親の事がわかったよ。」
その言葉に、自然と表情が固くなっていった。

「安心して、ご存命でお父さんは集中治療室に。
 お母さんは、一般病棟に移ったそうだよ。」
まさに、神の言葉だった。

詳しく聞いてみると、事故は玉突き事故であったこと。

周りの人たちが、車から助け出したものの事故の衝撃で事故にあった車が炎上してしまい
身元の照合に食い違いが出来てしまったということだった。

父は、事故の際に頭を打ったらしいが命別状ないことが分かった。

母も、肋骨の骨折で数箇所の摘出手術をした為に連絡が取れなかったこと。

全てがとは言わないが、奇跡のような出来事だった。

諸々の手続きの説明を受け、家族へ連絡をと言って中庭へとやってきた。

家に電話を掛けているに関わらず、なかなかでない。

苛々してくると、やっと誰かが電話を取ったようだった。

「もしもし?」

(「兄さん?」)

電話に出たのは、蒔緒だった。

これはこれで、好都合と俺は笑ってしまった。

「蒔緒、よく聞けよ?
 遺体は、人違いだったんだ。」

俺は、一気に言い切ると反応を伺った。

しかし、いくら待っても反応がない。

「おい、蒔緒?
 何でもいいから返事しなさい?」

無反応だ。

不味いことでも、言ったかと焦り始めてきた俺を尻目に電話が吼えた。

そう、本気で吼えたと錯覚したんだ。

犯人は、言わずと知れた朱里である。

(「ちょっと!
  蒔緒が、倒れたってのにアンタはぁ!!」)

この言葉に、俺は驚いた。

無反応だったのは、嬉しさのあまり気を失ったのだ蒔緒の奴は。

「チョット待て、朱里。
 よく聞け。俺に罪はないんだ。
 いいか、うちの両親は怪我をしてるが生きてるんだ。」

「人違いだったんだよ!」

最後には、叫んでしまったんだ。

病院の中庭で。

(「ちょ、ちょっとマジなの!?」)

「マジだ、とんだ喰わせ話しだったんだよ。」

俺は、堪えきれずに笑ってしまった。

「朱里、これから戻るから。
 おじさんとおばさんにも連絡を頼むよ。
 今日は確認で顔を見れたけど、一般の面会は明日らしいからさ。」

(「う、うん。よかったね」)

電話の向こうで、上擦った声が聞こえる。

朱里も子供の頃から、自分の親と変わらないような関係だったんだ。
当たり前なんだ、この反応が。

「あぁ、最高だよ。
 今日は、俺の秘伝のカレーを振舞ってやるから待ってろよ!」
何とも芸のないことを、のたまっていたんだ俺は。

(「ここまで来て、カレーか!
  ったく、待っててやるから腕に寄りを掛けてもらうからねっ」)
泣き笑いのような声が、今あるものを知らせてくれる。

俺は、駅まで走っていた。

空が晴れている。

全く気が付かなかった。

能天気なくらいに、青い空が嬉しかった。

たぶん、亡くなった人がいなかったわけじゃないんだろう。

でも、それでも俺は奇跡だと言いたい。

胸が痛んだ。同じ境遇にあって叶わなかった想いもあるんだろう。

それでも、それこそが「奇跡の価値」なんだと俺は思う。


さぁ、今日は腕によりを掛けますかっ!




一応、これで完結となります。
後日話などは感想・ご意見などを参考にして書くかもしれません(笑













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