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第一幕:忠誠のカフスを求めて
4.彼女の仕事
聖布せいふ呪式糸じゅしきいとを使った、紋章エンブレム入りのカフスを一つ作ってほしい」

 その騎士様は、そう私に依頼して来た。
 光沢を放つ鉄色の髪、期待と不安を映した深く澄んだ青い瞳。
 私の返答を辛抱強く静かに待っている。
 変わらない無表情な顔なのだけれども、とても困っているように見えた。
 上位の騎士と見受け、当然貴族であるはずの彼からは特有の傲慢さが微塵も感じられなかった。
 だから、私は彼の依頼を受けた。

 聖布と呪式糸で作るカフスと言えば記憶が正しければ、皇帝に忠誠を誓う時のみに捧げられるというあの特別なカフスだろう。
 製法は、もちろん知っている。
 私の知識は、広い。
 古いものから新しいもの、あらゆる儀式で使用される小物の全ての製法が私の頭の中に消えることなく記憶されているのだから。
 何故?と、もし誰かに聞かれても私にはその問いに答えを持たない。
 私も気づいたのはここ数年前のことなのだから。
 だから、あまり考えないことにしていた。
 けれど、こうしてその知識が目の前の困っているこの騎士様を助けることが出来ることがなんだか嬉しかった。
 今日は朝から不幸の連続に思えたけれど、この騎士様をお助けすることが出来ればその不幸も払しょくされるような気がした。
 ただ、一つ問題があった。
 製法は知っているが、聖布を作る生糸と呪式糸がこの組合ギルドはおろかこの界隈の生地問屋では手に入らないのだ。
 そのことを騎士様に告げると、一瞬諦めの色が瞳に宿った。
 つまりそれは、騎士様の方にも入手する術が無いということだ。
 それを見逃すことなく気づいてしまった私は、とても胸が痛いんだ。

 なんとかしてあげたい

 でも、どうすればいい?

 ふと、思い出す。
 聖布も呪式糸もあるではないか。
 私は、彼の目の前で持っていたカバンの内の一つを盛大に広げ、中に入っていたものを引っ張り出した。
 私が着る筈だった婚礼衣装。
 ドレスの生地は聖布であり、ドレスに施された純白に近い真珠色の刺繍糸は呪式糸なのだ。
「あっ」という短い声が誰のものだったか。
 私は、その声のとおりあっと言う間に躊躇いもせずにその婚礼衣装にハサミを入れた。
 胸元を飾っていた刺繍の呪式糸を痛めないように慎重に外し、カフスに使う分の生地をドレスの部分から多めに切り出した。
 その作業を茫然と見ていた騎士様に、彼自身の個人の紋章の意匠を聞くと、我に返ったような面持ちの騎士様は、自分の腕にしていたカフスを一つ取り私に渡してくれた。
 彼の紋章は、北方の秘境に生息していると言われる一角獣ユニコーン月光樹げっこうじゅを組み合わせたものだった。
 色合いの希望を聞くと、なんでも騎士様は今度即位する皇帝陛下直属の騎士団の方翼である黒騎士団シュバルツの団長に任命されるとのこと。
 ならばと、聖布は漆黒、一角獣は真珠、月光樹の葉は銀緑と提案すると騎士様は、それでいいと躊躇いもなく即了承した。
 期限は、2日。
 遅くとも即位式の夜明けまでと言う。
 取りあえず私は、布と糸をまず染めることからしなければならない。
 その間に騎士様にご協力願ってカフスの金部分を専門の問屋へ買いつけに行ってもらい、今日はもう日が沈むので明日の昼までに持ってきてほしいとお願いした。
 私が懇意にしている金具専門の問屋で、私が書いた依頼書を騎士様に預けたので多分融通してくれるはずだ。
 それに、今から染め作業をして早くとも刺繍に取りかかることが出来るのは明日の昼以降なのだから。
 そう言って、騎士様にはしっかりと仕事依頼の契約書を見てもらい、材料費と縫製代の金額を確認してから了承のサインしてもらい、一度帰ってもらった。
 騎士様は「たのむ」と、真摯なまなざしをして私にそう言うと、組合の斡旋所を後にした。

 これが、私が彼から受けた初めての依頼だった。














ようやく彼女ユーリィと彼(騎士様)とのご対面ですw
次回は、彼視点になるとおもいます♪

※誤字脱字のご指摘ありがとうございました!加筆修正しましたが、まだどこかありましたらご指摘お願いいたします。
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