8.逃げまわる小次郎
深夜、外には人がいなくなる時間帯を見計らって、小次郎は森から抜け出した。森にある果物だけでは空腹は満たされない。彼は目星をつけていた畑めがけて、低い姿勢で素早く移動を始めた。ぐずぐずしてはいられない。とにかくてきぱきと仕事こなす事が必要に思えた。畑に入り込むと手当たり次第に穀物、野菜を抜き取った。あまり派手にやりすぎるのも恐ろしく思えた。彼はボロボロになった服の中、ズボンの中に収穫物を次々入れ、そろそろ頃合かと判断し、素早く畑を後にした。
【ガラガラガラガラガラガラ!!!】
小次郎が何かの縄のようなものに足を引っ掛けてしまうと、辺りに激しく鐘が鳴り響いた。
「こらーーー、殺すぞーーー、こらーーー!!!」
待ち構えてでも居たかのようにそこらの村人たちらしき人間の声がすぐに聞こえた。1人2人ではない。10人くらいはいるのではないだろうか。真っ黒な人影が猛烈な勢いで小次郎の方へと向かってきた。小次郎は完全に度を失い、手に持っていた芋や大根をすっかり地面に落としてしまい、しばし棒立ちになった。そしてすぐに我に返ると、脱兎の如く逃げ出した。待ち構えていたらしき村人の一人が彼に飛び掛かった。小次郎はなんとかその手を振りほどき、猛烈な勢いで森の中めがけて走っていった。村人は簡単には引き下がらなかった。森の中の茂みの中に逃げ込んで、息をひそめている小次郎のまわりをたいまつを持って行ったり来たりしていた。肩に斧を担いでいるもの、ナイフらしきものを振り回しているもの、みな何かしらの危険な武器を所持していた。小次郎は子猫のようにぶるぶる震えていた。いっそ目を閉じて、目の前の現実を忘れてしまいたい気分であったが、見つかったその瞬間には全力で再び逃げ出さねばならない。彼は細心の注意で村人達の動向を見守っていた。たっぷり一時間ほど、森の中をうろつきまわった村人たちはようやくにぎやかな笑い声を辺りに響かせながら帰っていった。彼らにとっては今回の狩りはお祭り感覚のようであった。小次郎は彼らが立ち去った後もたっぷり二時間はぶるぶると震え続けていた。明かりに照らされればはっきりと分かるだろう。彼は真っ白な顔色をしていた。ようやく少し落ち着いた小次郎はズボンの中に残っていた芋を上着で丹念に擦り、そのまま齧った。小川まで芋を洗いにいく気にはどうしてもなれなかった。
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