7.一階
「どけ!」
小次郎は誰かに頭を打たれて意識を回復した。なんだここは……。小次郎の目に映った風景はなんの変哲もないのどかな田園風景だった。よくよく見てみると遥かかなたに断崖が見える。見渡すとその断崖に囲まれているようだ。しかし太陽もあり、木々が生い茂り、草、田んぼ、昆虫、ごく平凡な田舎の風景だった。
小次郎がぼんやりと風景を眺めていると、向こうから三人組の男が近づいてきた。助かった。あの人達に色々訊ねようと彼は立ち上がり、待っていると、その三人組は彼を取り囲み、三方向から殴りつけてきた。小次郎は顔を何度も殴られ、腹を蹴られ、押し倒されて、何度も何度も踏みつけられた。
「やめてくれ!!」
小次郎は叫び、土下座すると彼らは気が済んだようで、「こんなとこに座ってんじゃねえぞ!気にいらねー野郎だ」と言い残し、立ち去った。
一体どうなってんだ?小次郎は立ち上がり、近くの小川で顔を洗っていると、後ろからいきなり、子供に蹴りつけられた。彼は頭から小川に突っ込み、怒りで身を震わせて、その子供を睨みつけるとその子はすぐに逃げていった。
「馬鹿野郎!死にやがれ!」
子供は遠くから罵声を上げた。なんなんだ?彼は怒りの眼であたりを見渡すと、すぐに通りがかりの鍬を持った農民がつかつかと歩み寄ってくる。
「文句あんのか?」
彼は鍬を握る手に力を込めて、凄んでくる。
「な、なんなんですか!!」
小次郎が叫ぶといきなり、鍬を振りかぶり、彼の頭めがけて振り降した。
「うわー!助けてくれ!人殺しー!」
小次郎は一目散に逃げ出した。彼はすっかり胆を冷やし、森に目がけて逃げ込んだ。彼は息を整え、しばらく茂みで休んでいると一匹の虹色の毛並みの猫が近づいてきた。
「コジ……」
その猫は話しかけ、それがサリーである事に気付いた。
「なにやってんのコジ。意気地がないね。ちゃんと戦わないと」
さも軽蔑したように猫は言い、小次郎の膝に乗ってきた。
「なんなんだ!ここはどこなんだよ!」
彼は叫んだ。
「静かに!また気付かれるよ。ここは嘘と憎しみと戦いの世界よ。だいたい何よ、あなたは一ヶ月間の断食に耐え抜いた癖に、からっきし意気地がないじゃない。そんなんではこの世界で生きてはいけないよ。やる気あるの?」
それを聞いて小次郎は唖然とする。
「ふ、ふ、ふざけるな!なんなんだよ、一体。今すぐもとの世界に戻せ、この野郎!」
彼は猫を掴み上げようとしたが、するりと避けられた。
「コジ……あんたって最低ね。今さらなによ。もう戻れないよ。なんなのあんた。なにいってんの今さら。戻ることなど考えないで。なんのつもりなの?私を馬鹿にしてるの?あなたはここで生き抜くしかないの。死ぬまでここの住人なのよ。それはあなたの望んだ事なのよ」
「なに?俺はこんなもの望んだ覚えがないぞ」
猫はそれを聞いてさも軽蔑したようにニャアニャアと二回鳴いた。
「あなたは夢と希望とロマンと戦いを望んだわ。戦いを望んだのよ。ここではそれがあるわ。ここは力がすべての世界よ。力さえあればなんだって手に入る。地位も名誉も権力も、女だってよりどりみどりになるわ。力あるものがすべてを支配し、好きな様に出来るのよ。あなたが望んだ世界なの。あなたの一番望んでた世界なのよ」
「何を……何を言ってるんだ!」
小次郎は狂った様に猫を追いかけ廻した。猫は木に飛び乗り、上から話を続けた。
「あなたはいい加減な人ね。若い人だわ……。まあとにかく好きにしなさいよ。言っておくけどここでは弱い人はさんざんな目に合うわよ。のたれ死ぬだけ。とにかく私はあなたの望むものを与えたわ。じゃあね。バイバイ」
猫は飛び降り、疾風の如く走り去った。
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