5.再び酒飲み生活
その後やはり連日、アパートとスーパーの往復だけの毎日を送った。やはり電話回線は切ってある。酔っ払って夢と現の区別が曖昧になった時には決まって頭の中の声は聞こえてきた。いつも常にだった。ゆえにこれは完全に夢とは別物だと思えた。その日も大酒を飲み、やはりぼんやりと魅力的な美しい、天真爛漫な頭の中の声を薄ら笑いを浮かべながら聞いていた。こちらから話しかけたり、返事をしたりしようとすると頭の中の声は消えてしまう。それも、もうはっきりと分かっている事だった。連日、彼女の会話を聞いているうちにいくつかの事が分かってきた。彼女の名前もその一つだった。彼女の名はサリーといった。
「コジ、またこんなにも飲んだのね。いい加減にしたら。馬鹿みたいよ」
小次郎がそれに答えようとすると集中は乱れ、会話は閉ざされることになる。
「それにしてもコジ、あんたすごいよ。よく私の言葉に気付いたね。普通絶対、私の事は気付かない筈よ。よっぽど暇なのね」
サリーはケラケラと笑う。
『お前は一体なんなんだ。一年くらい図書館に缶詰にならないと突き止める事はできないのかな』
ぼんやりと小次郎は考えた。
「馬鹿ねコジ、判る訳ないじゃない。あなた達、人間なんて、この世の中の上っ面だけをちょこちょこと調べて、偉そうに判った様な顔をしてるけど、まったくのスカスカなのよ。私の世界の事なんて、この先、千年頑張ってもたどり着けないよ。あはははは、このバーカ」
その小次郎の考えが聞こえたかのようにサリーはそう言った。サリーは魅力的だった。何もかも知っている様で、そのくせ何も教えてくれず、小次郎をからかってばかりいるのだが、その気楽で無邪気な喋り方が、とても心地良かった。 いつしか小次郎は昼も夜も関係なく、サリーに会うために酔っ払ってばかりいる生活を続ける事になった。
サリーは彼の体を心配しだしたが、彼が一向に聞こうともしないので、彼女は歩み寄りを許すことになった。
「コジ、あんたがそんなに私の事、好きなのならしょうがない。今日から一ヶ月間、食事は一切してはだめ。口にするのは水だけにしてちょうだい。もしそれが出来たら、ちょうど一ヶ月後のあなたの誕生日10月25日に、あなたの夢の中に現れる事を約束するよ。それが出来なければ私は二度とあなたに会わない。覚悟して取り組んでよね。じゃあねバイバイ。バーカ」
小次郎は約束通り、一切食事せず、ただ水だけでその日を向かえた。そしてその日、彼は死んだような眠りに入った……
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