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作:東河哲也



23.行ったり来たりの小次郎




 二階の外壁は一面がガラス張りだった。そこから外を見渡せた。一階の風景がはるか下に見えた。そこから見える人間の大きさはホコリの一粒のように小さかった。小次郎はずっと外を眺めていた。やがて彼はきびすを返し、自分の部屋へと向かった。そして机の引き出しを開け、拳銃を手に取った。そして長い間拳銃を見つめていた。
 殺人の記憶が前世の出来事のようにぼんやりと浮かんできた。10人以上を並べて、片っ端からその首を切り落とした。生きたままの人間の皮を剥いだ。縛り上げた人間に油をかけ、火だるまにした。全身の骨をへし折って崖から突き落としたこともあった。自らこの手で。残酷さを示し、支配を強めるために。そしてこんどは彼等から同じような残酷な処刑をされるのを怯え、5年間逃げ回った。
 彼は体を回復させ、安らぎを取り戻した今、すべき事は我が身の罪を精算させるため、我が人生の幕をおろすこと以外に考えられなかった。いやそれでも全然足りない位だ。己一人を己の手で処刑したくらいで、この罪が精算されるわけはない。ではどうすべきなのか。とにかくこのまま己の罪を無かったようにして安穏と暮らすのは正しくないように思った。ではどうすべきなのだろうか。
 小次郎は拳銃を引き出しに戻し、部屋を出た。本棚から適当に本を取り、窓際に備えてあるソファーの一つに深々と座り込んで本をぼんやりと眺めた。本を読むことは久しぶりだった。一階には本も学校もなかった。ただひたすら生存の戦いのみがあったように思う。小次郎は我知らずに本を貪り読んでいた。そもそも彼は読書が好きな質ではない。こんなにも意欲的に読書をしたのは初めてだった。
 やがて彼は立ち上がった。そしてまた自分の部屋に戻り机の引き出しを開けた。そしてやはり拳銃を取り出した。机の上にあるパンは未だ一度も口にしていなかった。とにかく死なねばならない。このまま何もしていなかったように生きていくべきではない。そしてもうこのままではこれ以上生きていく気にどうしてもなれない。ここははっきりとケリをつけておくべき問題だと思える。己の殺人行為。そのすべてが止むを得ない正当防衛のものであれば良かった。しかし彼は確かにそれ以外の殺人も行った。ただ女たちに己の強さを自慢するための殺人もすれば、単に暇つぶしのための必要以上に残酷な処刑も幾度も行った。殺し方を工夫する事が楽しくて仕方のない時期さえあった。あれは本来の自分ではなかった。本当は自分はあんな事をする人間ではない。あの時期は正常ではなかったのだ。魔物か何かに取り付かれていたのだ。
 小次郎はやがて自らのこめかみに拳銃口を当てた。
 では聞くが、もう二度とあんな事をしないと誓えるか?いや、誓えない。同じ様な状況になればまた同じような事をするのではないか。残虐な殺人者。それが実は自分の正体なのではないのか。あれが自分の本質ではなかったか。
 小次郎は拳銃をおろし、再び引き出しにしまった。そして部屋を出た。確信が欲しかった。死ぬべきだという確信が。そしてそれは今にも訪れるような気がしていた。今すぐにでも死ぬべきだという確信が訪れ、迷いも無く拳銃の引き金が引ける瞬間が訪れるような気がした。小次郎はただその瞬間をひたすら待っていた。パンは一口も口にしていない。水ばかりをガブガブ飲んでいた。食欲がまったく無かった。
 小次郎は図書館のような二階の室内をひたすらぶらぶらと歩き始めた。巨大な図書館だった。そして極めてシンプルな作りだった。室内の中央部にたくさんの部屋がある。そしてその中央部を取り囲むように本棚が規則正しく並んでいた。本棚の高さは3メートルくらいであった。すべての本棚は同じ高さに見えた。そして本棚と本棚の間のスペースは縦も横もすべて揃っていた。部屋から出て、本棚と本棚の間を1キロメートルくらいだろうか。ずっと進むとようやく室内の外壁の窓にたどり着くことが出来た。室内は円形状に出来ているようだった。極めて巨大な図書館だった。しかし作りがシンプルなために迷う事はなかった。小次郎はわざわざ窓際まで歩き、やはり外を眺めていた。そしてやがて本棚から適当に本を抜き取り、ソファーに座ってぼんやりと眺めた。食欲は全く無く、生きる気力も出てこない。生きる屍のように思えた。もう何もかもが嫌になっていた。そして再び彼は立ち上がり、部屋へと戻る。そしてまた部屋を出る。そんな事を延々と繰り返していた。














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