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アニマルアイランド(小説版) 作者:ぷるっと企画
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与える愛

 再び家に戻ってきたあなたは、少しだけ眠気を感じました。

 いろいろなことがありましたから、やはり疲れたのでしょう。

 もう寝ようかと寝室に向かおうかと思ったとき、ふとリンカが目に入りました。そうでした。今は一人ではありません。リンカという伴侶がいるのです。

 この場合、寝るときはどうしたらよいのだろう。

 ずっと一人の生活だったから、二人の場合はどうしたらいいのかわからない。
 犬のころの彼女ならばともかく、今は人間の女性と同じだ。

 これではまるで…ドキドキ。

「あの…、ご主人様、ちょっといいですか?」

 リンカはあなたの腕を取ります。

 あなたはいきなりひっついてきたリンカに、少しどぎまぎしてしまいました。思わずそういったことを意識していたのでしょう。彼女は魅力的ですから、それも仕方ありません。

 しかし、あまりにさりげなく腕を組む彼女に感心もしていました。なんだか妙に積極的に感じます。彼女もあなたと同じく距離感をつかもうと必死なのでしょう。

 ただ、リンカは何か言いにくそうにしています。
 はて、彼女がそんなに言いよどむこととは、いったい何だろう?
 それはそれで気になります。

 大丈夫だから言ってごらん。
 優しくリンカの頭を撫でて促してあげます。

 少しだけリンカはためらったものの、恥ずかしそうに切り出しました。

「実は、ここには一つだけルールがありまして…」

 ルール?
 その言葉にあなたの身体が少しぎくしゃくします。

 ルールという言葉。それにあまりよい思い出がなかったからです。地上でもルールは山ほどありました。その多くはあなたを縛るものであり、いつも窮屈な思いをしていました。

 ルールに縛られて楽しそうにしている人を見たことがなかったからです。いつも誰かが「こうなっているから仕方ない」と言って、望まぬことをしていたのです。

 動物を愛する人たちだって、ルールがあるから苦しんでいた。
 救おうとしていたのに、いつもルールが邪魔していた。

 そのことがあなたは嫌だったのです。

「大丈夫です。ルールは必要だから存在しているんですよ」

 あなたが緊張したのを見て、リンカが不安を和らげてくれました。

 そうでした。
 ルールというものは必要だから存在しています。

 たとえばゲームのルールならば、みんな楽しく守っているはずです。むしろそうした枠組みの中でやるからこそ楽しいのです。

 ルールによって何か問題が起こるとすれば、人がそれ以上の自由を得ようとするからです。信号だって守らないと危ないから交通ルールがあります。スピードを楽しみたいからと自分だけ飛ばしてしまえば、みんなを巻き込んでしまうでしょう。

 いつも問題は、ルールを守ったあとに発生するものです。だから、ルール自体が何であろうと、結局のところその人自身の問題によるものなのです。

 それに、地上ではルールも多様です。

 車は左通行だ。でも、海外は右通行だ。
 税金は払おう。税金がない国もある。
 人前で帽子は脱ごう。かぶらないといけない国もある。

 そんなややこしい地上と比べれば、たった一つならわかりやすいものです。そう考えて、あなたの心はいくぶんか楽になりました。

 では、それは何だろう?

 そうですね。そのルールが何かが重要です。
 あなたは再度リンカを促します。

 が…

「あ、あ…、あわわ…あわわ…」

 あわわ?
 あわわって何だろう?

「あわわ、いや、これは違くて…、あわわ…」

 リンカがとても困った顔であわあわ言っています。彼女がこれほど動転するのは初めて見ました。

 大丈夫だから言ってごらん。
 少し落ち着くのを待って再び促します。

 すると…

「えっと、その…、愛さないといけないんです!」


「わたしを…愛してください!!」


 この世界には、ルールがありました。
 それも本当に簡単な、ごくごく単純なものです。

 それは、『愛を与えること』です。

 動物は人の愛によって進化します。リンカも愛によってここまで成長しました。愛こそ宇宙を創造した最高の力なのです。

 しかし、動物の魂と人の魂には大きく異なる点があります。人が永遠の個性を約束されている反面、動物は一定の段階で個性を失うのです。

 動物の魂は死後、しばらくは個性を維持しますが、大きな数多くの魂の流れの中に埋没してしまいます。個性を長く維持できるほど、霊が成長していないのです。

 特に人とかかわらない野生動物は、個性を維持することもなくすぐに埋没していきます。各動物を統括する竜のもとで一つになり、管理されることになるのです。

 それは全体で一つの生命なので哀しいことではないのですが、個別では意思を持ちません。それが進化の法なのです。神様が決めたルールです。


 神とは、法なのです。


 神の法からは、誰も逃れられません。宇宙を生み出した神の法則は絶対なのです。その中で唯一、ペットだけが個性を存続させます。

 人の愛を受けているからです。

 神の分霊たる人が放射した生命の光が、その個性を持続させるのです。


 人は、太陽です。


 人の中には、小さな神様がいるのです。
 成長するごとに、その神様の光は大きくなります。

 優しく強くなります。

 困っている人がいれば助けたくなります。

 間違ったことがあれば、自分を犠牲にしても立ち向かおうとします。

 国ごとに違う社会の決まりではなく、人の道を優先するようになります。

 困難にくじけなくなります。愚痴を言わなくなります。

 自ら進んで暗闇の中を歩き、人々を勇気づけるようになります。

 あなたは闇の中でこそ輝く太陽です。


 そうして心の中の光が強くなると神様に近づきます。あの空に浮かぶ黄金の太陽のように、自ら強力な愛を放射することができるようになります。

 そう、人は神様と同じ力を持っています。あの太陽と同じように、誰かを養う光を出すことができるのです。

 愛という生命力。輝き。

 人間は愛の力を使って、動物を養います。
 生命とは愛です。愛は生命であり、神なのです。

 ペットはあなたの魂の光を与えた家族であり、分身でもあるのです。リンカもまた、あなたの分身とも呼べる存在なのです。

「わたしは、ご主人様のおかげで人間になれました。マリナさんも言ってましたけど、これってけっこうすごいことなんです」

 リンカは特別な進化を遂げました。
 もはや犬という範疇をはるかに超える存在です。

「そして、そのぶんだけ大変なんです。まだ私の愛だけじゃ完全に人間にはなれません」

 しかし、急激な進化にはそれなりの代償が存在します。大きく振り子が動けば、当然ながら反動が強くなるのです。

 リンカが高く昇ろうとすればするほど、それだけエネルギーが必要となります。霊的太陽の輝きは身体を維持するには十分ですが、彼女が人間として成熟していくためには不足しています。

 彼女が求めているのは、あなたの愛だからです。あなたの愛によって生まれた彼女は、あなたの愛でしか成長できないのです。

「だから…、愛してくれると…、とても嬉しいです」

 彼女が人間であり続けるためには、あなたの愛が必要でした。それも、普通以上の最大級の愛の補給が必要です。

 愛だけが唯一、彼女を生かしめているのです。
 文字どおり、あなたと命を共有しています。

 あなたの生命の光、愛の光がリンカを存続させます。
 だから、彼女には愛が必要なのです。


 さあ、あなたはどうしますか。

 彼女を愛せますか。

 彼女に愛を与えることができますか?


 …ええ、いまさら答えを確認することもありませんでしたね。あなたが愛しているのはリンカだけです。

 そうでなければ、最初からここには来られません。また、彼女がこの形態をとることもなかったでしょう。あなたが本気で愛したからこそ、彼女だけを愛したからこそ、二人は出会ったのです。


 愛しあうために。
 心から愛するために。


「えへへ、いいんですか? わたし、犬でしたけど…」

「ずっと怖かったんです。あなたに好きな人ができたらどうしようって…」

「やっぱりわたし、負けちゃいそうで…」

「今までがんばってきましたけど、まだ怖くて…」

 愛している。

 愛している。

 愛している。

 千でも足りず、万でも足りず、ずっと答えは同じです。
 彼女のいない人生など、最初から存在しません。

 あなたと彼女は一つなのです。
 あなたは彼女であり、彼女はあなたなのです。

「ああ、わたしも愛しています」

「ずっとずっと愛していました」

「そして、今はもっと愛しています」

「あなたを心から愛しています」


 あなたは彼女を優しく優しく抱きしめました。また春の匂いがそこに立ち込めます。

 ああ、これがリンカの匂いだ。
 お日様の匂いだ。

 それだけでまた眠気が増してくるようです。
 このままずっと抱きしめていたくなります。

 一緒にいるだけで幸せになります。

 ですが、あれれ?
 これからどうしたらよいのでしょう。愛するとは、どういうことなのでしょう。

「ご主人様、今回はわたしに任せてください。大丈夫です。これでもしっかり勉強してきたんですよ」

 疲れているあなたを気遣ったのか、彼女はそう申し出ました。

 う~ん、本当は男としての面子を見せたいところだが、身体がどうも慣れていないようだ。

 ここは彼女の言うとおりにしておこうか。

 眠気もあり、すべてを任せることにしました。

「じゃあ、失礼します」

 リンカはそう言って、あなたの胸に触れました。

 なんだかドキドキします。まだあなたは地上的な雰囲気が多く残っており、思わずいろいろなことを考えてしまったからです。

 地上には地上の愛し方があります。ただし、その多くは動物的な欲求にもとづいたもので、本物の愛と呼べるものは少ないことも事実です。

 結婚した人々でさえ、心がともなっていないものがどれだけ多いことでしょう。そうした人たちは肉体的なつながりだけを見て、愛だと錯覚しています。

 しかし、それは愛ではありません。
 愛であっても、ごくごく小さな段階の愛なのです。

 愛とは。愛とはなんでしょう。
 愛とは…

「ああ、愛しています」

 リンカの手から光がこぼれました。光は手からあなたの胸に吸い込まれるように消えていきます。

 びくんっ。

 その刺激に思わず震えるあなた。誰かに触れられるなどいつ以来でしょうか。それが愛するリンカである不思議。リンカであってくれる喜びが感覚を鋭敏にしていきます。

 な、なんだろう、これは。

 あなたはあまりの感覚の鋭さに驚きを隠せません。リンカの光が触れるたびに、心の中にある熱が増幅していくようです。その感覚はただ熱いのではありません。満たされる気持ち。あふれ出る優しさに似ています。

 そして、身震いするほどの快感がともないます。

 気持ちいいという感情。満たされるという感情。実はこれは、あなたが神様を感じたときに湧き出る感覚なのです。

 困っている人に親切をして喜ばれた時、あなたは一日中幸せな気持ちでいられます。何をしても楽しくて、いつもはつまらないはずの作業もどこかウキウキで、心に翼が生えたように軽やかになります。

 あなたの心にある神様が喜んでいるからです。
 その喜びの感情が、あなたの魂を刺激しているのです。

 その上をいくもの、最上級のものが愛。
 優しさや親切を超えるものが愛。
 地上で愛を感じるのは、何も肉体的に愛し合った時だけではありません。


 愛とは、魂から、その根幹の霊からあふれ出るもの。

 生きとし生けるものすべてに対する無条件のもの。


 むしろすでに外側の殻が取り除かれた世界では、余計な行為は必要ないのです。こうして身体の一部が触れ合うだけでお互いが深くつながることができます。

 地上も、愛のない行為はまったく味気ないものです。満足感より、むなしさが勝ることも多いでしょう。それに比べて、この単純かつ深い愛のなんと雅なことでしょう。

 心の中に虹がかかるようです。想いが、愛が増えていきます。
 その愛を確かめるように彼女もさらに力を入れました。

 びくん、あなたはまた刺激に震えます。こんなにも愛されたことがなかったあなたは、怖くなるほどの愛を感じていました。

 しびれるような快感以上に、不安がこみ上げます。
 まさか、リンカとこんなことをすることになるなんて…
 恋人というよりも、じゃれあう家族のようでもあります。

 しかし、今は男性と女性です。
 二つの要素が出会うとき、一つになるように磁力が働きます。

 愛はたしかに無条件のものです。
 誰に対してもあふれ出るものです。

 ですが、より深い愛は男性と女性のように、互いに異なる性質をもったものが一つになるときに発生します。


 なぜ神は、人間を男女に分けたのでしょうか。

 なぜ二つに分けて、新たに一つになるようにしたのでしょうか。


 ああ、そこに神がいるからです。愛たる神を知るには、こうしたほうがわかりやすいからです。二つという相反するものにならねば、愛を知ることはできないのです。

 違うから求め合う。異なるから助け合える。
 その証拠に、リンカはあなたを求めています。

 愛だけが両者を惹きつけあいます。
 愛は魔力であり、磁力なのです。

 その温かい手にのけぞるあなた。
 ダメです。どうにも身体が敏感でたまりません。

 この身体は、肉体ではありません。しかし、もっと鋭敏でもっと感度が高い媒体です。あなたがもっと愛を感じられるように、もっと与えるように出来ています。

 肉体のように神経で感じているのではありません。あなたの愛が、彼女の愛が、あなたの魂に直接触れているのです。

 それは、肉体以上の快楽を与えます。
 なにせ、肉体と違って限界がないのです。

 心には際限というものがなく、無限に上昇していくものです。あなたの快楽も、地上とは比べ物になりません。

 リンカ、あまり激しくされると危ない。
 そう言って、彼女の頭を軽く撫でました。

「あっ…」

 その瞬間、あなたの手が光った気がしました。
 同時にリンカが雷に打たれたように震えます。

 何が起こったのかわかりませんでしたが、あなたは感覚で知ることができました。手が彼女に触れた時、あなたの愛がリンカに流れたのです。

 その光はわずかなものでした。ですが、地上でリンカのことをただ想うだけのものではありません。

 もっともっと愛して。
 もっともっともっと心を込めて。

 愛されたから愛して。
 愛そうとして愛して。
 あなたが触れたいと思ったから触れて。

 その愛が、たかがこんなものということなど、絶対にありえないのです。リンカは顔を真っ赤にさせながら愛を受け止めています。

 耳が立って震えています。
 しっぽも上がりっぱなしです。

 直接受ける初めての愛に、彼女の心も一気に絶頂に達してしまいました。

 もう身体に力が入りません。すべてが包まれる感覚の中で、あなたは母性を見ました。彼女の大きさと広さを感じました。


 ああ、リンカ、自分のリンカ。
 かわいい、愛している。


 心が爆発寸前です。

 これ以上、触れていたらおかしくなってしまう。

 その気持ちにたえられなくなったあなたは、彼女に伝えます。自分で自分を抑えられなくなってしまいそうで怖かったのです。

 でも、彼女は手を離しません。

「やです。離さない…」

 そんなことを言われたら、もう我慢なんてできません。あなたの中に眠っていた男性的なものが目覚めます。

 身体の奥底から若々しさがよみがえってきました。この欲情、この情愛、懐かしいものです。そしてなにより、一番満たされなかった感情です。

 愛することもできず、愛されることもなく、ただただ生きていました。人にとって、愛せないことほどつらいことはありません。

 愛したい。愛したい。愛したい。
 あなたは愛に飢えています。
 リンカに愛されたことで、あなたの愛が我慢の限界を覚えています。

 あなたの心の光が、まばゆいほどの輝きをもってリンカに降り注ぎました。その感覚は、熱情を秘めた激しいものでした。

 あなたそのものが出ている感覚。
 あなたの中にある何かからエネルギーを放射している感覚。
 あなたの中の熱情から愛が放射されている感覚。

 リンカ…! リンカ、リンカ!

 突然、支配欲があなたに芽生えました。彼女を制圧したい、彼女を自分のものにしたい欲求です。このすべてを彼女にそそぎたい。その激しい欲求には、どうしてもあらがえません。

 彼女もまたあなたのすべてを受け入れようと、光のひと雫も逃さないようにしがみつきます。その姿があまりに愛しくて、また心はいっぱいになります。

 こんなに狂おしいほど愛しいなんて初めての経験です。
 ここまで人を愛したことはなかった。
 人間は、こんなにも誰かを愛せるものなのだ。


 あなたは、初めて愛を知りました。


 愛することを知りました。愛は与えるとき、初めて本当の光を発します。まだ愛と呼ぶには小さなものですが、それは愛の一つです。

 神様の無限の愛の一つです。

 どんな愛とて、愛は最高のものであることには違いありません。その光が、彼女に大きな栄養を与えるのです。


 そして、大事に大事に、あなたの愛は彼女の中に染み入ったのです。


「はぁはぁ…、ご主人様…、ありがとうございます」

 彼女はお礼を言いながら、あなたを抱きしめます。

 愛しく、大切なものを扱うように優しく。彼女にとっては、それが最高の愛情表現なのです。

 ああ、愛されています。

 あなたは愛されているのです。

 二人は愛しあっていました。


 それと同時に、どうしてあんなに激しくしてしまったのかと後悔もします。自分の男性的な側面が強い愛になって、彼女を消耗させるほどの刺激を与えてしまいました。

 もっと優しくしてあげたいのに。もっと愛してあげたいのに、自分のことで頭がいっぱいになったことを嘆きます。

「いいんです。わたしはとても満足しています。ああ、ずっとこれが欲しかったのです」

「ご主人様は、わたしを愛してくれたのです」

 それでもリンカは強い愛を感じていました。人間として愛しあう喜びに満ちていました。彼女のハートが、あなたの愛に震えています。


 今、愛は満ちたのです。


 満たしなさい。愛しなさい。
 そのすべてを制限することなく、愛しあいなさい。


 眠気が増してきたようです。
 今のあなたにはこれが限界のようですね。
 ならば、今は眠りなさい。

 また明日。
 また明日、明日という名の今日が始まるでしょう。

 そのときまで眠りなさい。

 愛は永遠に続くのですから。
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