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アニマルアイランド(小説版) 作者:ぷるっと企画
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唯一の掟

 モミジとイチョウの道を通り、山の頂上にまでやってきました。

 ここでの移動は、ほとんど疲れないので大変ではありません。道を楽しみながら優雅な気分でやってきました。

 とはいえ、それほど気楽ではいられません。心の奥では不安が渦巻いています。もし、子供がつくれないのならば、今までやってきたことが無駄になるからです。

 ただ満たされない欲求をぶつけていただけなのだろうか。
 リンカはそれを知っていたから避けたのだろうか。
 そうだとしたら、すべて自分の独りよがりだったのではないか。

 彼女を愛しているがゆえに、その不安は増していきます。彼女との愛し方がわからなくなります。正直なところ、竜に会うのが怖くなっていました。

 本当のことを知るのはつらいことだ。
 自分もそうだった。

 今までの人生を振り返ってみると、それがよくわかる。
 あのときこうしていればよかった、そう思うことも何度もある。

 でも、でも…

 そのすべては愛のはずだ。
 ならば、前に進むしかない。

 しばらく迷ったあげく、やはり会うことにしました。

 もっと知らねばならないことがたくさんある。
 そのためには竜に会わねばならない。

 あなたは、勇気を振り絞ります。

 彼女との幸せを勝ち取るために。


 そうして山の頂上付近にまで進むと、すでにマローンが待っていました。

 相変わらずのほほえみで出迎えてくれます。彼女は、あなたが来ることを知っていたのです。

 あなたは疑問をぶつけます。

 どうしてリンカは自分を拒むのか。
 この行為で子供がつくれるのか。

 一気にまくし立てます。

 竜は、あなたと対照的な落ち着いた態度で、それらを聞いていました。

 そして、竜は言います。

「生命の法のほかに、ここには一つの掟があります」

 それは知っています。
 愛を与えることです。

 それによって、リンカも個性を維持できるようになるのです。

 自分が愛するから、彼女は生きていける。
 そのことにも誇りを抱いていました。

 しかし、竜は続けます。


「あなたたちには、もう一つの義務があります」


 もう一つの義務?

 そんなことは聞いていない。
 まだ自分が知らないルールがあるのだろうか。

 あなたは一瞬不安になりました。

 それを見て、竜はほほえみます。あなたが怖がるようなことではないと言います。そして、優しく語ります。

「あの子は、アニマルアイランドにいながらも、人間なのです。動物のなごりはありますが、それは他の人間も同じこと。その意味で、すでに人間と同じカテゴリーに入っています」

「たしかに、ここに来た当初は不安定でした。境界線上にいました。しかし、あなたの愛が、彼女の存在を確立させたのです」

「その揺るがぬ愛が、人間の彼女を生み出したのです。その証拠に、あの子は自ら神性の光を発することができるはずです」

「愛を自ら他者に与えることができるはずです。ただの動物には、それは不可能なことです。それゆえに動物には子供がつくれないのです」

 地上と違って、ここでは自ら愛を放つことができなければ、子供はつくれません。

 究極の愛と愛の結合によって個性が生まれるのです。

 ただの動物ではそれは不可能でした。神性の光のない彼らは、自ら愛を発することはできないのです。

 それは生命の輝き。

 彼らの愛らしい感情は素敵ですが、残念ながら神の光はもっと偉大なのです。それは人間だけに与えられたものでした。潜在的に神の火花を持つ、人間や竜しか扱えない力なのです。

 それがない彼らは、生命たる意識、魂を産み出すことができません。彼らは創造者ではないのです。


「しかし、あなたとリンカならば、それができます」

「子供はつくれます。安心なさい」


 その言葉に、肩の力が抜けていきます。

 よかった。本当によかった。
 自分とリンカで子供がつくれるのだ。

 ひとまず安堵したあなたに、竜はさらに続けます。


「この下には、『アニマルランド』があります。アニマルランドとは、動物たちだけが暮らす場所です。そして上の階層には、人間だけが暮らすサマーランドが存在します」

 本来、動物は動物だけで暮らすものです。管理する竜以外には、あまり人間は立ち入らないといいます。

 通常のペットが死んだ場合、アニマルランド(動物界)に預けられるか、サマーランドに暮らす動物を愛する人によって保護されます。

 そして飼い主が死ぬと、改めて手渡すという作業が行われます。しばらく一緒に暮らし、人間が進化するとペットと笑顔で別れる。それが通常のプロセスです。

「一方、このアニマルアイランドは、いわば人と動物の境界線上にあるのです。ここは特別な場所なのです」

 その中でアニマルアイランドという場所は、とりわけ特別な場所でした。

 アニマルランドがあるのならば、わざわざこの世界が存在する必要性はないように思えます。しかし、存在する以上、そこには意味がありました。


「マリナを見たでしょう。彼女はかなり高いレベルに達した犬です。ここは、もうすぐ人として誕生するレベルにまで至った動物の魂が集まっているのです」


 本来の動物界では、各犬種ごとに魂を管理する竜がいます。

 そのグループは、各魂の個性ではなく、全体で一つの意思を持っています。それを類魂グループ・ソウルと呼びます。

 類魂とは、その集まりで進化を続ける枠組みで、動物の種類ごとに何十万、何百万と、それ以上に存在しています。しかし、多くの類魂は未成熟であって、まだ個性を持続させるほど進化できていません。

 よって、動物が生まれる際は、類魂を管理する竜が、改めて魂を地上に送っているのです。そして、死ねば再び戻ってきます。

 そうして得た体験を集めて、グループ全体で進化するのです。ペットも個性を失えば、そこに統合されていきます。


 しかし、動物はいつか人間になります。


 動物の中でも人間に近い、あるいは超える能力を持つ者がいます。


 彼らは、次に人間に生まれるのです。


 動物界から進化し、人間になる。生命としては、中身はまったく同じですから、それも自然なことです。


 動物は、人間になる前の魂たちなのです。


 ただし、本来それは霊として、です。

 霊は、さまざまな進化の段階を経て成長していきます。植物、動物を経て、何百何千万年と進化してようやく人間の個性を扱えるまでになるのです。

 人間は猿を経て進化してきましたが、それは猿がそのまま人間になったわけではないのです。

 霊が一時期、猿として個性を表現していた時代があった。

 ということです。

 そして、人間のレベルにまで到達した霊は、今度は人間の身体を使って意識を表現するようになります。これが進化です。

 ですから、動物であった個性が、そのまま人間になるわけではありません。マリナさんという個性が、そのまま人間になるわけではないのです。

 動物の類魂は、動物として進化を続けます。それは独自の進化です。

 しかし、何事にも例外は存在します。


 リンカは例外にあたります。


 彼女たちは、すでに人間になっています。地上で受けた強烈な愛が、驚くべき速さで進化を促したのです。

 グループの枠組みを超えて、彼女は一つの強烈な個性を得ました。奇跡にも似た、異常進化です。

 ただし、これも法則に則ったもの。
 その原因があるのです。


 あなたが愛したからです。


 あなたの愛が、リンカという存在を生み出しました。進化を急激に促進して、動物の個性が人間になるまでにしたのです。

 アニマルアイランドとは、こうした特殊な事例を観察し、保護し、進化を見守るために存在しているのです。

 これは、心の世界においても特殊な事例なのです。そして、例外ゆえに、もう一つの義務が生まれるのです。

 それは…

「リンカには、子供を産まねばならない義務があります」

「いや、義務と言うのは誤解がありましょうか。強制ではないのです。しかし、あなたたちがここにとどまるには、とても重要なことです」

「あなたも知ってのとおり、ここに滞在するには条件があります。その条件を満たさなければ、おのずと違う場所に向かうことになるのです」

「こればかりは、わたしもどうすることはできません。親和力の法則は、まさしく神の法なのです」

 あなたは驚きと混乱の中にいました。

 竜の言葉をどう解釈してよいのかわからなかったのです。


 リンカには子供を産む義務がある?
 だとしたら、どうして拒むのだろうか。

 むしろ、進んで受け入れるべきではないだろうか。
 それとも、やり方が間違っているのだろうか。
 この場所独自のやり方があるのだろうか。

 またもや悩みのスパイラルに陥ります。

「あなたが心配するようなことはありませんよ。愛に制限はないと言ったではありませんか。あなたと彼女のやり方でよいのです」

「大切なことは、愛すること。最高の愛をつむぐことです。地上の人間は、とかく性を怖がる傾向にありますね」

「しかし、それは神が定めたもの。神竜が決めたことです。なぜ、子をつくることを怖れるのですか。なぜ、性を忌み嫌うのですか」

「わたしには、とても美しいものに見えますよ」


 竜の言葉は、あなたを貫きました。

 性とは、美しいもの。

 神の二つの側面が融合し、究極の一つになる行為なのです。

 神は、すべてに美を与えていました。
 神は、男性でも女性でもありません。
 しかし、その両方でもあります。

 善と悪、愛と憎しみ、怒りと哀しみ、そのすべての中に存在しています。

 そして神は、自身の二つの側面を人間に与えました。
 男性的な力と、女性的な叡智と愛です。

 その二つによって、完全なる神に至るように配慮しています。

「違うから求めるのです。愛するのです」

「他者が存在するから、自分以外を愛せるのです。与えられるのです」

「あなたと彼女の愛が、新たな個性を生み出すのです。それを嫌うなど、もったいないことではないでしょうか」


 なぜ、人は性を恥じるのだろうか。
 なぜ、人は性を避けるのだろうか。

 それは神を知る最高の手段となるのに。

「あなたが怖れるように、たしかに濫用はあります。子供を産む以外、快楽のためだけに使うこともできます」

 あなたも、それを怖れていました。
 ただ快楽だけを求めることに恥じ入っていました。

 しかし、竜は言うのです。

「性を誤れば、痛みを受けます。溺れれば不幸になります。神が想定した範囲を超えれば、それは修正されねばなりません」

「それでも、あなたがこうして学んだように、それも一つの学びの道です。愛を知るためには、痛みも必要なのです。それは自ら選び、悟ることです」

「ですが、リンカがそのような低俗な魂でないことは、あなたが一番よく知っているはずです」


「彼女もまた、子供を欲しています」


 では、なぜなのだろう。
 なぜ、リンカは自分を拒むのだろう。
 竜ならば、わかるのではないだろうか。

 そう詰め寄ろうとしたあなたに、竜は言いました。

「答えは、あの子に直接聞いてみなさい」

「できませんか? ならば、あなたも怖れているのでしょう」


「あなたも、失うことが怖いのではありませんか?」


 そう諭され、はっとします。

 そうだ。自分も怖れているのかもしれない。
 この生活がいつか終わってしまうことに恐怖している。

 彼女と同じだ。

 愛を知れば知るほど、その大きさに驚愕します。全世界、全宇宙を支配する力は、愛です。されど、その愛はより高尚に、より美しくなっていきます。

 いくら好きでも、生命を独占することは許されません。ペットとはいえ、動物を人が力で支配することを神は認めません。

 同じ生命なのです。いつか人間になる魂なのです。
 人間がされて嫌なことは、力が劣る動物にもしてはいけないのです。

 愛を与えなさい。
 愛を与えて互いに幸せになりなさい。

 神はそれを望みます。


 しかし、自由であるがゆえに強制はされません。人が自ら考え、決断することを待っています。そのあいだは、カルマに傷つくことになっても、自ら選ぶほうがよいのです。

 だから、あなたが選んだ道には責任があります。自由の代償は、やり遂げる責任です。

 責任を果たす中で、あなたも立派な人間になっていくのです。愛を知るのです。ここに来てから、そうした愛の大きさ、愛の美しさを知ったのです。

 知ったがゆえに、あなたは恐怖を覚えたのです。
 自分がやっていること、自分の愛のゆがみに。

 しかし、あなたの中には欲求が存在します。

 人よりペットを愛したあなた。
 リンカを通じて、人を愛することを知ったあなた。

 あなたは、ここでの経験によって、愛することを教えてもらったのです。


 そう、これはあなたのために用意された掟。


 あなたが愛のレッスンを受けるためのものなのです。愛することを覚え、愛されることを許す、その練習の場なのです。

 じゃあ、リンカはどうなるのですか?
 自分は愛することを知りましたが、それが終わったらどうなるのですか?

 自分のことよりも彼女が大切なあなたは、そう問いかけます。

「そのために子供をつくりなさい。愛の結晶をつくりなさい」


「その子らは、新たな人間になるのです」


 リンカたちのようなケースは、極めて稀です。人間が進化し、動物に多大な愛を与えるようになって生まれた異種です。

 かつての人類は、ここまで動物を愛せませんでした。自分の生活を彩るための道具。せいぜい家族。その範疇を超えられませんでした。

 しかし、社会がゆがみはじめ、人が人として正しい生活を送れなくなると、あなたのようにペットを最愛の存在とする人間が増えてきました。

 哀れなことではあります。
 社会の被害者でもあります。

 しかし、それは一つの方向性を示したのです。

 一つの進化なのです。

 すべての不条理、不合理の存在が許されるのは、進化にとって可能性を与えるためなのです。個性を生み出すためなのです。

 親が自分を理解してくれない。自分はなんて不幸なのだろう。

 こうした思いを抱く人は多いでしょう。しかし、その家庭を選んだのはあなた自身。その苦しみが、あなたの可能性を引き出すのです。

 誰もが同じ境遇ならば、同じ道しか生まれません。

 ある人は、愛され。
 ある人は、憎まれ。

 ある人は、恵まれ。
 ある人は、失われ。

 一種の圧力を加えられることによって、形はゆがみます。ただ、それによって新しい形が生まれるのです。

 人が進化したからこそ、リンカは生まれたのです。
 動物のまま人間になれる『新しい種』が発生したのです。

 それは進化の本流に生まれた支流の一つ。
 貴重な可能性の一つ。
 神の多様性を表現する大切な種。

 それが社会のゆがみから生まれた愛であっても、愛は愛です。神は、人と動物が互いに愛しあうことを望んでいます。

 進化の最前線を行く優れた魂たち。
 それに対して強い愛をそそげる人間たち。

 あなたとリンカという特殊な組み合わせ。

 マローンは、そういった特殊なケースの情報を集めている竜の一人でした。その者たちが、どれだけ進化の道を歩めるのか。自分を愛してくれた人間との愛の接触で、さらに進化できるのか。

 それゆえに、ここではあなたに大きな自由が認められているのだと言います。

「多くの人間は、このまま上層のサマーランドに向かうのが通常のコースです。しかし、リンカ同様、あなたも普通の人間とは違うのです」

「あなたはここで独自の進化を遂げるでしょう」

「それはサマーランドの中道ではなく、わき道にそれた存在なのです。しかし安心なさい。パターンはあれど、進化の支流は無限にあります」

「もし限界があるのならば、神が完全ではなくなってしまいます。神が完全ゆえに、無限の進化が存在するのです」

「だからあなたは、リンカとずっと一緒にいられるのですよ」

 神は無限でした。

 神が制限をしないのは、神が無限ゆえでした。
 それゆえに人の可能性も無限大だったのです。

 あなたは、それらをすべて理解できませんでした。そもそもあなたにとって重要なことは、リンカと一緒に過ごすことです。

 そして、愛しあうことでした。

「あなたの愛で生まれた彼女は、あなたのグループに入ったのです。あなたたち二人が先頭に立って、また新たなグループを形成するのです」


「愛しあいなさい。子供をつくりなさい」

「その子らは、人と動物の希望となるでしょう」

「新たなる生命の種となるのです」


 その言葉を聞き終える前に、あなたは走り出していました。

 リンカ、リンカ、リンカ!

 もう彼女のことで胸がいっぱいです。

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