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アニマルアイランド(小説版) 作者:ぷるっと企画
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13/16

聖なる結婚

 あなたはすっかりと島の生活に慣れていました。

 もうだいたいのところは行き尽くし、今では一人で行動できます。今日もこうして一人で散歩です。

 リンカといることが飽きたのではありません。ただ、お互いを無理に束縛することはよくないと知りました。独占欲は毒にもなるのです。

 魂とは不思議なもので、束縛すると離れていきます。
 抑圧されると反発します。
 近づきすぎると、慣れてしまいます。

 与えすぎると、鈍感になってしまいます。
 どんなに素敵でも、見続けると飽きてきます。
 それが度を超すと、もう見たくないとも思います。

 神が人生に苦労を与えたように、苦労を知るから愛の本当の美しさがわかるように、適度な距離感というものが必要なのです。

 あなたはここに来てから急速に進歩していました。すべてが穏やかな世界なのに、学ぶことはたくさんあったのです。


 そのすべては愛についてです。


 愛とは、相手に与えるものです。愛を欲してしまうと愛は枯渇し、不幸が起こります。苛立ちや相手への不満を感じるようになるのです。

 そういったものを、日々のリンカとの愛の行為から学んでいました。愛しながら、愛についてより理解を深めていたのです。

 そうです。ここはただ愛しあうだけの場所ではありません。

 愛しあいながら学ぶ場所でもあったのです。


 竜はいっさいの愛を否定しません。どんな愛情であっても、誰かに迷惑をかけないかぎりは認めています。

 未成熟な愛であっても、当人にとっては最高の愛かもしれません。痛みを与える愛でも、愛には違いありません。

 愛とは、相対的なものなのです。
 愛し方はそれぞれ。愛する度合いもそれぞれ。

 父親が子供を心配して、思わず叩いてしまうこと。
 母親が子供を心配して、思わず世話を焼いてしまうこと。
 子供が親を心配して、思わず強要してしまうこと。

 文化人にとっての愛し方。
 未開人にとっての愛し方。
 それぞれ違う愛し方でありながらも、どれもが愛なのです。

 あとは、どれだけ神への理解が存在しているか。愛と叡智に通じているか。

 どんなに地上で素晴らしい発明でも、根源の霊の世界から見れば小さなものであるように。それでも精一杯の進化であるように。すべてにおいて相対的なのです。

 だから、あとは自分たちで学びなさい。
 自分たちの愛し方で、愛を知りなさい。

 未熟であってもいい。傷つけあってもいい。
 少しずつ成長していけばいい。

 竜は、そう言っているのです。


 あなたは、昔は違う考えを抱いていました。

 地上にいたころは、競争があるから何かが進歩すると考えていたのです。お互いに競うから強くなる。新しいものが生まれると。

 それは間違いではありません。

 すべてのものは、ある種の闘争の中から生まれます。よりよいもの、より素晴らしいものを、とお互いを競わせて優劣を争います。

 これは心の世界でも同じことです。

 サマーランドのさらに上の世界では、物事の本質、そのすべての形態が表現される美しい世界があるといいます。そこでさえ、人々がある種の闘争によって進化を果たしていると聞いています。

 しかし、地上はあまりにも意地汚いのです。

 物的に制限のある場所では、おのずと奪いあいが発生します。欲張れば欲張るほど物がなくなり、誰かが不足するようになるのです。

 よいものを生み出したい、それも欲求です。
 しかし、地上はあまりにも欲が強すぎました。
 あなたも含め、誰もがそれに嫌気が差していたのです。

 ここに来てから学んだ一番のことは、平穏の中でも人は学べることでした。愛の中で、よりよいものを生み出すこともできるのです。

 奪いあうことなく、与えあえるのです。

 競争がなくなれば、よいものが生まれないというのは誤りでした。

 人とは不思議なもので、満たされたと思えば、また違う欲求が生まれます。より新しく、より進歩したものを求めていく生き物なのです。

 そうしたことから、あなたにはリンカを独占したいと願う気持ちがあることに気がつきました。

 これは、まだ地上のなごりが残っている証拠です。あなたにまとわりついた、地上の雰囲気がそうさせているのです。誰もが与えあう日々の中で、それはあまりよくないことだと知りました。

 かわいいリンカ、愛するリンカ。

 自分だけのものにしたいと思うのが自然です。ですが、それでは愛がうまく動かないのです。神様の愛の扱いには、一定の条件があるようでした。より強い快楽を味わうためにも、それには従わねばなりません。

 ここでのルールは、生命の法に従うことです。
 神の法に従うことです。

 進化した魂は、神の法を知ったときから、それを破れなくなります。何かに強要されて破れないのではありません。破れば愛から離れることになります。愛から離れることは、痛みと苦痛を味わうことなのです。


 そう、神の法とは愛の法なのです。


 従えば幸せとなり、快楽が増します。
 逆らえば不幸となり、痛みが増します。
 誰だって幸せであるほうを望むはずです。

 これは地上でも同じことです。

 比較的優れた魂は、道徳心が高く、落ち着きがあります。一方の未熟な魂は、粗暴で乱雑で、常に感情を乱します。

 仮に動物を殺して食べることが悪いと知っても、未熟な魂はそれを理解できません。頭では理解しても、結局は従わないでしょう。心が理解していないのです。魂がそこまで成熟していないのです。

 そして、不幸になります。
 自分が不幸と知らないままに。

 あなたは、もともと愛情深く、優しい性格の優れた魂でした。ただ、地上では正しいことを知らなかったにすぎません。

 単に優しいだけでは、これ以上は行けません。

 魂とは、強くあらねばなりません。神の法を知り、遵守し、理解を深めて叡智を獲得しなければならないのです。

 与える愛を味わうためにも、法には逆らえません。あなたの中の神様が、それを拒むのです。

 愛を欲するのならば、愛の法に従わねばならない、と。

 そこでまた悩むのです。

 リンカと最後までしたい、でも無理強いはできない。
 それは自分が求めていることになってしまう。
 与えることが愛なのだから、自分は我慢すべきだ。

 そうした悶々とした気持ちを悟られまいと、こうして一人で出歩く機会が増えるのです。


 一緒にいると、おのずと気持ちが伝わってしまいます。


 ここは心が形態をとる世界。思ったことが相手にすぐわかるのです。それをリンカが知ってしまうと、傷つけてしまうかもしれません。

 いや、もう傷ついているかもしれない。

 そう思うからこそ、あなたは少し距離を取っているのです。リンカを想って。

 困った。
 今の生活には満足しているが、これだけは不満だ。
 我慢するのが正しいのだろうが、やっぱり不満だ。

 素直なあなたは嘘がつけません。ここのところ、そればかり気にしてしまい、ぼけっとする日々が続いています。

 なにより、彼女はどう思っているのでしょう。
 なぜ、あれほどまでに拒むのでしょうか。

 嫌われてはいない。愛されている。
 拒まれることが理解できない。

 もうそのことしか考えられません。


 あなたは、とぼとぼと町にやってきました。

 そういえば、ここに来るのは久々です。リンカとの愛の生活は、特に町に出向かなくても快適だからです。

 それこそ愛に没頭していた証拠です。自分たちだけにかまけて、島で一緒に暮らす人のことを忘れていました。

 他人に対して尽くすことが愛の法だったはず。
 これは自己愛だ。反省しよう。

 あなたは、少しばかり反省します。最愛のリンカを大事にするのは良いことですが、神の愛はもっと深いもの。

 醜いと思う人の顔を優しく拭いてあげる。
 嫌いと思う人の心を励ましてあげる。

 そこにこそ美徳があるのです。


 町は相変わらず犬が多くいました。

 それも当然、ここは犬が集まる場所です。ここではいろいろな犬種がいますが、動物界という場所では犬種ごとに分けられているようです。人間が似たもの同士で集まるように、同じ犬種同士で集まって暮らすのが普通なのです。

 なので、ここは例外です。

 そう、ここは『特別な進化』を遂げた犬たちが来る場所なのですから。リンカのように飛びぬけて進化している魂は稀ですが、それ以外の犬たちも進化しています。

 飼い主との愛が彼らの進化を促進させ、その内部から力を引き出しているといいます。

 すべての魂には、潜在的にすべてが眠っています。

 動物の段階ではそれが小さいだけで、ないわけではありません。神が人に自我意識を目覚めさせたように、人が動物を目覚めさせるのです。

 動物には動物の進化の工程があります。

 人間は、動物を愛することによって、その進化を促すことができるのです。そして、愛を与えることによって、人もまた進化するのです。

 人と動物、両者は一緒に歩むようにと配慮されています。

 神が地球に人間と動物を一緒にしたのは、愛するためです。人と動物が一緒になって、兄弟姉妹のように、あるいは恋人のようになって、愛を与えるためです。

 このアニマルアイランドを見ると、それがよくわかるのです。

 人が動物を愛する。
 動物は、愛を受けて成長する。

 その進化が目に見えてわかるので、人はまた喜んでさらに愛をそそぐ。それによって動物はさらに進化する。結果として、人間も大きく成長する。

 すべてがよくできています。愛と叡智によって生み出されていることがよくわかります。

 しかし、改めて考えるとここは不思議な場所だ。
 そもそも、ここはずっとこのままなのだろうか?

 あなたはようやくそのことに気がつきます。

 以前、山が光るのを見ました。あれは人がペットに別れを告げて、より上の、本来のサマーランドに戻っていく光景でした。

 人はそれでいいだろう。そうして進化する。

 話によれば、上はほぼ際限なく無限に存在するそうです。サマーランドの上にはスピリットランドがあり、その上にはフレイムランドがあるそうです。こうして、人は無限に進化していくと聞いています。

 上に行くごとに魂がより広く深くなっていき、より愛を発するようになります。そうして、神のような人となっていくのです。


 人は神の種子ともいえます。


 その心に、神と同じ資質を宿しているからです。

 しかし、ここの動物たちはどうなるのだろう。
 絆が切れれば個性が消えるというが、それはかわいそうではないだろうか。

 あなたはまだ、それがよいことだと思えません。

 それとも自分が進化したら、それがよいことだと思えるようになるのだろうか。でも、リンカと離れるなんて考えたこともありませんし、真っ平ごめんです。

 彼女のいない人生など、あってないようなもの。

 しかし、世界がそうなっているところをみると、そちらのほうが正しいのでしょう。先日もまた何人か昇っていったようです。

 自分もいつか昇っていくのだろうか。
 リンカと別れるのだろうか。
 そんなことは嫌だ。絶対に嫌だ。

 そんなことを考えていると…


「やあ、お兄さん、久しぶりじゃないの。リンカちゃんとは仲よくやっているの?」

 そこにはマリナさんがいました。

 あれから何度か会っており、すでに顔なじみになっています。マリナさんは、すぐにあなたの異変に気がつきます。

「なに浮かない顔をしているのさ。あんたが悩んでいるなんて、このマリナさんにはお見通しだよ」

「ほらほら、話してみなさい」

 彼女はここも長いようですから、知識には長けているはずです。自分のことを含めて質問してみようと考えました。恥ずかしいことですが、ここはもう誰かに相談するしかありません。

 まさか愛の営みについての悩みを犬に相談する日がやってくるとは。
 あなたは複雑な心境になりながらも、思いきって打ち明けます。

 実は…、かくかくしかじか。


「えー! それはまずいワン」

 マリナさんも、うっかりと語尾がワンになるほど驚きました。でも、そこはベテランのマリナさんです。あなたの悩みをずばり解決してくれます。


「いいかい、そういうことは子供を生むためにやることなのよ」


 あなたは驚き、硬直しました。

 あまりに驚いたので、しばらく動けなかったほどです。それからしばらく放心していましたが、ようやく気を取り直します。

 子供とは、どういうことだろう?
 自分たちは愛しあっているけど、子供をつくるためにやっているわけではない。

 その旨をマリナさんに伝えます。すると、マリナさんは驚くべきことを教えてくれました。

「地上の人間の性生活は、子供の身体、肉体をつくるためのものなの。で、こっちは魂をつくる行為なのよ。本質は同じものよ」

 地上では、男女の性行為によって子供をつくります。

 つくるのは、意識の入れ物である肉体です。

 意識そのもの、霊や魂をつくることはできません。あくまでその入れ物を用意することで、霊の活動する機会を提供するのです。

 これも神が人間に与えた使命です。

 神は、人間の肉体を生み出すという、自らの造化の仕事の一部を人間に任せているのです。それによって人間は、養われる側でありながらも神に貢献できるのです。

 では、人間の霊魂はどこで生まれるのか。
 意識はどこで生まれるのか。


 それは、心の世界で生まれるのです。

 お互いの魂と魂を融合させて。

 情報を交換しあって。

 新しい魂を生み出します。

 自らの子供を。

 自らのすべてを分け与えて。


 これが、与える愛の真の姿でした。


「そうね。地上とはまったく違うわね。地上はこの世界の影。より低俗な形で行われるから、あなたが意識しないのも仕方ないわ」

 マリナさんの言うとおり、地上とはまったく違う行為だったので、あなたは意識をしたことがありませんでした。

 しかし、これは両者が交わる行為。

 性とは、男女のこと。
 性とは、完全への道。

 性とは、神を知ること。

 こうして考えてみれば、すべてはつながっています。神につながっています。愛につながっています。

「あなたとリンカちゃんは、結婚しているも同じなのよ。結婚したなら子供をつくる。自然なことじゃないかしら」

 衝撃。

 あなたは、思わず後ずさりするほどのショックを受けました。

 愛する男女が一緒に暮らしているのだ。
 何も考えていなかったが、たしかに結婚だ。
 男女が交わる行為ならば、その究極に子供があってしかるべきだ。

 あなたは、今になって事の重要性に気がつきます。交わる快楽に夢中になっていて、そんなことにまで頭が回らなかったからです。

 そんな簡単なことに気がつかなかったなんて、自分は人間失格だと恥じます。

 しかし、マリナさんはあなたを慰めます。

「ここは、そうした愛を満たす場所でもあるのよ。もし、あなたが地上で満足していたら、こういうかたちにはならなかったはずよ」

 霊の世界には、すべてがそろっています。地上で起こったことの埋め合わせが、必ず行われるようになっているのです。

 善行を施した人には、充足と満足が。
 苦しんだ人には、慰めと労りが。
 走り抜けた人には、安らぎと平穏が。

 愛されなかった人には、愛が。
 結婚できなかった人には、心からの情愛が。

 これが神の正義と公正でした。

 すべてのものには埋め合わせがあるのです。地上は、あくまで体験を積みにいく場所であって、本質はこちらの世界だからです。

「そして、あなたの本当の欲求は、子供をつくることじゃないかしら」

 マリナさんは、的確にあなたの本心を見抜いていました。

 あなたは、地上で孤独でした。
 孤独がゆえに、結婚に憧れていました。
 家族にも憧れていました。

 結婚して家庭を築きたい。
 妻と子供と一緒に、幸せになりたい。
 苦しみも楽しみも分かちあいたい。

 それがあなたの願望でした。

「これはリンカちゃんにも非があるわね。もし最後までしていたら、きっと子供のことを考えたはずよ」

「ねえ、どうして子供が欲しいと思うようになるか知っている?」


「それは、神様が欲するからよ」


 どうやら神様は、子供を産むことを推奨しているようです。完全なる神様は、子らに増えることを望まれているといいます。よって、すべての生命は増えるようにできているそうです。

 たしかに地上にいたときも、あらゆる生命は生まれ続けていた。
 人間はもとより、犬や猫、その他の動物たちも自然に増えていく。
 それは性行為をするからだが、それそのものが欲求だ。

 人には、生殖の欲求がある。
 これは自然なことだ。

 ええ、そうなのです。

 すべての生殖本能は、神様から発せられていたのです。神様が「増えなさい」と命じるから、生命は増えようとするのです。

 神が無限だからです。

 永遠という言葉を人間は理解できませんが、永遠は何もしないという意味ではありません。

 永遠とは、永遠に活動し続けることをいうのです。

 神とは、永遠に生き続ける存在。
 活動し、創造し続ける存在。
 永遠に増え続ける存在。

 神は、すべての創造物に増え続けることを命じています。植物も動物も人間も、神の命令で生殖本能を与えられているのです。

 神が活動を止めた瞬間は、悠久の過去の中で一度もありませんでしたし、これからも永遠にありません。

 生命である以上、増えようとする。
 これが自然の摂理であり、霊の本質なのです。

 でも、なんだか恥ずかしい。
 そんなつもりじゃなかったから、ドキドキする。

 あなたは、突然もじもじしてしまいます。子供と聞いて、ついつい地上での感情を思い出したからです。

 そんなあなたに、マリナさんが動物としての助言をくれます。

「人間は不思議ね。どうして生殖について、そんなに恥ずかしがるのかしら。とっても自然で、とっても価値あるものじゃないの」

「生きている者は、すべからく子供を産みたいと願うもの。とても自然なことよ」

 マリナさんの言葉に、あなたははっとします。

 人間社会の中には不思議なことに、生殖に対して恥じらいというものが多分に含まれます。高度な意識を持つに至った人間だからこその倫理観があるからです。

 それ自体は問題ありません。倫理観がなければ、夫婦という存在も理解できないからです。

 ただし、恥じらうことはありません。

 植物の受粉だって同じことです。
 魚同士の受精だって同じことです。

 高度になるにつれて、愛情が増していきます。与える愛が増えていきます。その労苦がかたちになるのですから、素晴らしいことなのです。

 思えば人間社会は、毎日他人の恋愛話でもちきりです。それだけ生殖に対して興味があるのです。

 神が求めるからです。

 神は常に増えることを望みます。増え続けることこそが、神にとって存在意義でもあるからです。

 神の子である人間も同じこと。増えることは、神の意に添うことなのです。正しいことです。価値あることです。

 それゆえに、意図的に生命の出現を阻害することは、進化を阻害することになります。

 人が山を切り崩したせいで、動物たちの生態系が狂います。
 外国から違う種類の動物を持ってくるから、生態系が狂います。

 それもすべて、人が招くことです。
 かといって、意図的に増やそうとすることも無理があります。

「地上じゃ、ブリーダーって言うのかね。ああいうのは困ったものよね。ペットも困るけど、食用のために人工授精させるのも、狂気の沙汰としか思えないわ」

「すべては自然でコントロールされているものなの。人間は強い力を持っているから、そういうこともできるけど、よくないわね。だから病気になったり、短命だったりするのよ」

 生命には法があります。

 進化に合わせて、自然界が調整を施すのです。
 仮に増えすぎれば、自然が減らすでしょう。

 神は、自然だけに生死の権利を与えました。


 それが増えるか減るかは、自然が決めます。ただ、人は神ゆえに、自然界に影響力を持ちます。人間が利己主義から法を逸脱すると、さまざまな弊害が起こるのです。

「生殖の時期ってのがあるじゃない。あれも意味があるのよ。すべてはちゃんと管理されているものなの。そのうえで、しっかりと子作りすればすむ話だわ」

「愛するってことは、素晴らしいことなのよ」

 地上で最高の愛の表現である、男と女が交わり一つの生命を宿す行為。

 男女の結合は神聖な儀式なのです。
 結婚は、まさに神が与えた祝福なのです。

 わが子らが、自分を知るために与えた手段です。神が与えた聖なるものなのですから、そこにはご褒美がたくさん詰まっています。

 喜びがあります。
 楽しみがあります。
 快楽があります。

 苦しみすら、それらのスパイスにできるほどの、笑顔があります。

 愛は創造なのです。
 子供をつくることは、人の最高の幸せなのです。


「すべての生命は、創造することに喜びを感じるの。あなたたちが求めあうのも、子供をつくるためよ。その最高の愛に向けて、二人の磁力が働くの。だから、今の状況はよくないわね」

 それはあなたもわかっていました。知識ではなく、本能的によくないと悟るのです。それは、あなたが進化したからでもあります。

 リンカとは本気で愛しあっている。
 叶うことならば、自分も子供がほしい。
 彼女と一緒に家庭をつくりたい。

 予想していないことではありましたが、結果的にはあなたの願望が表面化するよい機会となりました。

 ただ、どうしてリンカが嫌がるのかが謎なのです。

 もしかして、子供をつくりたくないのだろうか?
 若い男女のあいだではよくあることです。

 リンカがそう望むなら仕方ないか。
 あなたは容認しようとしますが…

「ダメダメ、それはいけないことよ!!」

 怒られました。

 物事の順序が違うのです。
 子供を産む行為だからこそ快楽が存在します。

 神様は、愛にご褒美を与えているのです。

 愛しあうことは甘美なこと。地上では肉体の創造にすぎませんが、自らの情報を与えあうことこそ最高の愛です。

 存在そのものである遺伝情報を与えあう、これは完全なる自己放棄でもありました。心の世界では、自分のすべてを与えることになります。

 その時の快楽は、もはや言葉にはできません。自分のすべてを与える解放感は、この宇宙の中で最高のエクスタシーなのです。

 しかし、今の段階では、その快楽だけを得ている状態です。しかも不完全な形で。

 それに対してマリナさんは警告します。

「竜の神様は否定はしないけど、あまり続けているとまずいかもよ。内緒の話だけど、けっこう堕ちていく人もいるのよ」

「あなたも、ここが『いい人』ばかりで驚いたでしょう? それと同じく、『あまりよくない人』たちの集まりもあるの」

「ペットを愛しているとはいっても、いろいろな人間がいるものね」

 このアニマルアイランドに住み続けるには、特定の条件が必要でした。

 ペットへの愛情。
 動物への愛情。
 ある程度の道義心を持ち、ルールを守ろうとする意思がある人。

 そして、ペットしか愛せない心のゆがみ。
 満たされない願望。

 そうした特定の条件をそなえると、ここに住むことができます。

「愛しあうことには快楽がつきまとうけど、それだけにとらわれちゃダメよ。人間のサマーランドの中には、かなり酷い場所もいっぱいあるからね」

「愛欲の都市ってのもあって、そこじゃ本当の愛はまったく見られないそうよ。あー、やだやだ。愛から離れるって、本当に怖いわね」

 ただの肉体の快楽にとらわれていると、次第に下降していきます。それは罪とか罰の問題ではなく、魂が自動的に似た属性の場所に引き寄せられるからです。

 いまだ動物的な欲求に支配された、未熟な人間の中には、動物界よりもさらに下に墜ちる人も大勢いるといいます。

 彼らは見た目だけの快楽、物的な欲求だけにとらわれており、死後も習慣が抜けていないのです。

 愛することもせず、もらうだけ。
 愛されても、その愛に気がつかない。

 道徳的にも倫理的にも、感受性が育っていないのです。神様が与えた甘美な果実も、彼らには無味乾燥のものに感じます。

 困難や苦しみを味わってこなかったからです。
 苦しくても、学ばなかったからです。
 痛みに鈍感だったからです。

 残念ですが、こうした人間は神の光が見えず、いまだ物質性の強い階層に同類とともに引き寄せられます。

 そこは地獄。

 あなたから見れば、地獄と呼んでも差し支えないほどの劣悪な世界。地上よりも劣る世界です。

 あなたも地上で、こうした人間を何人も見かけたはずです。

 彼らは、愛について無知なのです。
 愛について考えたことがないのです。
 考えたとしても、ごくごく浅いものなのです。

 正義である神は、すべての人間を平等に扱っています。それゆえに、愛を大切にした者とそうでない者を同列には扱えないのです。

 あなたが、ここにいるのは当然の結果。

 今になってマローンが言っていたことを思い出します。

 愛してよかった。
 人間社会では認められなかったが、神様が認めてくれた。
 神に認められればよいのだ。

 人が守るべきは、神の法だけです。人の法は、神の法の模倣にすぎません。そのすべてを網羅していません。それは不可能なことです。

 ただ、あなたもまだ、究極の愛には到底達していません。まだ彼女とのことしか考えられなかったからこそ、子供にまで気が回らなかったのです。

 それは未成熟な証です。
 しかし、二人のあいだには輝く愛がありました。

 相手を思いやり、相手のためにしてあげる、与える愛です。それ自体は清らかなものですから、特に問題視はされなかったのです。

 いまだ発展途上の愛に、多少の独占欲はあってしかるべきだ。
 求めるから与えられる。

 それも神の御心でした。

 当たり前だが、子供をつくるために愛しあい、交じりあう。
 やはりここははずせないポイントだ。

 あなたは、なんとかしないといけない気持ちになりました。

 そして、ふと気がつきました。

 この町には、子供がいません。小さい犬はいても、動物の赤ちゃんはいなかったのです。

 はて、これはどういうことだろう。
 こうして赤ちゃんをつくることを推奨しているわりには、ここには子供がいない。もしかして、動物同士ではつくっていないのだろうか?

 その疑問をぶつけてみると…


「わたしたちには産めないの。ここでは竜が産むのよ」

 さすがにそれにはあなたも驚きます。

 竜といえば、あのマローンですが、彼女が産むのだろうか。

 どうにも彼女が産む姿が想像できずに困惑します。

 それに、動物たちが産めないのならば、自分たちも産めないのではないか?

 だんだんと不安になってきます。この行為そのものが否定されているようです。

「あなたとリンカちゃんは特別だもの。そこまではわからないわね」

「そういう人間的な愛し方をするのは、ここじゃ珍しいほうなのよ。そもそも人間同士で愛しあうことが珍しい場所だからね」

「できないことはないと思うけど…、う~ん、やっぱり知らないわね。満足した人間は、すぐに上に行っちゃうもの」

 マリナさんは、それ以上は何も知らないと言います。

 彼女は、自分が動物であることを自覚していました。動物には限界があることも知っています。すべては上の階層の竜や人間の仕事だから、自分はただそれを見ているだけだと。


「いっそのこと竜の神様に直接聞いてみたら?」

 そうだ。それが早い。
 マリナさんの助言に手をたたきます。

 竜とは何度も会っていますから、いまさら気兼ねすることもありません。
 じゃあ、さっそく行ってこようと意気込みます。

「がんばるのよ。わたしも応援しているからね」

 ありがとう、マリナさん。

 本当に自分たちを心配してくれるマリナさん。その心が嬉しくて、あなたは感謝の気持ちでいっぱいです。

 こんなにも期待されているのだから、がんばらないといけない。

 不安だけど、勇気を出して直接聞きにいこう。

 あなたは、気持ちを奮い立たせます。


 さあ、目指すは竜の住む山です。

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