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アニマルアイランド(小説版) 作者:ぷるっと企画
12/16

いちまつの不安

 あれからどれだけ経ったでしょう。

 ここでは時間を意識しないのでわかりませんが、地上の感覚で一年くらいは経ったかもしれません。

 あなたは、変わらずの幸せな日々を送っています。太陽は常に輝き、大地は美しい花々を咲かせています。誰もに笑顔があり、苦しみは存在しません。

 あなたにとっては天国のような場所で、そのすべてに満足していました。

 あなたは今日もリンカと一緒にいます。愛しあう二人が分かれることはありません。

 リンカ、愛しあおうか、そう言います。

「はい、あなたとならば喜んで」

 彼女もこくりとうなづきます。

 愛を発し、与えあう日々は最高です。その快楽に限界はなく、ひたすら燃え上がるようです。

 いつまでもこうしていたい。
 ずっと愛しあっていたい。

 二人は愛に夢中でした。


 ただ、一つだけ不満があります。


 それは…


 二人は愛しあいます。

 お互いの大切な部分に、心に、ハートに触れます。愛をたっぷりそそぎます。

「ああ、大好きぃ。ご主人様、大好き」

「感じてください。わたしの愛をここから感じてください」

 リンカは、本当に愛しそうにあなたに触れます。

 あなたに愛が届きますように。
 あなたが気持ちよくなりますように。

 そうした願いが痛いほど伝わってきて、あなたの心に愛が溶けていきます。

 その愛は、かなり大胆です。

 最初はおそるおそる触れていたものが、強く。
 最初はおそるおそる触れていたものが、激しく。

 度重なる愛の触れあいに恥ずかしさが薄れたのか、愛は日に日に強くなっていきました。どうすればあなたが喜んでくれるのか、彼女も努力しています。その努力の成果をいかんなく披露します。

 しっかりと愛をこすりつけるように。
 あなたのハートに自分を刻みつけるように。

 言葉が光になって、流星になって降りそそぎ。
 触れる感触は、朝露のように繊細で香り高く。


 そして、愛の炎は海となって、あなたを包んで。


 その刺激に、あなたも恍惚とします。

 彼女の全身を通して、愛が伝わってきます。
 心が温かく火照り、熱におかされていきます。

 ああ、リンカ、なんて可愛い子なんだ。
 自分がリンカを育てているのだ。
 自分の愛が、リンカを進化させている。

 あなたが愛をそそぐたびに、彼女は成長しているようでした。愛の光も強くなり、感受性も人間以上に高まっていきます。最初は不安定な面も多くありましたが、今ではあなたとまったく同じ存在です。

 あなたの愛が、彼女に分けられたから。

 あなたが愛したから、彼女は人間に近づいています。

 心が満たされます。

 愛したことに。
 愛されたことに。

 こんなに一生懸命に愛をそそいでくれる。
 何度も愛しあっているのに、衰えることはない。
 それどころか、愛するたびに愛が増えていく。

 いつかは慣れていくのだと思っていました。この快楽も当たり前になるのかもしれないと。しかし、愛が増えるので、そこに限界はありませんでした。


 愛するたびに新鮮。

 彼女のすべてが自分を包み込む。

 愛はなんと素敵なのだろう。

 ならば、自分ももっと愛そう。


 あなたもリンカを抱きしめます。自分のすべてを与えようと、女性的なものに男性的な力を与えます。

 びくん。

 リンカがはねる音。

「ああ! 熱い…! 強くて…大きい!」

 リンカが感じているのは、男性的な力。
 自分にはない、強くて大きい力です。

 神の父たる特性である力は、宇宙を創造した力。あらゆるものを生みだし、あるいは壊し、無限に活力を与えていく大いなる力。

 男性的な力は、地上では誤って使われることが多いものです。創造と破壊の力は、場合によっては暴力となり、支配的に作用してきました。

 しかし、本当の男性的な力とは、雄大で大きく、空を駆け抜けるほどに力強いのです。頼りがいがあり、たくましく、一途な力です。

 リンカも最初は恥ずかしがっていましたが、今は男性的な力が大好きになっていました。

 あなたに包まれて。
 絶対的な安心感を与えられて。

 すべての不安が打ち消されるほど、強く。
 すべての存在が認められるほど、優しく。

 正しいものを貫くものは、正義として。
 過ったものを救うものは、寛容として。

 父のように、夫のように、その愛は勇ましくリンカを包みます。もう犬であったことなんて気にならないほど、二人は人間として完成されつつありました。

 愛情が増していきます。
 お互いにしか知りえない部分を共有する快感。

 二人の関係が特別だと知る瞬間。
 宇宙で二人だけしかいない瞬間。

 言葉も必要なく、お互いを欲し、愛しあいます。
 愛に夢中になります。

「もっともっと気持ちよくなってください。もっと…もっと!」

「ご主人様が気持ちいいだけで、わたしも気持ちいいです!」

「もっと、もっと…、愛を…!」

 愛されている快感に震えながら、一生懸命に愛を与えようとします。

 愛する喜び。
 愛される喜び。

 どれもが愛しい時間です。

 そして、お互いの気持ちが盛り上がってきて、ついにそのときが来ます。


「あっ、ダメ!」


 最後の瞬間。

 二人の魂が融合する瞬間。

 彼女はためらいと拒絶を見せました。


 心の世界に境界線はありません。地上と違って肉体で分かれているわけではないので、魂と魂は融合する性質をもっています。

 まるで同じ原子同士がくっつくように。

 神が生み出した親和力の法則は、極限にまで高まると融合を果たします。どちらがどちらか、わからないほどに。両者は一体となって。

 あなたがわたしに、わたしがあなたになって。

 心の世界に、その境目は存在しないのです。特に意識レベルが同じ魂がそろうと、何十人、何百人、もっと高まれば数億人で一つの意識体を構成します。


 全体で一つなのです。


 すべての体験、すべての感情を共有します。

 かといって、個性が埋没することはありません。客観的な全体の一つでありながら、主観的な意識を同時に持っているのです。これが心の世界の通常の状態なのです。


 神が、人間の霊を一つにつくったから。


 これこそが、人類が一つである証拠です。いかなる人種であっても、あるいは住む星が違っても、人間は神によって結ばれているのです。

 愛が、みんなを一つにするのです。

 あなたが苦しい時、わたしも泣いています。
 あなたが痛い時、わたしも苦しんでいます。

 あなたが嬉しい時、わたしも笑っています。
 あなたが愛する時、わたしも愛します。

 すべての人間が、愛され、愛することができる。すべての体験を集約して、さらに上昇する。霊として完成されていく。

 この愛が、この驚くべき愛がわかるでしょうか。

 神が、どれだけ人間を愛しているか。
 神が、どれだけ愛することを願っているか。

 そして、神が与えた最高の愛がもう一つありました。


 完全なる融合。


 両者の霊が、完全なる融合を果たすのです。これは霊にとって最高の喜びの一つです。誰もが味わえるものではありません。

 しかし、あなたとリンカには、その可能性があります。

 あなたの愛によって生まれたリンカ。
 リンカによって導かれたあなた。

 二人は、同じ愛をもとにして生まれていました。あなたはリンカであり、リンカはあなたといえるほどに。

 ですが、何度も愛しあっているのに、彼女は最後の瞬間だけは認めてくれません。一番気持ちが盛り上がってきているのに、それはつらいことです。

 なぜだろう。どうしてだろう。

 あなたは、ずっとそのことを不思議に思っています。

 不満に思っています。

 強引にやろうかと思ったこともありましたが、それでは意味がありません。お互いの気持ちが一つになって初めて、この絶頂が存在します。

 ハートから生まれる愛がすべてを包んだとき、融合と至上の快楽があるのです。それは、二人の共同作業によって生まれます。


 愛は、一方通行では完成しないものです。


 地上では、一方通行の愛が多く見られます。愛を押しつけるから苦しくなる。愛を求めるからつらくなる。どれも不幸なことです。

 愛は、与えた時にだけ光り輝きます。そこには叡智が必要なのです。それに、自分が味わいたいこともありますが、なによりリンカに味わってほしいのです。

 味わってほしいからつながりたいのに…

 それを制限されることは不満です。あなたは、軽い苛立ちのようなものを覚えていました。ただ、それをリンカにぶつけるようなことはしたくありません。今は、彼女が望むままにあろうと思います。

「ごめんなさい。わたし…、その…」

「ご主人様がしたいこと、よくわかるんですけど…」

 いいんだよ、リンカ。
 わかっているから。

 あなたは、優しくうなづきます。

 それ以外にも愛し方はたくさんあります。つながることだけがすべてではないのです。

「ああ、愛しています」

 二人は、お互いの大切な心を寄せあい、すりつけ、馴染ませます。融合ではないものの、触れあいます。

 彼女のかたちは、自分のかたちとぴったり合います。まるで吸いつくかのように、心と心がぴったり当てはまるのです。それだけでも、神が与えた快感は相当なものでした。

 愛すれば、満たされる。
 愛を与えれば、気持ちよくなる。

 神の叡智が、ここにありました。

 あなたは、軽い苛立ちを隠すようにその行為に没頭します。そして、気持ちよくなってもらえるように、愛を意識します。

 ハートの中にある神様を意識して、光を出そうとします。

 ああ、愛している。
 彼女が存在しているだけで満足だ。

 たとえ最後までできなくとも、この愛に変わりはない。
 ここまでできるだけでも幸せだ。


 ハートから愛が生まれていきます。それは自然と感謝になり、深い愛情となっていきます。

 お互いが密着している部分から、愛が伝わっていきます。

「ああ、わたし…もう!」

 お互いの気持ちが高ぶり、絶頂に至ります。

 心がとけあって、許しあって、世界が一つになっていきます。何度も何度も絡みあい、融合していきます。

 お互いの心が糸になって、少しずつ絡まっていくように。
 一本、また一本と二人の心があわさって。

 そこからまた光がはじけ、愛がしみ込んでいきます。それはリンカに自分を覚えさせている行為でもあります。

 自分の匂い、味、感情、経験、記憶。
 魂の情報を伝えているのです。

 ああ、彼女を支配している。
 彼女は自分のものだ。

 そしてまた、自分は彼女のものだ。
 愛の交流にあなたは恍惚とします。

 しかし、心の中にあるかすかな揺らぎは残ったままです。

 この状態でもこれだけ気持ちいい。
 ならば、最後までしたときの快楽はどれほどのものだろう。

 いけないと知りつつも、気になって仕方ありません。

 人は快楽に素直なもの。悪いことではないのです。ただ、あなたは溺れる怖さも知っていました。

 この愛は、けっして彼女を独占するものではない。
 すべての生命に対して向けられる神様の愛なのだ。
 それを自分のためだけに使ってはいけない。

 この月日において、あなたはそれを悟ったのです。自己の欲求だけで使おうとすると、愛はうまく働きません。愛を出すためには、必然的に自己を捨てねばなりませんでした。


 自己犠牲こそ、神のもっとも愛するもの。


 意識せずに自分を捨てる行為に、人々は感動します。自分のためではなく、相手のために。大切な人だけではなく、弱きすべての人々のために。

 飢えた人には、自分のパンを与え。
 乾いた人には、自分のワインを与え。
 求める人には、自分の身を与え。

 怯える人には、自分の知識を与え。
 苦しい人には、自分の勇気を与え。
 泣いた人には、自分の愛を与え。

 その瞬間、あなたという名前の神は愛を放ちます。世界を満たします。愛で、その大きな翼で、地球をすっぽりと包んで癒してしまいます。

 自分を忘れてリンカを想うときに、愛は加速します。
 自分の快楽ではなく、彼女の快楽を想うときに愛は生まれます。

 だから、その心は秘めていました。

 愛は変わらない。
 愛はどんな形であれ素晴らしいものだ。
 これで我慢するのが正しいことだ。

 あなたはずっとその想いを抱えながらも、満足しようとしていました。

 こんな幸せは、自分にとって過剰だ。
 今だけでも、神に感謝しなければいけない。

 それでも。

 それでもあなたは、どこか不安を感じていたのです。

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