第6話:鈍感男と丁寧娘
「結局……相原さんでいい? 呼び方」
「………せめて呼び捨てにしなさい」
「ふ~ん……じゃ相原。みんな帰って来ないな」
教頭の説教だか校長への愚痴だか分からない話のあと、教室にまっすぐ帰ってきたはいいが10分たった今も生徒が帰ってくる様子はない。
「校長の話クライマックス入ってたし、教頭の説教の時間も考えて、もう帰ってきてよさそうなんだが」
「ふ~ん……誠矢。あんた様子見てきたら?」
……名前で呼び捨てか。
「何で行かないといけないんだ?」
「少しだけ一人になりたいのよ」
きっぱりと言う相原。その様子からはどんな感情も読めなかったが真剣さだけは伝わった。
「まぁ、オレも気になるし、行ってみるか」
適当にオレはそう言う。
「よかった。あんたと二人きりだと……」
? 何をためてるんだ?
「……犯罪者になりそうなんだもん」
相原の目を見た。ふざけている様子はない。本気だ。………………。
「いますぐ様子見てくる」
走れオレ! とにかく逃げろ! あの目はハンターの目だ。バーゲンに向かう母さんの目と同じだったんだから間違いない。
「ふぅ……ふぅー……ここまでくれば大丈夫だろ」
「……あの~……誠矢君?」
「まさかオレと同年代で、母さんと同じ目をするやつがいるとは……世の中広いぜ」
「あのっ……えっと……」
「ていうか何をオレはハイテンションになってんだろう? 確かに怖かったけど、走って逃げるなんて……」
だいたいオレは学校ではクールなキャラなんだから、今のを誰かに見られるとハズイ。
「しかも独り言言ってるし……今の状態誰かに見られたらオレ……」
とりあえず登校拒否だな。今流行りの。
「えっと……私のこと無視してますか?」
……ところでさっきから聞こえるこの声はなんだろう?
「………無視なんですね。やっぱり私みたいな子に話しかけられたら困りますよね」
よくわからんがネガティブだな……。
「でも私負けません! だって女子高生ですから!」
だからどうしたと突っ込んでみるべきだろうか?
「誠矢君殺して私も死にます!」
またありきたりなセリフを……
「なんてそんな凄いこと私にできるわけありませんよね……」
結局ネガティブかよ。……しょうがない。
「今日は珍しくマイナス思考じゃないか? 委員長」
「ぁ……誠矢君やっと反応してくれましたね。うれしいです」
「そんな当たり前のことで喜ぶのか?」
「当たり前じゃないです。……さっき無視されてました」
「それはまぁ……オレが悪かったけど……」
「それに私は委員長ではありません。新学年になりましたから」
彼女は1年の時のクラスメートで委員長だった。だからその時の癖でそう呼んでしまった。まぁそうだよな。委員長でもない人に委員長って呼ぶの変だし、名前で呼ぶか……。
「え~と…………アレ?」
委員長の名前?…………………………………。
「……もしかして私の名前忘れたとかおっしゃいます?」
鋭い……今の会話の流れで気づくとは……
「どうして分かったんだ?」
「いつもの誠矢君の様子見てれば誰でも分かると思います」
おっしゃる通り。
「黎奈です。暁黎奈」
「そういえばそんな名前だったな」
ハハハとオレは笑う。
「……誠矢君、悪いと思ってますか?」
「いや……悪かったとは思ってるって」
「その割には反省の色が見えませんね」
反省してないからな。
「……これは罰を与えるしかないですね」
「はい?」
いきなり何を……。
「私を甲子園に連れていってください」
「………冗談を言いたいだけなのか?」
「間違えました。甲子園じゃなくて保健室に連れていってください」
間違えないだろ。
「保健室? 具合でも悪いのか?」
「軽い貧血です。校長先生の話が長いので……」
どうりで珍しくネガティブだったわけだ。
「て言うか……まだ終わってないの?」
「今第二部に突入しています。私は結婚式後死んでしまったワッツの友達を訪ねて世界を旅していたジェニファーが悪い行商人の罠にかかったところで抜けてきました」
……ご愁傷様。
「というかワッツ結局死んだのか?」
「はい。ワッツが死ぬ場面の校長の演技は凄いでした」
……少し見たかったかもしれない。
「つうか暁も真面目に聞いてたんだな」
カエルの兄妹の話なんて普通真面目に聞かないだろ。
「……誠矢君は隣の子と楽しそうにしゃべってましたよね?」
「そんな覚えはない」
確かに騒がしかっただろうが、それは相原に合わせたからだ。
「そうですか……あくまでしらをきるんですね……」
「いやだから、何の話だよ?」
確かに騒がしかったのは悪かったと思うが別に何も嘘はついてないぞ?
「誠矢君の女ったらしの強姦魔! 町内会中に言いふらしてあげます!」
と、暁はそう言って走り去って言った…………。
「……ってちょっと待て! 何の話だ!?」
オレは叫ぶがすでに暁の姿はなかった。
「はやっ! というか保健室はどうした!?」
しかし強姦魔とは……間違いなくそんな覚えないぞ。ていうか町内会って普通にシャレにならないし。
けど一番気になるのは……。
「……暁って捨て台詞まで丁寧語なんだな」
礼儀正しい子だった。とりあえずどっかの転校生にも見習ってもらいたい。
「……むりだな」
オレはつぶやき、また歩き出した。
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