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第5話:乙女ごころは大切に
「つまりだね、テンポの悪いコメディ小説は背骨のないセキツイ動物のようなものなのだよ」
それはセキツイ動物ではない。
「まぁ君達が校長の話がつまらないと騒ぐ気持ちもわかる。よ~くわかる」
わかるのか教頭。それはけっこう問題発言じゃないのか?
「だがな……校長の話も聞いてやれ。はっきり言ってつまらないが、生い先短い校長の最後の娯楽なんだ」
教頭堅物のくせして、腹黒だな。
「私は真面目に聞いてたわよ。騒いでたのはコイツが無視した上に、私のこと忘れてたから……全部コイツのせいです」
いや確かに忘れてたのは悪いと思うけどさ……
オレはあの後、刻まれる寸前に彼女のことをおぼろ気ながら思い出した。そのことを伝えたら危機一髪で、踏みとどまってくれて、オレの着ている黒の学ランに白いペンキで『相原久乃の下僕』と書くだけにしてくれた。……帰ったら廃棄処分だな。
(しっかし……相原久乃ね)
おぼろ気ながら思い出したのは名前とオレの敵ということだけだ。そのほかのことはなんも憶えてないし、もちろん思い出なんかもない。はっきり言って、他人のようなもんだ。しかもはっきり憶えているのが自分の敵ということだから、あんまりいい感情も持てない。
(しかも再会して、冗談だとは思うけど刻まれかけたし、下僕とか書かれるし……)
昔のオレは何を考えていたのだろう?この手のタイプとは敵対するより、無関心でいるのが一番だ。
(まぁ……ガキだったんだろな)
とりあえずそういうことにしとこう。
「結論として私は反省するから早く解放しなさい」
スッゴい上から目線だな……というか反省するって、まだ反省してないってことだろ。
「オレは反省するも何も巻き込まれただけです」
「なによ……私が悪いっての!?」
「というわけで、教頭先生。僕は解放してくれるとうれしいです」
猫かぶりモードを発揮し、教頭に訴える。オレは基本成績はいいので、こういう従順な態度をとれば、たいていの教師は許してくれる。ちなみに相原さんを無視したのは何を今さらなことを言ったからだ。
「ふむ……まぁ二人とも情状酌量の余地ありだからね。校長の話などくだらないのだから……」
教頭はっきり言うな。
「まぁ君達は教室にかえりなさい。つまらない校長の話が終われば始業式も終りだ。話しによると再会したばかりのようだし、積もる話もあるだろう」
少なくともオレはないが……
「ありがとうございます」
とりあえず話にのっとこう。
「ふん! 私はコイツに話すことなんてないわよ」
なくても話あわせろよ。そんなに説教くらいたいの?……しょうがない。
「僕はあります」
「そうか。なら二人とも仲良くな。校長のくだらない話など聞かずに思い出話にはなを咲かせなさい」
教頭は校長に恨みでもあるのか?……そんなありきたりな。
「それでは失礼します」
まぁ教頭と校長の関係なんて考えても仕方ないので相原さんと一緒に職員室を出る。
「それじゃ教室に行こうか?相原さん」
「……『相原さん』?あんたって私のことそんなふうに呼んでたっけ?」
「いや……よく憶えてないし。オレはだいたい女子には名字呼びだし」
「私をその他大勢と同じ扱いか……」
「いや、だって呼び捨てとか相原さん嫌でしょ?」
「下僕……」
なんかプレッシャーが……。
「じゃ、相原?」
「家畜……」
オレにどうしろと!?
「じゃ、じゃあ久乃さん?」
「あんたに名前のさん付けされると鳥肌がたつ!」
こうなったら仕方ない。最後の手段だ。
「久乃様?」
「………………………」
アレ? 反応なし? 選択間違えた? いや普通様付けだと嬉しくない?
「………鈍感」
何がいけなかったんだろう? 謎だ。


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