第48話:インターハイ予選
「哀川! 今日はインターハイ予選だ!」
「わざわざ叫ばなくても分かってますよ部長……」
要との勉強会から3日。オレは陸上競技場に来ていた。部長が叫んだ通りインターハイの予選があるからだ。またも勝手に部長がオレを100メートル走に登録したため、高い電車賃を払ってまで来ていた
「ていうわけで部長。帰っていいですか?」
「陸上はロマンだ!」
「そうですか。ありがとうございます。じゃ、さよなら」
オレは駅に向かい出して歩き出す
「誠矢君、何を勝手に帰ろうとしているんですか?」
「何だよ暁? ちゃんと部長から許可はとったぜ?」
「部長さんは『陸上はロマンだ!』としか言ってません」
「いや、あの言葉には実は数億通りの意味が……」
「どうでもいいですからアップに行きますよ」
「流されたっ!?」
「走り終わりましたら、きちんと話を伺いますから」
「暁ってたまにひどいよな……」
「誠矢君がしっかりしてくれたら私も優しくしますよ。………ところで誠矢君?」
「どうかしたか?」
「私のことはなんと呼ぶんでした?」
「あ、あぁ………ごめん黎奈」
下の名前で呼ぶって約束だったな
「ふふっ……やっぱり名前で呼ばれるのは違いますね」
そう言って本当に嬉しそうな黎奈と
「笑顔が可愛いのはいいんだけどな……」
笑顔の黎奈に引っ張られていくオレだった
「あれ? 佐倉じゃないか。久しぶり」
黎奈に引っ張られアップに行く途中、佐倉が準備運動をしているのを見かけた
「ぁ………誠矢君。……うん。久しぶりだね」
「佐倉は今日の大会、何に出るんだ?」
「えっと……女子の100メートル走かな」
まぁ、男子の100メートル走に出たら驚く
「あの…………」
「ん? どうかしたか? 黎奈」
「いえ、そちらの方は……」
あぁ、紹介しろということか
「こっちはオレの中学時代の同級生で佐倉って言うんだ」
「誠矢君。下の方の名前は?」
「ぇ…………?」
佐倉の下の名前?………あるの?
「あはは……誠矢君、自分で自己紹介していい?」
まぁ他人がやったら自己紹介じゃなくなるが
「私は佐倉湊。よろしくね?」
「私は暁黎奈と申します。こちらこそお願いいたします」
そう言い合い、二人は握手をする
「ふ〜ん………」
「? どうかしましたか? 誠矢君」
「いや……二人とも何かいつもと感じが違うなって」
「違うとおっしゃいますと?」
「黎奈はオレと話す時はもう少しくだけたしゃべり方するし、佐倉は逆にオレに対してはかたいのに、黎奈に対してはかなりフレンドリーだ」
黎奈はともかく、佐倉に関してはもう少しおどおどしたイメージがあったが、黎奈に対してはそれが見られない
「そ、それは………」
オレの言葉に口ごもる佐倉。やっぱりオレ相手だとそうなるみたいだ
「まぁまぁ誠矢君。私は佐倉さんと初対面ですし、誠矢君と佐倉さんは異性です。誠矢君の言うようになるのは仕方ないと思いますよ?」
考えてみたらそうだな。黎奈の言う通りだ
「それもそうだな……悪かったな? 変なこと言って」
「ううん……別に私は気にしてないよ」
首をふってオレに答える佐倉
「優しいな……佐倉は」
どっかの暴走娘にも見習わせたい
「優しい……か。そんなことないよ? 優しい人はあんなことしないからね」
「佐倉………?」
「そんなことより誠矢君。大会、がんばってね」
「あ、あぁ……」
「それじゃ、私走ってくるから」
そう言って、佐倉は返事も聞かず走り去っていった
「………なんか、佐倉の様子おかしくなかった?」
「今日会ったばかりの私に聞かれても分かりませんよ?」
「それもそうか」
きっとオレの気のせいなんだろう
「では、アップを始めましょう」
「はぁ……かったるい」
「文句は大会が終わりましたらお聞きします」
「理不尽だ………」
「……で? 黎奈。これはどういうことだ?」
「えっと………すみません」
男子の100メートル走。オレはそれに出る………はずだった
「コールの時間どころか、競技が始まる直前までアップするか? 普通」
コールというのは体育祭などでいうところの招集だ。そこでゼッケンなどを見せることでコールは終了する。コールが終了した後はスタート地点にそのまま移動する。つまり、コールに行かないとスタート地点にいけない。というか
「おかげさまで、オレは棄権ですか」
棄権ということになる
「すみません………」
時間の管理などはマネージャーの黎奈に任せてたので、オレとしては考えてもいなかった
「まぁ、黎奈に頼りっぱなしだったのがいけないよな」
「すみません……」
「ま……オレは別にいいんだけどな」
これと言って走りたい訳でもない。ただ……
「……部長がなんて言うか」
「………………………」
「………………………」
「「……はぁ」」
同時にため息をつくオレと黎奈だった………
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