ある中学校に俊、和也という少年たちがいた。二人は幼稚園からの幼馴染で自他共に認める大親友だ。和也が何かをしようと思うと、俊はすでに察知し、それの手助けをする、逆に和也も同じことができる。すでに阿吽の呼吸も会得していた。それほど、二人の絆は強いものだった。もちろん、喧嘩なんか一度もしたこともない。どちらかと言うと二人で組んで他の奴らと喧嘩をすることはよくあった。
ある日、和也は夕食を食べ終わり、のんびりと最新の液晶テレビでお笑い芸人が司会をする番組を見ていた。画面では、所狭しと芸人は動き回り、しゃべる口がずっと動き回る。すると、話のテーマが昔懐かしいことに変わった。ゲストの年齢層はバラバラで10代はミニ四駆やヨーヨーなどを話し、20代はドラゴンボールや北斗の拳、30代はバブル期の話をしていた。一緒に見ていた、母がバブルの話に懐かしさを感じて、バブル期の話をさらに詳しく和也に話し始めていた。和也はそれを右の耳から左の耳へと通過させ、テレビに夢中。母はもともと話すことが好きなので和也が聞いていようが聞いていまいが関係ない、ただひたすら話し続ける。
ゲストが一人何か思い出したようなアクションを起こし、大阪で大人気の司会に話しかけた。
「そう言えば、昔こんな遊びありませんでしたか」
もちろん、司会は番組を面白くするために、すぐに食いつく。
「どんなん?」
「えっとね、確か、仲の良い同士が、悪口を言い合って10個言えたら相手のことをよく知っているということが分かって、仲が良いと確認できるっていう遊びなんですけど」
どうやら、話を広げることが可能な話のようで、司会は笑顔になり、大袈裟にその話に同意した。
「あったなぁ、自分(お前)は誰かとその遊びしたんか?」
「しましたよ、でも5個しか言えなくてその後険悪なムードになりましたけど」
そのあと、その話がテレビで話し続けられていたが、すでに、和也の耳には届いていなかった。今和也の頭の中には
「明日、俊と言い合ってみよう」
という言葉がグルグルと駆け回っていた。
翌日、和也はいつもの倍の速さで身支度をしている。目覚ましの電池が切れていて、いつもの時間に起きることができなかったからだ。何とか用意をして、学校まで全力で走る。がんばりにより、何とかチャイムが鳴るまでに校門をくぐることができ、ひと安心。
「おっす、なんだ疲れてんな和也」
激しく肩で息をしている和也の肩をショルダーバックをかけた俊が叩いた。
「おっ・・はぁ、おっす」
俊の家は学校まで徒歩で10秒。当然彼はいつもギリギリの時間に家を出る。だから、二人は今偶然遭遇したのだ。和也は息を整え、昨日のことを思い出した。
「あっ、そうだ、俊」
「んっ?」
和也は昨日のテレビでのことを話し始めた。すると、俊のリアクションは和也の予想したものではなかった。
「なんだよ、お前もかよ、俺から話そうと思ったのに」
まさに以心伝心。俊も昨日の番組を見て、今日和也としようとしていたようだ。
これは、期待できるな、和也は心の中でそう思った。
長い苦行と呼んでも過言ではない4時間授業が終了した。和也はさっそく俊と他の友達を集め、俊とあの遊びを始めた。
和也が先行。周りの仲間も楽しみという表情をしている。
「優柔不断」
まずは、最初だから、軽い軽い悪口。だが、この優柔不断は和也が一番気に入らない俊の悪いところだった。当然周りのみんなは知っている。
俊の番。
「ビビリ」
これもまた、俊が一番気に入らない和也の悪いところ。おかしなところまで以心伝心。
「ケチ」
「短気」
とこんな風に進んでいった。回を増すごとに二人の悪口を考える時間が長くなってきている。
5回目。
「チビ」
一番言ってはいけないことを和也は口にしてしまった。俊は150cmの身長しかなく、女子よりも小さい、彼はそれが悩みでコンプレックスになっている。和也はこのことは当然承知していた。しかし、予想以上に悪口が思いつかず、ついついこの最大の禁句を言ってしまったのだ。
ピシッと空間が張る音が辺りに響いた。周りの仲間もそれはダメだろという雰囲気を醸し出している。誰が見ても俊の表情が変わっている。
「薄毛」
これもまた和也に言ってはいけない言葉ワースト1。さらに、雰囲気が悪くなってきた。仲間以外のクラスメートもその気配を察したのか、二人のほうを無言で見るようになっていた。
「服のサイズが三歳児用でも着れる」
「育毛剤ユーザー」
さらに、悪口は続く。二人の勢いにみんな止めることを忘れてしまい、見入ってしまっている。もう、そこには昨日まで仲良く大笑いをしていた二人の姿はなかった。体は小さいけど男らしい俊、髪の毛が薄いけど人にやさしい和也。
「チビのくせにロリコン!!」
「性病持ち!!」
10回目が終わった。その瞬間二人は立ち上がり拳を握りしめ振り上げている。ようやく周りが動けるようになり二人を止めに入った。とにかく、凄い力で二人がかりでやっと止めることができるほど。
「放せ!!俊をあのチビを殴らせろ」
「なんだと!!かかってこいよ逆に殴ってやるよ焼け野原頭」
何とかクラスメイトたちの健闘により、その場は収まったが、二人の相手に対する怒りは収まらなかった。二人は卒業まで一度も会話を交わすことはなかった。
クラスメイトの一人がこう言った。
「あれっ?あいつらって何のために悪口を言い合っていたんだ?」
「親友としての仲の良さを確認し、さらに深めるためじゃなかったかな」
と隣にいた少年がそう言った。 |