ポーションを持って冒険に行こう
ポーションには等級がある。
下級ポーションは少しの怪我ならすぐ治る。
これが一つ銅貨50枚。
中級ポーションは一ヶ月は治すのにかかるような怪我でもすぐに動けるようになる。
これが一つ銀貨15枚。
上級ポーションともなると、半年は治すのにかかるような怪我まで大丈夫。
これが一つ金貨5枚。
銅貨50枚あれば、一週間宿屋に泊まって夕飯に一品足すこともできる。
銀貨15枚もあれば、三ヶ月はのんびり暮らせる。
金貨?そんなの見たこともないし、考えたこともない。
だから、僕たち冒険者は出来るだけ怪我をしないように慎重に生活する。一ヶ月も寝込んでいられるような貯金なんてないからね。
ところがね、つい最近のことなんだけど、どうやら安くポーションが手に入るようになったってウワサが僕たちの耳に飛び込んできた。
隣の町に現れた薬師が、ポーションを今までよりもずっと安く売りだしたんだって。
当然、薬師ギルドともめて、それでこの町にやってきたんだって。
下級ポーションが銅貨10枚。
中級ポーションが銅貨50枚。
上級ポーションが銀貨1枚。
多分すぐにこの町の薬師ギルドも彼を追い出してしまうだろうから、僕らも急いで手に入れたんだ。
こんなに安くポーションが手に入るなんて!
これで、多少の怪我でも怖れずにモンスターを狩りに行ける。
いつもより強いモンスターを相手に狩りをする。
だってポーションがあるから!
心配していたような怪我もなく、いつもより暖かい懐に気分は上々だ。
薬師ギルドは横暴だ。
ポーションさえもっと安ければ、僕らもこんなに稼げたんだから。
意気揚々と狩りに出た。
今日は一人で狩ろうと思った。
仲間がいたら、どんなに稼いでも山分けしなくちゃいけない。
一人なら、そんなに強いモンスターを相手にしなければ僕だけで狩ることができるし、そうしたら稼ぎも独り占めできるってことに気がついたからさ。
一人でも、ポーションがあれば大丈夫さ。
大上段に構えた剣を振り下ろす。
「痛いっ」
振り下ろした隙に、横から別のモンスターがその鋭い爪で僕の脇腹を引っ掻いた。
さすがに一人はきつい。
何とかモンスターを倒した僕は、満身創痍で座り込んでいた。
これはさすがに初級ポーションじゃ無理だな。
もったいないけど中級ポーションを使おう。
なあに、これだけの稼ぎがあれば充分に儲けはある。
初めて飲んだポーションは、少し甘くて美味しかった。
飲んでしばらくすると、みるみるうちに気力も体力も湧いてきた。
気分も高揚したところで、モンスターから素材の剝ぎ取りをして僕は町に帰った。
暖かい懐。
ニンマリと頬が緩みそうになる。
だけど僕は無駄遣いなんてしない。
急いであの薬師の所に行って中級ポーションを買い足した。
最高だ!
ポーションがあればこんなにも稼げる。
僕は一人でモンスターを狩って、怪我をするとポーションを飲んだ。
ポーションを飲んでも、前よりもずっと稼げる。
そりゃ前より怪我をすることは増えたけど、ポーションがあればすっかり治るし、何よりポーションを飲むと気力も体力も湧いて気分がいい。
今までにないくらいお金も貯まった頃、僕の町の薬師ギルドがあの薬師を追い出したって話が流れてきた。
あーあ。
せっかく安くポーションが買えたのに。
多分町の冒険者はみんなそう思ってた。
けど、薬師ギルドは国の管轄。
逆らうことなんてできない。
あの薬師はどこかの町へ流れて行った。
買っておいたポーションがあるうちは、まだまだ一人で稼いでおこう。
ポーションってすごい。
だけどそんなすごいポーションも、すぐに残りの一つになっちゃった。
そして最後の一つも、飲んじゃった。
ポーションってすごい。
気分がいいまま素材を売った。
貯金もあるし、ちょっと高くてもポーションは持っておいた方がいいよな。
銀貨5枚は痛いけど、命には代えられない。
だってポーションはすごいんだ。
薬師ギルドの扉を開き、中級ポーションを一つ買った。
ポーションも買ってあるし、ちょっと貯金も減っちゃったから、一人でモンスターを狩りに行こう。
なあに、今までよりも気をつければ大丈夫。
それにポーションも持っているんだから。
ほら今日はポーション使わなくても、こんなに一人で稼げた。
でも、何だか物足りない。
気力も体力も足りない。
やっぱり調子が悪いならポーションだね。
ほらすぐに気分も良くなった。
ポーションってすごい。
さあ、素材を売ってポーションを買いに行こう。
薬師ギルドで老いた薬師は呟いた。
「あの冒険者はもう駄目だろう。
だから、薬師はポーションの値段を下げないのにな。
あの若造の薬師め。
未来ある冒険者のこの惨状も知らずに、いいことした気になっておって」
さあ、今日もポーションを持って冒険に行こう。