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本当に出会ってから通算で何度目になるのか

『なるほど……。定時連絡が遅れたのはそんな事情だったわけか』

「……驚かないのか」

『驚いてるけど?』

「……あまりそうは聞こえないんだが」

『いや、普通に驚くところでしょ?光の柱が出たのは外のお掃除してる時だったから私も見てたし、『虹孵しの儀(にじかえしのぎ)』が始まったんだなぁ、とは思ったよ。もしかしたら君が挑戦するかもしれないとも思ってた。けどさ、まさか今日のうちに挑んでくるってのはさすがに予想外だったよ』

「……って、驚くのはそこになのかよ!?」

『そうだけど?他に何か?』

「いや、俺の結果とか……」

『……君だったら10000超えでも驚かなかった自信あるけど?むしろ30000くらいは行くかなぁとも』

「……本気でお前の基準はどうなってるんだかな」


 無事と言えるかは怪しいところだが、『虹孵しの儀』への挑戦が終わった後。産み落とされた『虹起石(さいきせき)』の数が予想外に多すぎた上に――なにせ6279個――人手が少なかったということもあり、回収を終えて支部に戻る頃にはとっぷりと日が暮れていて。そんなわけで、パウスさんが用意してくれた遅めの晩飯を済ませてクーラへの連絡を入れることができたのは、昨日よりも2時間近くも遅くになってからのことだった。


 晩飯は現在この島に居る4人で一緒に食ったわけだが、話題の中心が俺になってしまったのは、まあ仕方ないことなんだと割り切る。なにせ『虹孵しの儀』における歴代4位に対して3倍以上の差を付けてしまったわけだし。


 ちなみにだが、元4位である御仁の記録はここ400年間破られることが無かったとのことで、大騒ぎになることは間違いないだろう。その意味では、まだほとんど人が来ていない今日のうちに済ませておいてよかったとも言えるのか。この島に連れてきてくれたトキアさんには心からの感謝を。


 なお、例のランキングに記載するにあたってふたつ名をどうするかという話にもなったんだが、そこは『虹色泥団子のアズール』で押し通した。元4位の氷炎のランベルトにしても、心色は氷と炎の2種複合――つまり氷炎――だったとのことだし、問題は無いだろう。トキアさんは『誰かさんの再来』とかいう困りものなふたつ名を知っていて勧めてきたりもしたんだが、そこは断固として拒否させていただいた。


 なお、通常であれば産み出すことのできた『虹起石』の数に応じたランクポイントも加算されるところなんだが、俺の場合は数が数ということもあり、少々時間がかかるとのこと。


 すでに俺のやらかしは連盟支部にある魔具で世界中に広がっているんだろう。だから明日以降のことを考えると気が重くもあるんだが、今は忘れることにする。せめてクーラとふたりで話す今くらいは、気が滅入るようなことからは目を逸らしたい。


『ところでさ、君はどんな作戦で『虹孵しの儀』に臨んだの?私的にはそこが気になるんだけど』

「ああ、それはな――」




「――ってところだな」

『……察するに、爆発の余波を受けずに済ませるための苦肉の策ってところかな?』

「……明察恐れ入るよ」


 まあクーラは『爆裂付与』の問題点なんてとっくに知っているわけだが。思えば初対面の時には、クーラがそこをフォローしてくれてたんだったか。今となっては懐かしくすら思うところ。


『微妙に痒いところに手が届かないんだよねぇ、あれって』

「確かにな」


 俺の場合にしてもそうだし、トキアさんだって天井の高さのせいで使える手が限られているような感じだった。


『まあ、あれこれと不備があるのも仕方ないんだろうけどさ』

「……ちょっと待て」


 サラリとアレなことを言い出すのはクーラの常。むしろ最近では、アレなことを言い出さないクーラは果たしてクーラと言えるのか?なんてことも思い始めているくらい。


 だがそれでも、聞き流せるかと問われれば答えは否。


 『虹の卵』に関しては多くの研究者が解明に苦労しているとのことだった。それでも現時点で判明していることはそう多くない。


 そしてクーラの口ぶりはまるで、やりにくい部分があった理由を知っているかのようで。


「なあ、まさかとは思うんだが……」


 それは、あり得ないだろうと考えていたこと。けれどそんな可能性を再燃させるようなものでもあった。


「『虹の卵』を造ったのはお前だった、なんてことは……言わないよな?」

『あはは』


 恐る恐るになってしまった問いかけに対して、まず返って来たのは笑い声。


『さすがにそれは無いってば。だってさ、私が生まれた時にはすでに爺ちゃんは心色を取得済だったんだし。つまりその時点で『虹の卵』は存在してたってことになるんだから』

「……それもそうだよな」

『私が知ってるのは、『虹の卵』の由来くらいのものだよ』


 けれど続く言葉は、クーラだから仕方ないといつものように自分を納得させるしかなくなるようなものだった。


「ひょっとして……異世界か?」


 クーラにまつわるあれこれはだいたいが異世界由来。思い付きを口にして見れば、


『正解』


 即座に肯定される。


『君が聞きたいなら、私の知る限りを話してもいいけど?』

「頼む」


 そう言ってくれるなら是非もない。100%好奇心ではあるが、気になるものは気になるんだから。


『お任せあれ。『虹の卵』について聞いたのはたしか……89回目に呼び付けられた先だったかな?もともとはその世界でさ、娯楽用に開発されたってことらしいの』

「……娯楽用?」

『そう。娯楽用』

「それは……競い合いを楽しむためにやるってことなのか?タスクさんとソアムさんがいつもやってるみたいなノリで」


 恋仲になった今でさえ、いつもいつも張り合っているあのふたり。けれど傍で見ていると本気で楽しそうに見えるというのも事実なわけで。


『そうそう。そんな感じそんな感じ。もっと言うなら、前に君が付き合わされたっていうタマ狩り競争みたいなものかな。明確に数字で見える方がわかりやすいってのもあるでしょ?』

「……力試しとしては出来過ぎてる。なんて風に思ってたんだけど……そういうことなのか?」

『そういうことだね。あれはさ、受けた衝撃を吸収、結晶化して放出するってコンセプトで作られたらしいの』


 仕組みはわからんが、異世界産だったらそういうこともできるんだろう、多分。エルリーゼの常識を置き去りにするような技術が異世界には山ほどあるってのは、他ならぬクーラが散々体現してきたわけだし。


「その結晶というのが『虹起石(さいきせき)』なんだろうけど……」


 それでも残る疑問はあるわけで。


「なんで娯楽用に作られた物からあれだけ有用なシロモノが出てくるんだ?」


 『虹起石』によって引き出される力。心色の有用性なんてのは、この世界の誰もが知っていることだろう。


『単なる偶然』

「いや、偶然って……」


 返答は実に身も蓋もない。


『あはは、その気持ちはよーくわかるよ。私も呼び付け先で聞いた時には開いた口がふさがらなかったし。けど実際にその世界でもさ、何かの弾みでその結晶に塩水をかけちゃったら光り出して、それに触れたら心色――その世界では命色(めいしき)なんて呼ばれてたんだけど。まあとにかく、未知の力に目覚めちゃったって話なんだから』


 たしかに『虹起石』にも同じ性質――塩水をかけると光を放ち、それが消える前に触れれば心色を得られ、光が消えてしまえばただの石ころに成り下がるというのがある。


『当然ながらその世界においては革命的な話でさ。研究が重ねられた結果として、消耗品じゃない『虹起石』的な物が世界中のあちこちに設置されることになりましたとさ、ってわけ。エルリーゼ的に言うなら、ある程度大きな町に行けば心色の取得がロハでできるって感じかな?』

「……羨ましい話だな」


 この世界では心色取得に30万ブルグという大金が必要になるわけだが、それは使い切りである『虹起石』との供給バランスを考えてのことだと言われている。であれば、無限に使える『虹起石』のような物を各地に用意できるのであれば、そんな話にもなるというわけだ。


「けど……」


 疑問はまだ残っている。


「なんで異世界で作られた物がエルリーゼにあるんだ?」


 クーラが持ち込んだのであれば納得はできるが、時系列的にもそれはあり得ない。


『さあ?』

「いや……さあ?って……」

『だってそれは私にもわからないんだし。今ゼルフィク島にあるのは、その世界ではすでに必要無くなってた試作1号だけどさ、それでも歴史的には大きな意味を持ってたから、大事に保管されてたみたいなの』

「……大昔の英雄所縁(ゆかり)の品みたいな感じか?」

『そうだね。そんな試作1号がある日突然、忽然と姿を消しちゃったらしいの。それでやって来た先が……』

「ここ――ゼルフィク島だった、と?」

『だね。原因は不明。まあ、人が異世界に呼び付けられるくらいだし、物が異世界にやって来ることもあるんじゃないかな?』

「たしかに、あり得ないとは言い切れないか」

『そういうこと。以上、『虹の卵』の出自に関して私が知るすべてでした。君のご清聴に心からの感謝を』


 おどけ気味にそう締めくくる。


「……なんというか、例によって例のごとくぶっ飛んだ話だったな」


 『虹の卵』を研究しているクーパーさんあたりが聞いたらひっくり返りそうな話でもあった。


『ごもっともで。私としてもさ、『虹の卵』にそんな経緯があったと知った時には魂消たよ』

「だろうな。そういえば……。お前は『虹孵しの儀』には挑戦しなかったのか?」


 ふと気になったのはランキングを見た時から引っかかっていたこと。


 100位以内にクーラ(クラウリア)の名は無かったわけだが、こいつが緑になったのは初めての異世界呼び付けから帰還後だったのは間違いない。すでにその時点で剛鬼(トロル)300匹を蹴散らしていたというクラウリアであれば、今でもランクインしているような記録を残すくらいは容易いと思うんだが……


『しなかったね。表向きのクラウリアの存命中には何度か機会があったんだけど、なんとなく気乗りしなくてさ。騒がれるのも嫌だったし。まあ、今ではそれでよかったと安堵してる。下手すりゃ取り返しが付かないことになってたかもしれないから』

「……どういうことだ?」


 騒がれるのが嫌だというのはわかる。そこまで大層な記録は出ないだろうとタカをくくっていたらやらかしてしまったのが俺だが、クラウリアであれば順当に大記録を出していても不思議じゃない。


 けれど、取り返しが付かないという言い回しとは、微妙に結びつかないようにも思えるんだが。


『やりすぎて『虹の卵』を壊しちゃってた公算が高いってこと』


 本当に出会ってから通算で何度目になるのか。またしてもこいつは、とんでもないことをサラリと言ってくれやがっていた。

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