frozen times〜二度と戻らない時間(とき)〜(3/7)縦書き表示RDF


充が、警察からの事情聴取を終えてバスで家に帰ろうとすると、彼の目の前にあの時の大学生、茅場零葉が現れた。零葉は充と一緒のバスだったので、充と零葉はバスの中で先程の駅で起きた事件を振り返る事にした。
frozen times〜二度と戻らない時間(とき)〜
作:りす君



凍話3-カナシミの写真立て-


充と零葉はバスに揺られながら、少し話をする事になった。まず、零葉がゆっくりと口を開けた。
「あのぅ…、そろそろ名前ぐらい教えてくれませんか?」
充はこうなった以上、名前を隠しても無駄の様子だったので、
「…青葉充…。」
と明かした。
「青葉さんって、今社会人ですか?」
妙になれなれしい奴だなと思い、充は一瞬嫌な顔をしたがそれを見てしまったのか零葉は、
「…すみません…、答えたくなかったら答えなくて良いです…。」
と、今にも泣き出しそうなか弱い声で言った。
充は、少し困り果ててしまった。今、ここでコイツに泣かれたら厄介(やっかい)だなと思い、
「いや、大学生…。」
と、言って置いた。
そうなんですか…私も同じ大学生で2年生ですと、零葉から順に話し掛けてくるので充は面倒臭いと思いつつ、適当に相槌を打っといた。
「ここでお会いしたのも、“初めてでは無い”感じがしますね…。」
と、零葉が静かに呟いた。
“ハジメテデハナイ?”…まさか俺は、前にコイツと会った事が有るのか?と、充は少し焦った。
しかし…、会った事があるとすればいつ頃だろうか…全然思い出せないとは俺にしては珍しい…と、充が思っていた時、
「次は、辰巳(たつみ)三番街」
と、アナウンスが聞こえたので充は降車ボタンを押し、降りる準備をした。その時、零葉は、彼がこちらを見てない隙にこっそりと白いメモ用紙を一枚とペンを(ふところ)から取り出して何かを素早く書き、それを四折りにし、そして充の来ていた上着のポケットの中に気付かれぬよう入れた。
充はバスから降りる際、面倒だったが一応彼女に向かって軽く会釈した。彼女は優しく微笑んでいた…。
充は、バス停から自宅のアパートまでの道のりで先程起きた殺人事件の一部始終を振り返って自分なりに整理してみた…。

「事件を目撃した時間は確か…22時15分頃だったな。被害者を発見する少し前に、向こう側のホームに到着していた列車の中に確かに不審な人物が乗り込んでいたはずなんだ。この事が、証明出来れば犯人の判明に近付けるのに…クソッ、あの時俺自身がソイツを追い駆ければ…。」
と、その事について心の中で言いようのない悔しさを噛み締めていた。

その日は夕方から深夜ににかけて、凍てつくような寒さになるので、充は凍えた両手を温めるために上着のポケットの中に両手を入れると、片方のポケットの中に何か入っている事に気付いた。
それを取り出し、街灯の(あか)りを利用し、よく見てみたら四折りにされていたメモ用紙だった…。そのメモには短い文章で、
「もし、お困りであればいつでも電話して下さい。あなたの力になります。茅場零葉」
と、書かれており、更に彼女の携帯番号らしきモノまで載せられていた。
しかし、彼女についての詳しい事は(いま)だに謎めいているし、彼女の身中にどれだけ抜群の潜在能力が存在するかは未知数だが、知能の高さと行動力はどうか…あの感じだと、これからホントに役に立つかどうかいまいち信用できず不安だらけだ…と、充はそれらを頭の中で考えながら歩き数分後、彼の自宅であるアパートに到着した。

アパートは二階立てで、見た目はボロいが部屋の内部設備は充実している。充は自分の部屋の鍵を開け、中に入った。充の部屋の中には一般の家電製品やベッド、机などが設置されており、机の上には写真立てがある。充はその写真立てに向かって
「只今。」
と一言言って、ベッドで横になって横目で机の上にある写真立てを見つめながら、物思いに(ふけ)っていた…。
その写真立てに飾られている写真は…、充の家族の写真だった。その隣には…既にシケっている線香が…

“今でも、こう思う…。あの日、あの事件さえ起こらなければ、俺と俺の家族は今でも、そしてこれからも幸せに暮らしていけたんだ…。なのに、どうして…どうして俺ん家の家族だけ…どうしてなんだよぉ!!!”

充は、行き場の無い怒りをぶつけるように一晩中泣きながら、自らの拳を壁に何度も殴りつけていた…












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう