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【完結絶対保証】 絶対無敵の聖剣使いが三千世界を救います (旧題:覚醒した俺は世界最強の聖剣使いになったようです) 作者:日比野庵
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ep2-008.ドゥーム・ドレイナー(3)

 
 ツェス達は天幕を飛び出した。遠くから人影が近づいてくるのが見えた。だが、まだ距離がある。相手が誰か判別がつかない。

 ――さっきの音は一体?

 ツェスが辺りを見渡すと、天幕と幌馬竜車を取り囲むように矢が何本も刺さっているのが見えた。黒く光る矢柄には光沢があり、鏃の下の沓巻は金と銀に彩られている。矢羽は白と黒の斑模様で本矧部分がずんぐりと太く丸い石のようなものが付いている。見たことのない矢だ。

 鏃は地面に全部埋まっていて、その周囲が足の裏一つ分抉れている。それ以外は何ともない。ツェスは先程の爆音はこの矢が原因だと推測した。

 ツェスは刺さった矢をしばらく観察していたが、特に変わった様子はない。特段、仕掛けがある訳でもなさそうだが、キャンプを張っているキャラバン隊にいきなり矢を打ち込むなど、敵対行為を疑われても文句がいえない振る舞いだ。

 だが、仮にそうだとしても、何故わざわざ敵襲だと知らせるような真似をする必要があるのか。ツェスは何処か引っかかるものを感じていたが、今はそれに拘らっている暇はない。迫りくる人影に意識を向ける。

 ツェスの視界に入った人影はざっと四十人程度。それに対してこちらは五十人。だが、護衛を勤めているのは十人くらいだ。ツェスとイーリスを勘定に入れても、数では圧倒的に負けている。

「そこのお二人。下がっていてください」

 中年の大男がツェスとイーリスに声を掛ける。黒い鎖帷子の上に白の皮鎧を纏った偉丈夫だ。その堂々たる態度からみて、このキャラバン隊の守備隊長だろう。皮鎧の胸の部分に紅い紋章が刻まれていた。紋章を持てるのは王族と貴族を除けば、騎士か魔導士だ。おそらく引退した騎士か何かだろう。ならばあの威風堂々たる態度にも納得がいく。

「全員警戒体制を取れ! リゲル、カペラ、プロキオン、アケルナー、ハダル! 貴様等は、馬竜車とジョアン様達をお守りしろ! シェダル、カフ、メラク、エニフ、貴様達は私と共に即応準備だ。シリウス、お前は此処に残れ。合図を出したら、いつもの通りだ」
「はっ。ウェズン様」

 ウェズンと呼ばれた大男が配下を二つに分けた。半分を守りに、もう半分を相手に当たらせるようだ。

 幌馬竜車を護るように指示された護衛達もウェズンと同じく、皆、鎖帷子に皮鎧を着けている。その中の一人、シリウスと呼ばれた男だけは、鎧の上に薄いローブを羽織り、短い杖を持っている。腰に黒の皮袋をぶら下げているのが見える。シリウスは幌馬竜車に寄り添うように数歩退いた。

 一方、残り半分の五人はウェズンを中心に、近づく相手の正面に位置取った。

 その一人が腰の剣に手を掛ける。が、ウェズンが制止する。

「待て、プロキオン。まだ抜くな。敵と決まった訳じゃない」

 ウェズンはその体躯に相応しい堂々たる態度を崩さない。 

 一方、守りを受け持つことになった五人は、護衛以外のキャラバン隊の面々に馬竜車に乗るよう指示をする。万一の時は、直ぐに逃げられるようにする為だ。ツェスとイーリスも馬竜車の荷車に押し込められた。運がいいのか悪いのか、キャラバン隊の長ジョアンと同じになった。

「我がキャラバンの護衛は優秀です。しばしご辛抱くだされ」

 ジョアンはウェズン率いる護衛者達を信頼しているようだった。彼に任せておけば問題ない。そんな口振りだ。

 ――ブルブルルル……。

 荷台を引く馬竜が興奮している。御者が一生懸命に宥めながら、なんとかコントロールしている。中々大した腕前だ。

 馬竜は鬣を持った四つ足の家畜だ。ゴツゴツとした鱗に覆われた脚だけをみるとモンスターのようにも思えるが、性格は極めて穏やか。その頑丈な躰と健脚で、荷役用として飼われる事が多い。また、複雑な内容は無理だが人語も解する頭のいい動物だ。

 イーリスは荷台から顔を出して様子を伺っている。

「来たわよ」

 ツェスの目にも相手の姿がはっきりと見えた。


◇◇◇


 近づく影は男達の集団だった。元からなのか汚れのせいなのか分からない斑模様の鼠色のチュニックに黒ズボンを吐き、同じく黒皮の胸当てを着けている。武器を手にしているが、剣、棍棒、槍、チェーン、斧、弓とその種類はバラバラだ。中にはどうみても体格に比して大きすぎる剣を持っている者もいる。四十人には少し届かないくらいか。

 謎の男達は、互いの顔が見える距離でぴたりと止まった。ウェズンが一歩前に出た。

「何用か? 我らは旅のキャラバンだ。訳あって此処で休息を取っている」

 何も反応がない。ウェズンは再び問うた。

「この矢を放ったのは貴方達か?」

 武器を手にした四十人の集団を前にしても、ウェズンは落ち着いていた。この辺りに人はといえば、キャラバン隊と謎の男達しかいない。状況的には、矢を射掛けたのは彼ら以外には考えられない。だがそれでも、この守備隊長は確認を取った。

 謎の男達の中から、頭目らしい一人が進み出た。若い男だ。この男もウェズンに劣らぬ大男で、顔や躰に無数の傷があった。いや傷の中に躰があるといった方がいいだろう。暗闇では出会いたくない相手だ。

「そうだと言ったら?」

 頭目はにやりと口元を緩めたが、目は笑っていない。素早く視線を左右に配る。後ろの男達が左右に大きく広がった。

「当たらなかったから良かったものの、非常に危険な行為だ。止めていただきたい。貴方達は何者か?」

 ウェズンが声のトーンを上げる。彼の配下はいつでも飛び出せるように身構えている。それでもこの守備隊長は剣を抜かせることもなく、対話を続けている。大した自制心だ。

「バーラト団って言ったら分かるか?」

 頭目が舌舐めずりした。

 ウェズンの顔色が僅かに変わり、幌馬竜車の中に避難していたキャラバン隊の面々に緊張が走った。


◇◇◇


「どうした?」

 固唾を飲んで外の様子を見守るジョアンにツェスが声を掛ける。ジョアンははっとした表情を浮かべ小声になった。

「盗賊団です。最近街道沿いに出没するようになった隊商の荷を強奪していく輩です。でも小規模な隊を襲うばかりで、我らのような大キャラバンは狙わないと聞いていたのですが……」
「今は大キャラバンじゃないからじゃないの?」

 イーリスが割り込む。ジョアンは街道の落石で隊が分断されたと言っていた。そのせいで此処にいるのは幌馬竜車十台程度なのだが、彼女はそれを指摘した。

「おぉ、確かにお嬢さんの仰る通りだ。しかし、今はウェズンに任せる他ありません。女神リーファよ、我らに神の御加護を……」

 ジョアンが両手を組んで祈りを捧げると、荷台にいた彼の付き人達もそれに従った。だが、この状況に関する限り、ジョアンの祈りよりウェズン護衛隊長達の剣の方がずっと頼りになる。ツェスとイーリスは、ウェズンと頭目のやりとりを見守った。

「バーラト団の噂は耳にしたことがある。余り良くない噂だが。貴方達が本当にそうなのか此処で問う積もりはない。早々に立ち去られよ。今であれば、我らも追うことはしない」
「それは聞けない相談だ。こっちも仕事なんでね。あんたらが落石でおっ()んでくれてたら、もっと楽が出来たんだがな。ま、予定通り、あんたらのキャラバンを分断できたから良しとするか」
「何!? するとあの落石は」
「鈍いな、おっさん。あんな岩が自然に落ちるかよ」

 頭目が手を上げる。後ろの手下達が武器を構えた。

「仕方あるまい。何があっても、そちらの責だ」

 ウェズンが剣を抜いた。護衛の面々も隊長に倣って剣を構えた。

「行くぞ!」

 ウェズンと四人の護衛がバーラト団に突撃した。

 四十人を相手に五人で挑むのは、一見無謀に思えた。だが、ウェズン達はバーラト団に斬り掛かることはせず、中央突破を図った。経験豊富な守備隊長は相手が両翼に広がったのを見逃さなかった。横に薄く広がった相手を一点突破するだけであれば、二、三人蹴散らすだけでいい。ウェズン達は難なくバーラト団の男達の壁を突破して向こう側に走り抜けた。

「この野郎!」

 易々と突破された盗賊団の男達が、口々に罵りの言葉を投げつけながら、後を追った。

 幌馬竜車の中からその様子をみていたキャラバン隊の面々は息を飲んだ。平然としていたのは、幌馬竜車を護る護衛を除けばツェスとイーリスだけだ。さっきまでウェズンに任せておけば心配ないといっていたジョアンさえも、緊張した表情を見せている。

「へぇ。あの護衛隊長、中々やるな」

 ジョアンが、どういう事か説明して欲しいと縋るような眼差しをツェスに向けた。

「今に分かるわよ」

 イーリスがツェスに代わって答えた。片目でウインクしてみせる。ツェスもイーリスもウェズン護衛隊長の意図を見抜いているようだ。一同は成り行きを見守った。


◇◇◇ 


 幌馬竜車から、盗賊達の顔が分からなくなるくらいに離れた頃、ウェズンは部下に停止を命じた。

「この辺りでよかろう。ここまで離せば十分だ」
「なんだと?」

 振り返って迎撃の体勢を取ったウェズンに、頭目が顔を歪める。

「あそこで戦闘すれば、積み荷が巻き添えを喰うかもしれんのでな。ちょっとここまで来て貰った」

 ウェズンは落ち着き払っていた。先程の中央突破は決して無謀な行為ではなかった。ジョアン達を戦闘に巻き込まない為に、自分達が囮となってここまで盗賊団を釣り出したのだ。

 だが、頭目はウェズン達をねめつけた。

「ほう。それで勝った積もりか。これだけの人数を相手にどうするのかなぁ」
「なに、どうもしない」
「あぁ?」
「シリウス! 今だ、やれ!」

 ウェズンが叫ぶ。晴天を貫く程の大音声がツェス達の幌馬竜車にまで届いた。

 幌馬竜車には都合六人の護衛がついていた。その中の一人、シリウスと呼ばれた男が前に進み出る。腰の皮袋から黒い宝石を取り出すと、手の平の上に乗せ開封の呪文を唱え始めた。

「彼は炎の精霊使いでな。ちょっと夏の焚火を味わって貰おう」

 ウェズンは剣を中段に構え、いつでも攻撃に移れる体勢を取った。

 彼は盗賊団の背後を火の精霊魔法で攻撃し、混乱したところで一気に反撃に出る作戦を立てていた。シリウスを幌馬竜車に残したのはこの為だ。

 だが、その言葉ににやりとしたのは、頭目の方だった。

「魔法との挟撃か。中々頭使ってんじゃねぇか。でも、作戦立てているのはおっさんだけじゃねぇんだぜ」
「なに!?」

 頭目の脇に一人の男が進み出た。ローブの様にゆったりとした茶色の服を纏い、胸には蓮の花の図柄があしらわれている。肩まで届く髪はグレーで、綺麗に切り揃えられている。切れ長の目元は鋭く、何でも見通しているかのようだ。他の盗賊達とは雰囲気がまるで違う。

 茶色の服の男は手にした錫杖を天に掲げ、呪文を唱えた。

 ――ヴィン。

 耳障りな音が響いたかと思うと、周囲にいくつもの魔法陣が表れた。魔法陣はウェズン達や幌馬竜車はおろか、夜明かしの草原全体を覆う勢いだ。

 よく見ると、青白く光る魔法陣の中心に何かが刺さっている。

 矢だ。

 その矢はキャラバン隊の周辺に打ち込まれた矢と同じものだ。

 魔法陣は矢を中心に展開されていた。

「精霊開封できなくする魔法陣だとよ。こんなのがあるとは俺も知らなかったがよ。流石、精晶石を生んだ()()は違うな」

 頭目は舌舐めずりする。

「シリウス! 炎の精霊魔法だ! 急げ!」

 ウェズンが叫ぶ。

 シリウスは懸命に精晶石から炎の精霊を開封しようとしていた。

「炎の精霊アントム、我が名はシリウス、焼き焦がす者。我の呼び掛けに応え、その姿を顕せ……」

 だが、彼の手にある黒い宝石はぴくりとも反応しない。何度も呪文を繰り返すが駄目だ。 

 精霊魔法が発動しないことを横目で確認した頭目は、余裕たっぷりの表情でウェズンを睨んだ。

「さぁ、おっさん。祝宴(パーティ)の始まりだ。精々、楽しませてくれよ」

 頭目の合図に盗賊達四十人が二手に別れた。一方はキャラバン隊に向かい、残りの半分がウェズンら四人を取り囲んだ。
 

本編の八千年後の世界に転移した主人公の奮闘を描く三部作!
こちらもよろしくお願いいたします

「ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件」

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