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短編

メリーツインズクリスマス

作者:彩芭つづり
「いつになったら僕のところにサンタクロースは来るのでしょうか」
「……どうした、藪から棒に」
「いいえ、べつに?」
「あまり『べつに』って顔じゃないな」
「ふん。寂しい男のただの独り言ですよ」
「そのわりにはでかい声だったぞ。というか、わざと俺に聞こえるように言っていただろう」
「そんなことはありませんよ。もともと僕の声が大きいだけでしょう」
「そうか?」
「そうです。言ってみただけですので放っておいてください」
「放っておきたいのはやまやまだが、そういうわけにもいかないな」
「なぜです?」
「おまえが放っておけと言うときはだいたい俺に話を聞いてほしいときだからだ。それを放っておくと、あとで面倒くさい」
「へえ。僕の心がわかるんですか」
「わかるに決まっているだろう。何年一緒にいると思ってるんだ」
「……まあ、それもそうですね。二人一緒にこの仕事を始めてから今年で何度目の冬を迎えたでしょう」
「両の手の指をすべて折って百を掛けても足りないな」
「もうそんなに経ちますか。どうりであなたも年をとるわけです」
「あなたもって、おまえだって同じように年をとっているだろう」
「それはもちろん。ですが僕はあらゆることに気を使っています。ですから見た目はまだこんなに若いまま。どうです、このきめ細やかなシルク肌。端整なお顔にぴったりでしょう。あなたとは違うのですよ、あなたとは」
「端整な顔、ねえ。だが、それだと俺も端整な顔立ちということになるぞ」
「は? 笑わせないでください。なに寝ぼけたことを言っているんですか。寝言は寝て言ってくださいよ、ほんと」
「ひどい言いようだな……」
「事実を述べているだけです」
「俺だってそうだ」
「事実だと?」
「ああ。おまえが端整な顔なら、俺もそういうことだろう。だって俺とおまえは“双子”なんだから。それを忘れてないか?」
「まさか。忘れてなどいませんよ。なかったことにしているだけです」
「なおさらひどいな」
「冗談ですよ。ですが、双子とはいえまるきり一緒にはしないでいただきたいですね。僕のほうが断然ハンサムなんですから」
「俺たちは一卵性双生児で周りからもよく似ていると、」
「僕のほうがハンサムです」
「……さいですか」
「しかし……」
「なんだ、じろじろ見たりして。俺の顔になにかついているか」
「いいえ。ただ、なにもお手入れをしていないとそういったお肌になってしまうのだと思って……。なんとも憐れです」
「そういう目で俺を見るな。……というか、憐れまれるほどひどいのか、俺の肌は」
「そうですね。まあ、僕と比べれば、ですが。一般的には綺麗なほうなのではないですか? しかし白磁のような麗しい肌を持つ僕の比ではありませんね。悔しいでしょうが残念です」
「なんだろう、不思議とまったく悔しくないな」
「負け惜しみですね、わかります。でも本当、あなたを見ていると時の流れの早さがひしひしと伝わってきますよ。恐ろしいですね。ちなみに、こういう月日が経つ早さを例えて、東アジアの小さな島国では『光陰矢のごとし』というそうですよ。言い得て妙だと思いませんか」
「他国のことわざを知っているのか。瑣末な知識を持っているんだな、おまえは」
「博識と言ってください」
「どうでもいいが……。そんなことより、早く教えてくれないか。おまえがすねているわけを」
「すねているなんて、僕が幼稚みたいな言い方をしないでください」
「すねていないのか?」
「すねていませんよ」
「本当に?」
「……ええ、まあ、そうですね。すねているのかもしれませんね、多少は」
「素直じゃないな。なら理由を教えろ」
「…………」
「黙っていたんじゃわからないぞ」
「……べつに……僕はただ、あなたが羨ましいだけです」
「羨ましい?」
「そうです。どこへ行っても声をかけられ、握手を求められ、憧憬の眼差しを向けられる。まるで芸能人ではないですか」
「おまえは芸能人になりたいのか」
「そういうわけではないですが」
「じゃあどういうわけだ。俺だって芸能人というわけじゃないぞ」
「それはわかっていますよ。でも、芸能人でなくても有名人だ。あなたを知らない人はいない」
「それはそうだ。みんなが俺を知っている」
「ほら。自分でもわかっているではないですか」
「この時期になればどこへ行っても俺の写真やイラストが飾られているんだ。鈍い俺でもさすがに気づくさ」
「気づいたのは最近ですよね。だいぶ鈍いと思いますよ。とんまです。おたんちんです。やーい、おたんちん」
「おまえの言いたいことというのは俺の悪口か?」
「違いますよ。あなたが話をそらしたのではないですか。僕のせいにしないでください」
「結局なにが言いたいんだ」
「まあ……だから、つまりは……」
「なんだ、はっきりしないで。変なやつだな」
「変って失礼ですね」
「本当のことだろう」
「なんだか腹が立ちますね。叩きますよ。この灰袋で」
「叩くな。落ち着け。そう荒むな。だからおまえは子どもたちに恐れられるんだ」
「ふん。双子の兄弟なのにここまであからさまに態度を変えられたら荒みもしますよ」
「……もしかして、それが原因ですねているのか?」
「さあ、どうでしょうね」
「そうなのか」
「ふーんだ」
「そうなんだな……」
「なんですか、その呆れたような表情は。そりゃあ、あなたはいいですよ。世界中の人気者で誰からも好かれているんだから。子どもたちは今夜、あなたを強く待ち望んでいる。僕みたいな人間の気持ちなんて一生わかりっこないんです」
「そんなことはない。世の中にはおまえを必要としている人だって」
「僕? 僕がなんですか。誰が僕を待ち望んでいるって? 笑わせないでください。僕を待っている人なんて誰もいない。いるわけないではないですか。この時期になれば子どもたちは僕に攫われないようにと必死に『いい子』を演じるのですから」
「おまえに攫われるからじゃなく、『いい子』にしていないとプレゼントをもらえないからだろう」
「どっちでも同じです。最近は『いい子』ばかりで僕の商売上がったりです」
「もし『悪い子』がいたとしても、おまえは攫ったりしないだろう」
「そんなの当たり前ではないですか。脅すだけです。この時期にプレゼントをもらえない子どもがいたらかわいそうではないですか。僕はこんな仕事をしていますが、心の中では世界中の子ども全員に幸せになってもらいたいと常に思っているんです」
「そういうところは同じ考えなんだな。さすがは兄弟だ」
「当前です。……でも、どうして僕たちにはこんなに存在の差がついてしまったのでしょう」
「存在の差?」
「そうです。だって僕もあなたも似たようなものではないですか。服を着て、そりに乗って、トナカイを連れて、大きな袋を持っている。どうして僕だけがこんな扱いなんです? 腑に落ちませんよ」
「そりゃあ、おまえ、全然違うだろう」
「どこがどう違うんですか」
「間違い探しをするまでもない。見ろ。まず服の色だ。俺は赤だが、おまえは黒。そりに乗ってトナカイを連れているのは同じだが、この大きな袋の意味だってまるで違う」
「意味なんてどうでもいいですよ」
「どうでもよくない。じゃあ聞くが、俺の袋とおまえの袋、中にはそれぞれなにが入っているか知っているな?」
「ばかにしないでください。知っているに決まってます」
「なら答えろ。俺のこの袋に入っているのは?」
「子どもたちへのプレゼントです」
「正解だ。じゃあおまえの袋に入っているのは?」
「灰です」
「……灰だ」
「灰です。あと長い棒」
「それらはなにに使うんだ」
「悪い子どもたちのお仕置きに」
「……それだ。原因は明確だと思わないか。そのせいでおまえには子どもたちが近づいてこない」
「そんなことを言っても仕方ないではないですか。これが伝統なんですから。SMグッズのようなものを袋に入れて持ち歩くのが僕の役目です、使命なんです」
「確かに伝統みたいなものだが、しかしなあ……」
「それを言うなら、あなたのイラストがいつも太った老年に描かれるのも伝統ですね」
「は?」
「あなたのイメージといえば、赤い服を着た白いおひげのおじいさんです。実際にはこんなに若くてスレンダーなのにですよ。僕たちは想像上の人物に過ぎない。だから、老いもしなければ死にもしない。そういう存在です。それなのに……残念ですね、ぷぷっ」
「おまえ今笑ったな?」
「いやだな、笑ってませんよ。ちなみにWikipediaで調べたところ、あなたのことが『常に笑顔の、白のトリミングのある赤い服・赤いナイトキャップ姿で白ヒゲを生やした太りぎみの老人の男』という具合に書かれていました。常に笑顔ですって。実際はこんなに眉根にしわを寄せているのに。世間のイメージって本当に怖いですね、ぷぷぷっ」
「今のは笑った。絶対笑った!」
「笑ってませんってば。言いがかりはやめてください。ああ、世界の人気者であるあなたがそんな怖い顔をしたらいけませんよ。ほら、笑って笑って。にっこりとね」
「ふん。もう知らん」
「あれ。怒ったんですか?」
「さあな」
「怒ってますよね? ああやだやだ、怒りっぽい“サンタクロース”なんて誰も喜びませんよ。子どもたちもショックで今夜寝込んでしまうかもしれません。そうしたら完全にあなたのせいで、」
「あーあ、今年は特別にプレゼントを用意したんだがなあ。……いつもがんばっている我が弟宛てに」
「……え、なんですかそれ。初耳!」
「でも当の本人は『悪い子』みたいだしなあ。『いい子』じゃないとあげられないしなあ。残念だなあ」
「お兄さまっ、いつもお疲れ様です。今夜は忙しいですし、今だけでもゆっくりお休みになってくださいませ。そうだ、肩をお揉みしましょうか? それともこの長いおみ足? イケているお顔のマッサージもいたしましょう!」
「そうかそうか、そんなに言うならしてもらおうかな。……あ、そういえば、まだトナカイたちに餌をやっていなかったような」
「なんですって! それは大変です。今すぐ、この私めが!」
「ふむ。よろしく頼んだ」
「はい、喜んで! では早速行ってきます!」
「ああ、いってらっしゃい」
「…………」
「……どうした?」
「……あの、その前に、ひとつだけ言いたいことが」
「ん? なんだ」
「さっきはあなたのことが羨ましいだのなんだのと言いましたけれど、なんだかんだ言って僕は、」


「――『黒いサンタクロース』の仕事は自分によく合っていると思っていますので、お気になさらず」

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