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ろとの知りあい

「失礼する」

 ドアの外から、そんな声がする。


 最初は、どこかよその部屋の訪問客かなと思ったのだが、しばらく耳を澄ませていると――。

 もういっぺん、さして大きくもない声で、また再び――。


「失礼する」


 そう声がした。


 よく考えてみれば、このアパートには、まだ俺たちしかいない。ゾーマが〝事業〟の一環としてアパートまるごと大人買いしていって、外国人とか母子家庭の人とかを中心に世のため人のための賃貸をするとか言っていたが、まだ誰も越してきていない。

 よって、訪問客がいるとしたら、それは俺たちのところになるわけで――。


「はーい」


 俺はドアを開けに行った。

 ドアを開けたら、誰もいなかったので、目線を下へとさげてゆくと――。


 だいぶ低い位置に顔があった。

 子供と女の子の中間くらいの子が、立っている。

 12歳かな。14歳ってことはないだろうな。そんな感じの女の子。

 ぜんぜん表情はないが、顔立ちはけっこう可愛い。


「えと、なにかな?」


 どこかで見たかな? ――と思いつつ、思い出せないので、そう聞いてみた。


「こちらに――○○△△という娘が住んでいるはずなのだが」


 女の子は、ちょっと年齢とそぐわない喋りかたをした。

 なんだか学者さんみたいに、かっちりとした喋りかただ。


 ○○△△というのは、ろとの本名だった。

 ろとだって、もちろん本名くらい持っている。俺がトレボーという本名なのではないのとおなじように。

 けっこう可愛い本名だったりする。


「ええ。いますけど?」


 そちらは? ――というつもりで、目線で問いかけたつもりだったが。

 どうも通じなかった模様。

 まあ小学生なら仕方がないか。


「ええと……。ろとの友達かな? ああ、ろとっていうのは、△△のことで――」


 相手はたぶん小学生。

 俺は子供に話しかける口調で優しく言った。

 最初に見たとき、どこかで見た気がしたのも、近所で見かけていたのかも? ――と、そう思った。


「戸籍上の繋がりと血縁上の繋がりはあるが。友達かどうかは彼女本人の認識によるものなので、私からはどうとも言えないな」


 ん?

 戸籍? 血縁?

 なんのこと?


 俺はしばらく考えてみて……。


 あー。あー。あー。

 ようやく。わかった。


「ちょっと待っててね」


 俺はろとを呼びために、部屋の中に戻った。


「おーい、ろとー。なんか、妹さんが来てるぞー」


「えー? ぼく、妹なんて、いないよー?」


 ヘッドフォンを外して、ろとは俺に顔を向ける。


「いや……。なんか血縁って言ってるし? じゃあ、妹じゃなければ……、親戚の子とか?」


「ぼく親戚もいないよー?」


「いや親戚くらいすこしはいるだろ。まあとにかく、俺じゃわかんないんだから。おまえ、出てくれって……」


 ろとのどてらの背中を押す。玄関まで押す。いったん閉まってたドアのところまで押してゆく。


「ぼく、知らないひとー。こわいよー」

「向こうは知ってるみたいだったぞ」

「えー?」


 ドアを開けさせるのにも、一苦労。

 引きこもりニート美少女は、人に会うだけでも、いつもこのように大騒ぎとなる。


 ろとが、そーっと、そーっと、ドアを開ける。

 スキマを、薄く開いた。

 目だけで、ちょっとだけ覗く。ちょっとだけ。ほんのちょっと。


 それで、ぱたんと、ドアを閉じる。


「どうだった?」

「よく見えなかったー」

「もういっぺんみてみろ?」

「う、うんっ! が、がんばるっ……」


 ろとは、もういっぺんチャレンジした。


 がんばれ。ろと。

 宅配便屋さんや、郵便屋さんだと、相手に悪いので、俺がすぐに替わってしまうが――。相手はろとの知りあいだというのだから、すこしくらいは、いいだろう。

 これもろとの教育のため。

 ろとの社会復帰に向けた訓練のため。


 すこし、辛抱いただきたい。


 またドアが薄く開いて、そしてぱたんと閉じられる。


「こんどはどうだっ?」

「あれぇ? ……なんか、見たことある人だよー?」

「そりゃそうだろ。向こうは知り合いだって、そう言ってるんだから」

「もういっぺん。よくみてみろ? こんどは思い出すかもしれないぞ」

「うん。そうするっ」


 ろとは、もういっぺんドアを開いた。

 こんどは前の二回よりも長くドアを開いている――。

 ずっと開けたままにしている。


 ろとは、ぽかんと口を半開きにして、そこに立つ、外見、小学生ライクな少女を、凝視していた。


 ――と。


「……まま?」


 ぽつりと、そう言った。


 え?

 いま、なんつった……?


 まま?

 まま、って……。まま? あの〝まま〟?

 つまり、その意味するところは……?


 いわゆるひとつの――ママ、母、マザー、お母さん、母親?


 ええと、つまり……。

 ろとを……、産んだひと?


「えーっ! ……ええっ! えーっ! えーっ! えええーーーーっ!?」


 俺は目の前に立つ、外見小学生ライクな少女を指さして、絶叫していた。

 いや。無理だろ。物理的に。


「んっ。お初にお目にかかる。ろとまま(、、、、)だ」


 ろとまま(、、、、)は――。

 ぺこりと、少女っぽく、お辞儀をした。

新キャラ登場です。ろとままです。

ろととの「関係」は、請う、次回。

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