たまっちゃう?
「あーもー、トレボーちゃん! くっそカワイイわー! テラオカス!」
いつもの夜。いつものゲーム内。
顔を付き合わせて三人でやっているネトゲのプレイをしていると、ワードナーが、鼻息も荒く、そんなことを言いはじめた。
「おいおいおい。正気に返れ」
「だから、あたしの前をひらひらスカート揺らしながら歩いているあんたが悪い! あーもー、オカス! テラオカス!」
たしかに俺のゲーム内キャラは、森の乙女、ぴちぴちハーフエルフ15歳美少女なわけであり――。
まあ、テラ犯したくなる気持ちも、わからんではない。
実際、俺も、このビジュアルに一目惚れして、このゲームをはじめて、迷わず、この外見を選択したわけだし。
「ねー、わーどなー、なにいってるのー?」
「いや。ろと。おまえは知らなくていいことだ」
「突っこむ! 突っこむー! テラ突っこむ!」
「ねー、わーどなー、とれぼーに、なにつっこむのー?」
「ああ。ろと。おまえは知らなくていいことだ」
「ぼくも、つっこんだほうが、いーい?」
「いや。突っこまなくていいぞ」
「ろとちゃん! 一緒にヤルー! 一緒にヤリましょー! ゲラゲラゲラ!」
ワードナーは、もはやここまで行くと、〝残念なお姉さん〟を通り越して、ただの〝頭のおかしい人〟になっていた。
まー。事情はわかる。
今日は週に一回の〝鍋の日〟と決まっている曜日なのだが――。
なんと、あの鍋奉行――いや、〝鍋邪神〟ゾーマが現れなかった。
三人で、ちまちまと、辛気くさく、鍋をつっつき――。
ちなみに〝鍋奉行〟がいないときには、自分が鍋奉行をやらされるということを、俺は初めて知った。
まあ、このメンバーなら、必然的にそうなるのだろうが。
ゾーマは、なにか、いま抱えている事業とかで、忙しいらしい。
そしてワードナーは、ほっぽって置かれているらしい。――いや。二人が〝そういう関係〟なのかどうか、確証は持てていないのであるが……。
つまり、ワードナーおばさんは、欲求不満でいらっしゃるわけだ。
このあいだっからそうだったが――。もっとさらに、輪をかけて、欲求不満であらせられる。
「ねえ。トレボー」
「なんだ」
急にワードナーが、据わった声でそう言ってくるものだから、俺は、びくびくしながら、返事を返した。
「あんたさー。アレってどうしてんの?」
「あ、アレとはなんだ?」
俺は可能な限り平静な声を返しながら、しきりに目配せを繰り返した。
やめろ。よせ。いますぐやめろ。
ここには、ろともいるんだぞ。
いますぐやめれば、間に合うから。
俺も全力で火消しに協力するから! だから頼むから!
という、メッセージを視線通信に込めて、ワードナーのやつに送信したのだが――。
「だからアレよ。溜まっちゃうでしょ。どうしてんの?」
だめだー。
じぇんじぇん、通じてないわー。
ワードナーに、目配せで、なにかが通じるなんて、期待した俺が、バカだったわー。
「あー……。うー……。あー……。まあ……、なー。そのつまり……、だなー……。いわゆる……、ひとつのー……、世間一般的なかんじでぇ……、じゃないかなー?」
俺は答えた。
これ以上ないほど明確に、事実を一つも曖昧にすることなく、答えきった。
――が、ワードナーは俺の答えが、お気に召さなかったようで――。
「ろとちゃんは、どうしてんの?」
こんどは、ろとに飛び火してしまった!
「やめい」
俺は全力で、ろとを守りに入った。
この欲求不満のオバハンから、純真無垢を、ろとを守れるのは――俺しかいない!
「いつもしてるよー」
ろとは、あっさり、答えてしまった。
「ええっ!」
俺は、超絶、驚いた!
えっ? ええええっ!? い、いつもしてるって――!?
「こっそりしてるよー。とれぼーきづいてないよー」
「えええええっ!?」
俺は、もっとさらに驚いた!?
こ、こっそりっ!? 俺きづいてなかったのっ!?
「ここに、しまってるよー」
ろとは、こたつから立ちあがると、押し入れをあけた。
ガラスの大きなビンあって、そのなかには、十円玉、五円玉、一円玉……が、ぎっしりと。
「あ……。ああ……。い、いつも、してるって……。ち、貯金ねっ……。そ、そうだね……、こ、小銭はっ……、た、貯まっちゃうよねっ……。あははは……、あははははーっ……。はぁ」
俺は乾いた笑いを、たっぷりとしてから……。はぁ、と大きなため息をついた。
あー。びっくりしたー。
まさかー。
ろとがー。してるとかー。
こっそり。とかー。
よかったー。勘違いだったわー。
あー。びっくりしたー。
「あーもう! ろとちゃん! クッソかわいいわあぁ! ねー! オカス! オカス!? 犯していいっ!? いいわよねっ!? シコボーくんっ!?」
ワードナーがエキサイトしている。
だれだよシコボーって?