ミサイルの気持ち
僕はミサイル。
銃弾や爆弾よりも、速く、遠く飛べて、目標にとても正確に命中することができる。
現代の戦争は、僕らミサイルなくしては戦えない。
僕らミサイルはいわば、戦争の主役だ。
陸軍の兵隊も、海軍の軍艦も、空軍の戦闘機も、みんな僕らで戦っている。
ミサイルと一口に言っても、その種類は様々だ。
地上を爆撃する対地ミサイル。
船を攻撃する対艦ミサイル。
飛行機を撃ち落とす対空ミサイル。
水平線の向こうまで届く巡航ミサイル。
遥か宇宙を掠めて飛んでいく弾道ミサイル。
読んで字の如し対戦車ミサイルなんてのもいる。
僕らミサイルは、人間たちの代わりに敵に体当たりして、戦争に協力してあげる。
命中すれば、当然僕らは真っ先にあの世行き。
それでもいい。
発射されてから命中するまでの間、そのつかの間、僕らは自由になれる。
自分の力で空を飛び、想像を絶するスピードで長い距離をひとっとびするんだ。
そう、自由だ。
自由になれる。
僕は、対空ミサイルとして製造された。
巨大な貨物輸送機のお腹に、たくさんの仲間たちと一緒に詰め込まれて、とある航空基地まで運ばれた。
基地の人たちは、僕を『サイドワインダー』って呼んでくれる。
今までは大抵、アルファベットと番号で呼ばれていたから、僕はちょっぴり嬉しかった。
パイロットに人たちが、改良型のは命中率がいいらしいって、僕を指して喜んでいた。
褒めてもらったり自慢されたりして、僕はちょっぴり誇らしかった。
基地にやってきてしばらくたったある日、いよいよ空を飛ぶ日がやってきた。
整備士の人たちが、僕を念入りに点検してくれる。
大丈夫、僕は万全、必ず期待に応えて見せるから。
大きな大きな戦闘機の翼、その下に僕は仲間のミサイルたちと一緒にぶら下げられる。
「頼むぞ、相棒」って、パイロットの人が戦闘機の体を撫でていた。
エンジン始動、ジェットエンジンの唸り声を上げて、戦闘機が飛び立つ。
僕は赤外線誘導ミサイルといって、ジェット機の発する『熱』を感知して追いかける仕組みになっている。
だから、僕の『眼』である赤外線カメラは、発射するまでは作動せず、冷却保護されている。
僕らミサイルって結構デリケートなんだ。
この眼を閉じた状態では周りの景色なんて見えない。
でも僕は、風を肌で感じ、空を実感していた。
僕は今、空にいるんだ!
《レッドチーム、こちらシャープアイ。ボギーを確認した。方位243、距離70、高度4000、機数5、迎撃せよ》
《こちらレッド1、了解》
《レッド2了解》
いよいよだ。
僕らの出番がやってきたんだ。
戦闘機が急旋回して、敵の飛行機を捉えた。
敵はとても遠くにいたけれど、目に見えなくてもレーダーはしっかりと目標を捉えている。
《レーダーコンタクト、レッド1・エンゲージ(交戦)!ターゲットロック、シーカーオープン。レッド1、FOX3!》
戦闘機のお腹にくっついていた、僕よりも遠くへ飛べる大きなミサイルたちが、次々と大空へ飛び出していく。
《シャープアイよりレッドチーム、命中を確認。ボギー残り2機》
《イヤッハァ!ざまぁみやがれ》
命中したみたいだ、よかったね、パイロットさん!
さあ、次は僕らの出番だ。
いくら優秀な誘導装置を持っていても、僕らは必ず命中するとは限らない。
目標に対して、完全にそっぽを向いていたら当然当たらないし、敵だってやられたくはないだろうから必死に逃げ回る。
だから、ミサイルを撃つときはなるべく当たりやすい位置から撃ってもらいたい。
この戦闘機のパイロットの人もそれはわかっているから、当てやすい位置、なるべく敵のうしろへ戦闘機を持っていこうとしていた。
右へ左へ、高速で飛ぶ戦闘機が切り返すたびに、重力が横殴りに襲い掛かってくる。
僕は振り落とされないよう、必死に翼にしがみついていた。
《よぉし、いい位置についた!シーカーオープン!》
突然、僕の目の前が開けた。
その視界の中、強力な熱を発する一点がひときわ目立って見える。
あそこだ、あそこへ行くんだ!!
《レッド1、FOX2!!》
僕は翼から切り離され、一つの独立した飛行体となった。
ふわりとした心地いい浮遊感。
それは、待ち望んでいた自由を約束してくれる感覚だった。
僕は、僕自身の動力であるロケットモーターに点火する。
僕は、跳ねるように力いっぱい前へ飛び出した。
目標から外れてはいけない。
僕の自慢の小さな翼を使って、方向をこまめに調整していく。
さっきまでくっついていた戦闘機が、あっという間に小さくなっていく。
すごいぞ!僕は戦闘機よりも速く飛べるんだ!
そうだ、僕は飛んでいるんだ。
空を飛んでいるんだ。
自分の力で、自分の翼で、この大空を飛んでいるんだ。
僕は、自由になったんだ!!
やがて、自由の時間にも終わりが来る。
敵の飛行機が、すぐそこまで迫っていた。
自由も、そして僕自身とも、サヨナラしなければならない。
大丈夫、きちんと役目は果たすから。
ちょっぴり名残惜しいけれど、わがままなんて言わないから。
きっと、期待に応えて見せるから。
だって、僕はミサイルなのだから・・・
突然、敵が無数に現れた。
目の前にたくさんの熱の塊が、急に飛び出してきた。
僕は、何がなんだかわからないまま、敵の『大群』を通り越してしまった。
《ミサイルが外れた!》
《クソッタレめ、奴の打ったフレア(高熱を発するおとり火球)に釣られたんだ!何が新型のサイドワインダーだ!!》
《シャープアイよりレッド1、無駄口叩くなら敵を叩いてからにしろ》
《あーあーあー、わかってるよ管制機!そこからしっかり見てやがれ、コンチクショウ!》
目が覚めたとき、僕が感じたのは風の息吹ではなかった。
ゆらゆらと揺られる不思議な感覚。
僕は、海に浮かんでいた。
自慢の翼はばらばらにちぎれ、体もいたる所にひびが入っていた。
空っぽになった燃料タンクが浮き輪代わりになって、今はなんとか浮かんでいるけれど、それも長くは持たない。
周りはきっと、夜になっているだろう。
赤外線カメラは無残に壊れて、お日様は見えなかったけれど、なんとなくわかった。
そして、僕が敵の飛行機に『命中しなかった』のだということも、わかっていた。
ミサイルの運命なんて、こんなものなんだろう。
外れて地面に当たって爆発する奴もいれば、基地が爆撃されて飛ぶ前に死んでしまう奴、間違って味方に当たっちゃう奴だっている。
ひどいときには敵にさらわれて、ばらばらに分解されちゃうこともあるのだ。
それと比べれば、僕はまだマシだったのかもしれない。
他のみんなより少しだけ、長生きできたのだから。
魚たちの気配を感じながら、僕は色々考え事をしていた。
他のみんなはどうしたろう、うまく敵に当たったのかな。
僕を積んでいた戦闘機は、そのパイロットはどうしたのかな、無事に基地にたどり着けたのかな。
パイロットさん、僕、役に立たなくてごめんね、せめてあなたの無事をここから祈っているから。
今頃空は満天の星空なのだろうか、基地の人たちが「今日は星がきれいだな」ってよく話してたっけ。
僕も一度でいいから、人間の目で星空を見てみたいな。
整備士の人がよく僕に腰掛けてハーモニカを吹いてたけど、あれ、なんていう名前の曲なんだろう。
とても優しいメロディーで、僕は大好きだった。
あのハーモニカの音色を、もう一度、もう一度だけ聴きたい。
出撃のとき、パイロットの人や整備士の人が戦闘機に話しかけていたけど、あれって結構元気が出るんだよな。
僕も一度でいいからあんなふうに話しかけて欲しかったな。
じきに海水が全身を満たし、僕は海に沈むだろう。
そうなれば電子機器が完全にショートし、使わずじまいの爆薬が本当に使い物にならなくなる。
僕は、完全に壊れてしまう。
生物はみな、海から生まれたのだという。
海は全ての生物の母なのだそうだ。
海で死ぬということは、母のもとへ帰るということ、それが人間たちの命と死に対する概念らしい。
僕は果たして帰れるのだろうか、お母さんのところへ。
やっぱり『モノ』じゃダメなのかな。
考えたいこと、気になることはたくさんあった、でも、もう後悔はしない。
だって、僕はミサイルなのだから。
そう、僕はミサイル。
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