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王子は○○○○したい。

王子は婚約破棄したい。

作者: つくしんぼ

 ヤバイ。ヤバイヤバイヤバイ。


 明日はアレだ。王立魔法学園のダンスパーティー。これが終われば無事卒業っていう、謂わばクライマックスの行事だ。


 そして、ここは乙女ゲーの世界。ここまで言ったら解ると思うが、俺は攻略対象。しかもパッケージのセンターを飾る第二王子だったりする。


 そして、転生者だ。前世で面倒臭がりの姉に、「全部のキャラの全部のイベント前のセーブ作っとけ」と、無理矢理プレイさせられた乙女ゲーの世界に転生してしまった……


 それはいいんだけど、俺には婚約者と恋人が別々にひとりずついる。

「馬鹿言ってんじゃねぇ、死ね」と思うだろうが、乙女ゲームってそういうもんじゃない? 攻略対象に婚約者がいて、それがライバルキャラの悪役令嬢——そういうもんでしょ?



 で、だ。

 ストーリー通りに俺とヒロインちゃんは恋に落ちたわけだが、ストーリー通りじゃないことも起きた——いや、起きていない(・・・・・・)といった方が正確かもしれない……



 悪役令嬢さんが仕事をしないのだ!



 いくら俺とヒロインちゃんがイチャついていようと、「あら私には関係ないことだわ」とでも言わんばかりにシカトくれちゃってます。婚約者としてそれはどうなの? と自分を棚に上げて考えちゃうのですよ! もうどないせぇと?


 このままでは悪役令嬢さんの断罪イベントが発生せず、俺とヒロインちゃんが結ばれない。それは困る。困るのだ!


 ええ? 冤罪被せれば良いだろって?

 馬鹿言っちゃいけない。そういうのって、結局『ざまぁ』が待っているんだろ? 悪役令嬢さんも結構やり手だし、たぶん無理。んで、こっちの精神的にも無理。自分の幸せの為に、冤罪で人ひとりを不幸のどん底に落として、へらへらと笑って過ごすなんて無理なのである。




 ――なので、訊いてみた。


「レイ・ジョ・アーク。少しいいか?」

「あら? メイヒィ殿下。構いませんが、如何なさいました?」


 学園の中庭にあるサロン。そこでひとり優雅にティータイムを楽しんでいた悪役令嬢さんに突撃訪問。

 

 開発もちゃんと名前つけろよ、って思う。

 俺、メイヒィ・ロゥだぜ? メインヒーローだぜ?

 悪役令嬢さんはレイ・ジョ・アークだしよ。

 ヒロインちゃんはデフォルトだとシュジー・コウだぜ?


 後はメイガ・ネイってクールキャラとか、ショウ・タロッコンなんてチビもいる。

 カール・イチャラッオなんて派手好きとかな。

 ヒロインの幼なじみの女の子で、いわゆるお助けキャラのオウサー・ナナジーミとかね。

 ちなみにゲームのバッドエンドはオウサーとの百合エンド。俺の嫁は貴様にはやらん。


 まぁ、それは置いといて……


『およげたい○きくんって、毎日同じたい焼き焼いてたら、賞味期限偽装してんじゃね?』

『それ以前に焦げ付くでしょう? それより、釣り針に掛かって海から出てきたたい焼きを、戸惑うことなく喰らったオジさんのほうが心配だわ。色々な意味で』


 日本語で話しかけてみた。

 あ、やっぱり?


「ふむ……それもそうだな」

「うら若い女性にする質問ではないですわね。元が未成年だったらポカーンですわよ?」


 そう言い返しながら、優雅に紅茶を口に運ぶレイ嬢。いやアンタ、普段からアラサーの雰囲気がぷんぷんしてたんですが。

 そしてやっぱり彼女も転生者らしい。


「何故、嫌がらせをしない?」

「ちょっとお待ちください――」


 パチンと指を鳴らすレイ嬢。

 ガサリとわずかな音が聞こえた後、レイ嬢が続けた。


「人払いは済ませておきました。普通の話し方で結構ですわよ? それと――そんな事、言わずにでも分かるでしょうに」


「えー? 頼むよー。君だって俺と結婚したいわけじゃないんだろー? 没落とかは免れるように手配するからさー。あ、そっちもいいよ? 言葉」


「ずいぶん砕けましたね……いやまぁ、あなたと結婚とかどうでもいいのですけれどもね? 断罪とか勘弁して欲しいのよ。領地の改革だって、やっと軌道に乗ってきたわけですし、ここで悪評を立てるわけにはいかないのよ」


 そう、悪役令嬢さん。自分ちの領地で、砂糖の原料になる甜菜を栽培しはじめたり、石鹸作ったり、製紙事業を始めたりで、「あゝ、内政チートやってんな」って、誰でも分かる感じでした。

 本人もゲームでは厚化粧のおっほほ令嬢だったのに、今は薄化粧で普通に優雅な佇まいですしね。


「若い時分から厚化粧なんて、肌を傷めつけているだけじゃないの。アラフォーへの侮辱だわ」


 ……訂正。元アラフォーだったらしいです。


「さて……貴方がそう言うからには、ここは乙女ゲー厶の世界なのかしら? と、いうか貴方TS転生?」


「前世も男だよ……てか知らなかったのか? ここは『恋するLOVE王宮〜ドキ☆ドキ☆貴方の鼓動〜』の世界だよ」

「キモっ! タイトルもキモいし、そのタイトルの乙女ゲームやってる男もキモい! いや、気持ち悪い!」

「うるせーよ!? 文句だったら開発と無理矢理やらせた俺の姉貴に言え!」


 人を気軽に保さ科扱いするんじゃねぇ!


「……よかったわ。マシュ○ー・セ○並の気持ち悪さだと思ったから……」

「昭和! 例えが昭和!」


 いやだもうこの人。アラフォー隠す気ゼロだわ。


「それで? うん――うん……いやねぇアンタ。自分の娘ほどの歳の女の子に入れ込んじゃってるの? 若い子同士の恋愛だと思ったから、微笑ましいわーって思って見てたけど……ロリコン? ロリコンは病気よ?

 考えてもみなさい。あっち基準で考えたら、あの娘が産まれた頃にはプ○ステ2があったのよ? ピコピコとか、親でも呼ばない世代よ? サテ○ビューなんて存在すら知らないわよ?」


「ちげぇよ! 俺はそこまで歳いってなかったよ! それに俺が産まれた頃にも、プ○ステぐらいならあったよ! サテ○ビューは俺でも知らん!」


 もうやだこの人。本当はアラフィフなんじゃないの?


「まぁ、どうしようもないんじゃないの? 私は愛のない結婚をして、今更、ひとりふたり子ども産んだってどうとも思わないし、前世の旦那だって、良かったのは結婚一年目ぐらいまでねー。後は惰性よ。惰性」


「夢のない話をするなよ! 俺はまだ結婚に夢を持っていたいの!! てかアンタ経産婦かよ!?」


「そりゃ女48歳にもなれば、子どもくらい産むわよ。五、六人」


「多いよ!? それとアラフィフだよ! 40代イコールアラフォーじゃないからな!?」


「あらそうなの? 初めて知ったわ」と、おほほーっと扇を立てる中身オバはん。しかも大家族の母。たぶん、乙女ゲームとかって単語も娘経由で知ったんだろうな……


 この人……よく考えたら、リアルタイムでマジ○ガーZ見てた時代の人じゃね? 思春期にピンク○ディーに憧れた頃の人じゃね……? エロ本をビニ本って呼んでた時代の人じゃね……?


 やべぇ、ヒロインちゃんの話抜きで、このオバちゃんと結婚しても、夜の生活を送れる気がしねぇ。いろいろピンチだ。


「いいじゃない、あの娘は側室でも。第二王子っていっても、ひとりぐらい側室は持てるでしょ?」

「いやまぁ、それは大丈夫だけどさ……やっぱり元日本人としての忌避感がね? ほら……」


 ぱんっ! とひとつ、レイ嬢(嬢?)が、扇子を鳴らす。


「――そもそも、私を追い落としたところで、あの娘を正室に出来るのかしら?」

「……何?」


 出来るはずだ――

 ゲームでは、悪役令嬢を断罪し、王子がヒロインに愛をささやいてハッピーエンドに――


「それだわ」

「……?」

「それで? 結局、王子とヒロインちゃんが結婚した。と、ゲームでしっかり出ていたの?」

「あ……」


 ……出てはいない。悪を退治して、王子とヒロインがキスを交わしてエンドロール。それがゲームでの終わり方だ。


「……たぶん、その後に二人は結ばれはしないわ。王子には別の婚約者が宛がわれてお終いでしょうね。都合のいいところまでしか見せないのよ。物語なんていうのは」

「だ、だけど!」


 冷静になって考えて見れば、たしかにレイ嬢の言うとおりだ。

 レイ嬢が婚約者として相応しくないと判断されたところで、位の低い男爵令嬢であるヒロインちゃんが婚約者に選ばれるわけがない。王子の婚姻なんていうものは、政略の駒なのだ。

 そもそも、自分で結婚相手が選べるならば、このレイ嬢と婚約することもなかったのだから――


「まぁ、側室ならなんとでもなるでしょう? 人生諦めも肝心よ? 私ならほら、ヒロインちゃんを側室に取ってもいじめたり文句言ったりしないし?」


「――そう、だな。それで良いのかもしれない……」




 ―― …… ―― …… ―― …… ――




 数年後。

 俺は正室にレイ嬢。側室にヒロインちゃんを迎えていた。


 ヒロインちゃんとレイ嬢の仲は円満で、理想的な家庭を築けていると言っていい。

 俺は公爵の爵位を賜り、レイ嬢が着手していたアーク侯爵領から程近い場所を領地として与えられた。

 その領地を、レイ嬢の内政チートを駆使して盛り上げていた。レイ嬢――いや、レイには頭が下がりっぱなしだ。


 そして俺たちは――


「あ、今、動きましたよ。レイさんのおなか!」

「ふふ、本当に元気な子ね。男の子かしら? 女の子ならお転婆になりそうね」

「いいなー、二人目ですもんね。私も早く授かりたいんですが……」

「慌てなくても大丈夫よ。メイヒィに頑張って貰いましょう」

「はいっ」


 いや、ねぇ? アラフィフのテクニックをナメてました。正直、ヒロインちゃんじゃ物足りな――げふげふん。


 ――今日も我が領は平和です。

 読んでいただき、ありがとうございました。


 改稿:ひとつ小ネタ追加しました。

 改稿:ちょっとネタの年齢が行き過ぎていたので、別のものと差し替えました

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― 新着の感想 ―
[一言] それでいいのか主人公w
[一言] 48だとピンクレディーのころは高校か、下手すると卒業しているかも。
[良い点] こういうのいいね^^b [気になる点] レイさんの小ネタで爆笑した私自身 [一言] まあ、前世含めたらロリコン扱いされるのはしょうがないねw
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