ナンパ
ナンパ
SF:サイエンスフィクション
僕は、店でハンバーガーを食べていた。
「こんにちは!」
高校生らしき知らない女の子が、声をかけてきた。
「座っていい?」
彼女は明るく言った。
知らない娘がなんだろう?と正直思ったが、それ以上に彼女はかわいかった。
「…あ、ああ。いいよ」
僕は彼女が席に着くのを拒まなかった。
「…変だと思ってるでしょ?いきなり」
椅子に座ると、彼女は微笑んだ。
「そりゃ、まあ…」
彼女は少し間を置いて、口を開いた。
「あなたは私のこと、知らないでしょうけど、私はあなたのこと、よく知ってる」
彼女は微笑んだ。
「なぜだかわかる?」
?
「付き合ってたからよ」
僕は、彼女が何を言っているのかさっぱりわからなかった。
「それ、どういう意味?」
「そのままよ。それよりどうする?付き合い続ける?」
彼女はまだ微笑んでいる。
「いいわ。今決めなくても。そのうち決めてくれれば。私、待ってるから」
そう言って彼女は立ち去った。
??
どういうことだろう?知らない娘が、僕と付き合っていたって?
混乱した頭を整理するのにハンバーガー屋でしばらくボーっとした後、僕は家路についた。
帰り道。
こちらをじーっと見つめている娘がいる。
「…待ってた」
「僕を?」
「そう」
「で、要件は?」
「付き合って欲しいの」
「僕、と君、が?」
「そう」
今日は変な日だ。知らない娘二人から誘われるなんて…。
「今、決めなくていい。あとでいいから…」
そう言って彼女は走り去っていった。
家。自分の部屋のベッドの上。
天井を眺めながら、僕はぼんやり、今日起こったことを思い出していた。
知らない女の子から二人も声をかけられた。
…でもなあ、彼女、欲しいよな。
どっちがいいだろ?ハンバーガー屋の娘と帰り道の娘。
ハンバーガー屋の娘の方が可愛いかったかな?とりあえず、あの娘と付き合ってみよ。
次の日、彼女と待ち合わせていた場所に行ってみた。彼女はもういた。
「ありがと。私を選んでくれて」
「え?選ぶ?」
なんで知ってんだ?彼女。
「まあ、いいじゃない。行こ」
それから僕らは色々なことをして、街を楽しんだ。
遊び疲れて、公園のベンチ…
僕は笑顔で言った。
「楽しかった。ありがとう」
「私も」
不意に彼女が遠い目になった。
「ねえ、不思議じゃない?あなたが私の記憶、ないの」
「うん。…まあ」
「あなたね、交通事故で大怪我したのよ」
そう言われてみれば、病院にいた記憶が…。
「それでね、怪我したの、あなただけじゃないの」
「どういう意味?」
「事故にあったのは、同じくらいの背格好の二人…。二人とも、そのままだと死ぬはずだった。でも、助かる方法が一つだけあった。被害者の大丈夫な臓器をかけ合わせて、一人にする手術…」
「…それが、僕なのか?」
彼女はうなずいた。
「幸い、脳も内臓も、激しく損傷を受けた部分が違ってた。手術は成功。一人になっちゃったけど、あなたは生き残ったわ…」
彼女が涙を流した。
「よかった。助かって!」
彼女が僕にすがった。僕は彼女を抱きしめた。
「じゃあ、もう一人の娘は…」
「諦めるって言ってた。泣いてたわ」
僕は立ち上がって、走った。
約束の場所には、まだ彼女がいた。
会うなり、僕は彼女を抱きしめた。
彼女は泣いていた。
「ゴメン。何も憶えてなくて!」
「いいの。こうしてるだけで…」
二人の彼女。僕は一人…。二人の彼女とのかけがえのない思い出。僕は憶えていない、かけがえのない思い出…。
二人が僕の前にいる。
沈黙。時間だけが過ぎていく。
「いったい、」
僕は口を開いた。
「君たち二人と、今までどんなことがあったんだ?僕は何も憶えていない。付き合ってたのに、何も憶えていないんだ」
僕が憶えていないこと。楽しかったこと、うれしかったこと…。
僕の空白の記憶。
「で、どうする?」
ハンバーガー屋の女の子がつぶやいた。
「どうするって?」
「これからよ。だってあなたは一人しかいないし、私たちは二人。どっちかが降りなきゃいけないでしょ?」
「…」
帰り道の娘が耳をふさいでしゃがみこんだ。
「好きな方を選んでくれていいのよ。そのことは私たちも話し合って決めたから」
僕は少し声が大きくなって言った。
「選べないよ!選べるわけないだろ?だって、二人とも、僕の大切な彼女なんだぜ!」
どうすればいいんだ?僕は一人、彼女は二人…。
「そんなわけ、いくかよ…。だって…」
「仕方ないのよ。これが私たちの宿命なんだから」
「俺、選べないよ!」
帰り道の娘が口を開いた。
「…再出発しよう」
彼女の声はますます小さくなった。
「ここで止まっていても、多分いいことないわ。それより、みんな忘れて、再出発するの」
再出発?
「新しい付き合う相手を見つけるのでもいいし、なにか打ち込めることを見つけるのでもいいし、別のこと、探すの」
「でも…」
「だって、このままじゃ何もいいことないよ。みんな、新しいこと、見つけようよ!」
僕はしばらく黙っていたが、うなずいて、手を差し出した。
「握手して、別れよう」
三人とも泣いていた。僕らは手を強く握りあった。
「さよなら!ありがとう!」
三人は笑顔になっていた。
僕らの新しい人生がはじまった。