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見え隠れする真相 8


 ものの数分で現場が見えてきた。

 小鬼(ゴブリン)どもが街を襲っている。

 自警団だろうか、武装した住民が防戦しているが、劣勢は明らかだ。

 そもそも数が違う。

 住民の戦力は二十名いるかどうかというのに対して、ゴブリンは百近く。

 これでは勝負にならない。

「ティア!」

「んむ。最小火力で街に被害を出さぬように、じゃな」

 低空で飛んでいる状態のまま、ティアマトが口を開いた。

 次の瞬間。

 轟! という音とともに閃光が宙を薙ぐ!

 レーザーブレス。

 十数匹のゴブリンが悲鳴すら残さずに消滅した。

 唖然とし、人間とモンスターの乱戦がとまる。

 それは砂時計からこぼれる砂粒が数えられるほどの時間に過ぎなかったが、ベイズとヒエロニュムスには充分だった。

 私を抱えたリューイが飛び降り、魔狼がさらに加速する。

 そしてそのままモンスターどもの間を駆け抜けた。

 一瞬遅れて、ゴブリンたち首が飛び、血が噴き上がる。

 えー なにそれー

 ブ○ードライガーですかー

 どこにレイザーブレードついてるんですかー

 そもそもあんた狼っすよねー

 ライオンとトラの混血じゃないっすよねー

「ベイズ卿はやることが派手ですなぁ」

 チェシャ猫(にやにや)笑いを浮かべたヒエロニュムス。

 ひょいと右の前脚をふる。

 それだけで、いままで人間と戦っていたゴブリンが、矛を逆しまにして味方に襲いかかった。

 混乱する敵陣営。

 その(もや)を突いて、リューイが突進し縦横に剣を振るう。

「助けにきたぞ! いまこそ好機! 押し返せ!!」

 大声で叫びながら。

 絶望に彩られていた街の戦士たちの顔が、驚愕から歓喜へと変わる。

「うぉぉぉぉぉ!!」

 勇猛な雄叫び。

 気合いも新たに、猛然と攻めかかった。

 一気に勝敗は決した。

 ゴブリンたちはなすところもなく、一匹また一匹と葬られてゆく。

 全滅も時間の問題だろう。

 ただ、一匹残らず殺してしまうのはちょっとまずい。

 情報が手に入らなくなってしまうからだ。

 後を追いかけて本拠地まで案内してもらう、というプランはもう捨てざるをえないため、情報源を消してしまうのはよろしくない。

「あれがボスのようじゃの。生け捕りにしてくるか」

 横に立っていたティアマトがばさりと羽ばたく。

 いつも思うんだけど、こんなちっちゃい翼でよく飛べるなあ。

 航空力学とか、かるーく無視しちゃってるし。

 一直線に、やや体の大きなゴブリンに迫る。

 ホブゴブリンとか、ゴブリン酋長(チーフ)とか、そういうやつだろうか。

 音程の狂った叫びをあげて繰り出される小剣をやすやすと回避しながら、むんずと襟首を掴む。

 そして天高く放り投げた。

 もう、ぽーんという勢いで。

 もちろんゴブリンは、ティアマトみたいに空を飛べない。

 重力に引かれて落ちてくる。

 それを、柔らかく尻尾で受け止め、またぽーんと空へ飛ばす。

 あー

 これあれだ。

 マンガで見たことある。

 ヒグマが獲物を空中に放り投げるとか、そういうやつだ。

 抵抗の意志を完全に削ぐために。

 三、四回も飛ばされると、ゴブリンの親玉はぐったりした。

 まさか死んでないよね?

 で、ティアマトがそんなことして遊んでいるうちに、ゴブリンどもは全滅した。

 まあ、完全に全部殺したわけではないだろう。

 ボスがおもちゃのようにもてあそばれ始めたあたりから、ゴブリン軍団はすっかり腰が引けてしまい、敗走ムードだったから。

 何匹かは生き残ったかもしれない。

 ただ、数匹単位の集団ならば、街の人々にとってそう脅威となるようなものじゃない。自警団なり冒険者なりで充分に対応可能だと思う。

「片づいたようじゃの」

 目を回しているゴブリンのボスを、ずるずる引きずってティアマトが戻ってきた。

 ワイルドだなぁ。

「とりあえず、縛っておきますかね」

 抵抗されるとも思えないが、自由にしておくというのもいささかまずい。

 ロープワークの心得はないけど、とりあえずぐるぐる巻きにしておけば……と、そこまで考えて私は気がついた。

 ロバくんがいない!

 彼が私の荷物を全部持っているのに!

 そうだ。

 高速移動を始めるとき、ふつうに置き去りにしちゃったんだ。

「どーしよー……ティア……ロバいない……」

「大の男が泣きそうな顔をするでないわ。みっともない」

「だって……」

 荷物も財布も食料や水さえも、ロバくんがもっているんだよ。

 私もう生活物資のすべてを失っちゃったよ……。

「あやつなら、のんびりとこちらに向かっておる。一段落したゆえ、ベイズかヒエロニュムスに迎えに行ってもらえば、すぐに合流できるじゃろ」

「まじでっ!? 迷いロバとかになってない!?」

「エイジの倍ほどはしっかり者じゃでの。心配いらぬ」

 微妙な数字だ。

 私の二倍程度なら、けっこうダメな部類の気がする。




 視線を転じると、街の中から誰か走ってくるのが見えた。

 年配で痩せ型の男性。

 おそらくは町長とか村長とか、そういう立場の人だろう。

 リューイにしきりに頭を下げている。

 うん。たぶん彼がリーダーだと思ったんだね。

 判るよ!

 私だってそう思うもん!

 事情はリューイが説明してくれるだろうと見切りを付け、私はゴブリンの監視を続行する。

 あ、いちおう腰のショートソードは抜いてますよ。

 私が振るっても当たるとは思えないが、武器をちらつかせておけば無駄な抵抗をしないだろうから。

 街側にもかなりの怪我人がでたっぽく、ヒエロニュムスが回復魔法を使っている。

 ほんと、あいつ万能だなぁ。

 そうこうするうちに、リューイに連れられた町長さんがこちらにやってきた。

神仙(しんせん)さま。このたびは危機を救ってくださり、ありがとうございます」

 平伏する。

 片膝をつくタイプではなく、文字通りの平伏だ。

「お顔をお上げください。襲われている人がいれば助けるのは当然のこと。神仙とか人間とか関係ありませんよ」

 ショートソードを鞘に戻し、笑いかける。

 ゴブリンの監視はリューイにバトンタッチである。

 その横を、ベイズが歩み過ぎていった。

 ロバを迎えに行ってくれるらしい。

 頼んだぞ!

 彼には私の全財産を預けているんだ!

 などと考えながら、私は村長を起こしてやる。

 慌ただしく情報交換がなされた。

 彼の名はドリトス。ここウッズの町の町長である。

 といっても、規模としてはモステールの一割ほど。

 それって村じゃね? とも思うのだが、この世界では人口によって町とか村とか決められるわけではなく、自分たちで町だといえば町らしい。

 ただまあ、その程度の規模だから、当然のように駐留軍などいない。

 彼もまたこのあたりを領有する貴族によって任じられた代官である。

 この代官制度というのを語り出すと、もっのすごく長くなるからさすがに割愛するけど、だいたいは町や村の有力者が、そのまま任命されるらしい。

 だから代官と町長は、たいていそのまんまイコールになる。

 町にあるのは自警団。これに冒険者が加わったりもするが、正規の軍事教育とかを受けた者でもないし、専門家というわけでもない。

 戦力としては、同数のゴブリンと何とか渡り合えるかなってレベルだ。

 ウッズには自警団と冒険者を合計しても、わずか十六名しかいない。

 百匹近い群れに襲われたらひとたまりもないだろう。

 逃げるといっても、すでに襲撃を受けているのだから、もう逃げようもない。

 ドリトス氏も、もはやここまでと覚悟を定めていた。

 そこに私たちがやってきた、というのがここまでの状況である。

「エイジ卿。全員の治療が終わりましたぞ。幸いなこと、死神の腕に抱かれた者はおりませんでしたな」

 死者ゼロ。

 何よりの朗報である。

 けっこうひどい怪我をしている人もいたように見えたが、さすがはヒエロニュムスといったところか。

「それは良かった。あとはこいつを締めあげて、本拠地の場所を吐かせればOKだね」

「そうですな」

「じゃが、いささか疲れたのも事実じゃ。追跡は明日にしても良いのではないかの」

 ティアマトが言う。

 その意見には私も賛成だよ。

 せっかく町に立ち寄れたのだから、せめて今夜はベッドで寝たいよね。

 期待を込めてちらちらとドリトス氏を見る。

「そういうことでしたら、ぜひ我が町にご逗留ください」

 鷹揚な笑みがかえってきた。



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