表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/82

こわれゆく世界 2

挿絵(By みてみん)


 神は何もしない。

 人間がどれほど(おご)り高ぶったとしても、怒り狂って天罰を与えたりしない。

 人間がどれほど困窮(こんきゅう)し、たとえ滅亡の危機にあったとしても、手を差しのべることもない。

 ただ見ているだけ。

 無感動で無関心な観客のように。

 しかし、それは間違った考え方ではない。

 人類に危機が訪れるたびに、神なり超人なり光の戦士なりが降臨して助けてくれて、人々を良い方向に導いてゆく。

 冗談ではない、と、私は思う。

 少なくとも、そんなものは人間の歴史とはいわないだろう。

 超越者に助けられるだけの引き立て役(モブキャラ)

 それが人類の役割。

 そんなわけはない。

 これまで人類の危機は人類によって救われてきたし、今後もそうだろう。

 もし、万が一、どうしても人類の手に余る事態になったのならば、そのときは助けてくださいと頼む。

 どうかお慈悲をと額を地面にすりつける。

 もちろん相手方が、それで動いてくれるかどうかは別の問題だ。

「とはいえ、政府開発援助(ODA)みたいなものだと言われたらなぁ」

 ぼりぼりと私は頭を掻いた。

 目前に広がるのは、札幌駅前の光景ではない。

 どこまでも続く緑の草原と一本の道。

 ちょっと日本とは思えない景色だが、いかに祖国とはいえ、すべての情景を熟知しているわけでもないので、日本ではないと断定することはできない。

「いやまあ、ここが異世界なんだろうけどね」

 断定できなくても、疑う要素がないのも事実だ。

 あの美女──結局、神とは名乗らなかった──が、それ以外の場所に送り出す理由がない。

 私は、彼女の依頼を引き受けた。

 あっしには関わり合いのない話でござんす、と、断ることは簡単だった。

 いくら日本人がしでかしたことだからといって、私個人が責任を取るべき筋ではない。

 まして、呼び出したのは異世界の方であり、その結果について元の世界の責任を追及するのは、あまりにも理屈が通らないだろう。

 予測するべきだったのだ。

 鬱屈(うっくつ)した生活を送っている人間が、突如として巨大な力を持ち、他人の運命をも左右できる立場になったら、どのような行動を取り、どのような結末に至るか。

 取扱説明書(とりせつ)に記載されてる以外の使用をした場合、どんな家電製品も保証の対象外である。

 本来であれば、修理のために誰かが派遣されるのはおかしいのだが、クレーム処理みたいなものだという。

「馬鹿馬鹿しくなるけどね」

「その割には、悩んだ時間は短かったがの」

「まあね。じつはそこまで立派な理屈を考えていたわけでもないんだ。楽しそうだ、と、思ってしまった」

 安定した仕事。

 愛すべき恋人。

 大切な家族。

 不満があったわけではない。だが、心のどこかで憧れていた。

 今とは違う人生に。

「だから、ベクトルが違うだけで動機は同じなんだ。私もまた鬱屈していたということなんだろうね」

「難儀な生き様じゃの」

「まったくだよ。ところで」

 私は視線を動かし、先ほどから親しげに会話をしているモノを見つめた。

 青とも緑ともつかない鱗に覆われた身体。

 首が長く、頭には角があり、背中には申し訳程度に翼がついており、力強そうな尻尾がびったんびったんと地面を叩いている。

 ファンタジー世界の定番、ドラゴンだ。

 ただ、そんなにボリュームはない。

 せいぜい私と同じくらいの体長である。

「君はいったい、何者なんだい?」




「説明すると長くなるゆえ、かいつまんで言うと、エイジの相方じゃな」

「かいつまみ過ぎじゃないですかねぇっ!?」

 相方はちっこいドラゴン。

 なんぼなんでも説明不足である。

「ち」

「いま舌打ちしたなっ」

「ちなみに竜の舌打ちはタンギングといっての。ブレスを吐くときの火打ち石のような役割じゃ」

「ねえっ その説明必要だった!? 必要だったの!?」

「様式美じゃ。ともあれ、我はようするにインターフェイスじゃよ。汝らは情報を得たり整理したりするのに、相手と顔を合わせている方がやりやすかろう」

 大口を開けて笑う。

 びっしりと並んだ牙がちょっと怖い。

 つまり、この竜はこの世界に不慣れな私を案内し、補佐するための存在ということである。

 どうして人間の姿ではなく、竜なのかといえば、たぶんこれも様式美とかそういうものなのだろう。

 まあ、あの空間で会ったような妙齢の美女だと、私の方が困ってしまうのは事実だ。

 恋人というか婚約者のいる身で、美女と二人旅というのは色々とまずい。

 自分のことを肉食系だと思ったことなど一度もない私だが、人並み程度に性欲はある。

 どうやっても恋愛対象になりようのない相方の方が、なにかと問題は起きないはずだ。

 きっと。

「趣旨はだいたい理解したよ。君のことは何と呼べばいいのかな?」

「我に名前はない。好きなように呼んでかまわぬぞ。アヤノとか」

「自分の恋人の名前を付けるのはちょっと……」

「ならば、ジークとかでもかまわぬ」

「元ネタが判らないよ……私の名前はバンじゃないよ……」

「うむ。おおむね知っておるな。そもそも汝、生まれていたか?」

「じつは、どストライクだね」

 私の生まれは一九八六年。

 当時は中学生くらいだった。

 わりとどうでも良い話である。

「ちなみに君の性別は?」

「メスじゃな」

「ならティアマトにしようか。愛称はティアで」

 メソポタミア神話に登場する竜神の名である。

 女神だったというから、そう的はずれでもないだろう。

「適当じゃのう。オスだったらどうするつもりだったのやら」

「バハムートとか、そのへんで」

「エイジの知識は、神話というよりゲームが元になっているようじゃな。バハムートが竜として描かれるのは(ダンジョンズ)(ドラゴンズ)以降の話じゃぞ」

「博識だね。ティアは」

「おそらく必要だろうと推測される知識と、たぶん必要ないだろうと思われる無駄知識は、だいたいインストールされておるからの」

「なんで後者をいれたのか……」

「ウィットに富んだ会話のためじゃな。異世界ぼっちというのも寂しいじゃろうという配慮じゃ」

「格別のご高配(こうはい)、ありがとうございます」

 苦笑する。

 私自身、そうコミュニケーション能力が不足しているという自覚はないのだが、文化も風習もわからない異世界で、いきなり人の輪に飛び込んでいけるとか問われれば、首を横に振らざるを得ない。

 そもそも言葉だって通じるかどうか。

 心づいてティアマトに訊ねてみる。

「そこは問題なく通じる。言語等の本当に最低限のコミュニケーションツールは、エイジにもインストールされておるからの」

 返ってきたのは、じつに頼もしい答えだった。

 どうやら私も世界渡りとやらをするときに、いろいろといじられたらしい。

 これは、チート能力とかも授かっている可能性がある。

「ないぞ? エイジに特殊能力なんぞ」

「くっそっ 訊く前に否定されたっ」

「我の話をどこで聴いておったのじゃ。最低限のツールといったじゃろうが」

「……見事な追い打ち、ありがとうございます。ちょっとくらい夢を見たっていいじゃないか」

「にんげんじゃものな。てぃあを」

「ウィットに富みすぎじゃないですかねぇ」

 観客もいないのに漫才を繰り広げつつ、私とティアマトは街道を歩く。

 私に特別な力が与えられていないのは、この地の神を(おもんばか)ったためらしい。

 まあ、チート能力をもった日本人にさんざん掻き回された後では、多少は神経質(ナーバス)になるだろう。

 ずいぶんと人間くさい話ではあるが。

「地球の神話大系の神々も、けっこう人間くさいがの」

 そりゃそうだ。

 多くの場合、神というのは人間が作ったものである。

 そういうと語弊があるが、神というのは人間の想像力や信仰心が生み出した存在だ。

 ゆえに、人間の想像を超えるような姿をとることはないし、性格だって人間に近い。

「その意味では、私のあったカミサマはドライだったね」

「アレはべつに神ではないからの」

「そうなのかい?」

「もう少し現実的な存在じゃな。恒星間国家連盟(リーグ)監察官(インスペクター)じゃ」

「それのどこが現実的なのか問いたい。問いつめたい」

「問いつめるのはかまわぬが、詳細の解説には多少の時間を要するぞ?」

「多少ってどのくらいだよ?」

「エイジの頭脳で理解可能な用語に置き換えながら話せば、四年くらいかの」

「OK。ティア。ほぼ神ってことで」

「賢明な解釈じゃ。さて、無駄話に興じている間に目的地が見えてきたようじゃぞ」

 視線の先。

 けっこう威圧的な街門が見える。

 もちろん門だけでなく、ぐるりと街を囲っているであろう街壁も。

「アズール王国の王都、リシュアじゃ」

「大きな街だね。美味しいものはあるのかな?」

 旅行先で最初に期待するモノは料理。

 これは私に限った心理ではないだろう。

「エイジには珍しくもないかものしれんがのぅ。コメの飯がくえるじゃろう」

 苦笑するように言うドラゴン。

「コメがあるんだね」

「ある。それも銀シャリじゃ」

「銀シャリて……」

 ティアマトの古くさい言い回しに笑いそうになった私だが、その笑いが半ばで凍り付いた。

 白米のみを炊いたご飯のことである。

 それの何がおかしいのかと現代人ならば考えるだろうが、それはまさに現代人だからだ。

 昭和の初期までは普通に玄米を食べていたのである。

 なんで中世ファンタジー世界に白米があるのだ。

「エイジや。もう一度いっておくぞ。ここは汝ら日本人が、わや(・・)にしてしまった世界じゃ」



 


参考資料


テレビアニメ 『ゾイド -ZOIDS-』

放送局 TBS系列

放送時期 1999.9~2000.12

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ