夜の蛍
瞳ちゃんを迎えに行くといつもとは違う雰囲気の彼女が立っていた。
といっても制服姿の彼女しか知らなかったが。
雑誌では清楚なイメージの服装が多かったせいもある。
しかし今日はセシルのローライズジーンズにボーダーカットソーとリップのキャップ。
キャップとジーンスにはキラキラの刺繍がしてあった。
ジーンズとサンダルの隙間からはハート型のアンクレットが光っている。
ロータリーにバイクを止め、しばらくその場でタバコに火を付け、瞳ちゃんを眺めていた。
コンビニの前で携帯を見つめる瞳ちゃんがやけに輝いて見えた。
コンビニの光が当たっていたからなのか。
いやきっと今の俺があまりにも黒いせいなのかもしれない。
くすんでいる世界がそこだけ色鮮やかになっているように見えた。
世の中の不幸を全て背負ってる気がしていた自分がバカらしくなった。
自嘲気味に笑った後タバコを投げ捨て、コンビニの前までバイクを動かした。
「ゴメン、待った?おぉ、どっかのモデルさんみたいだな」
「ははっ、ありがと。でも一応モデルさんなんですけど」
そう言うと腰に手を当て撮影用のポーズをとっておどけた。
俺は構わず半ボウのメットをかぶせる。
しかしさすがはモデル。
頭が小さすぎてキャップの上からメットをしてるのにメットがちょっとずり落ちる。
キメポーズのまま、ずれたメットをかぶっている姿が可笑しかった。
「もう、忍君は女の子に興味ないわけ?それともこの格好あんまり似合ってないのかな。ん〜、普段の私だったらイチコロのはずなんですけど」
「はいはい、普段はピッコロなのね。口からタマゴとか出すなよ?」
「誰もピッコロ言ってないし。もう、意味わかんないし。紫の血とか出ないし。腕は若干伸びるけど」
「伸びるんかい。まぁ早く乗れよ、ダルシム」
「誰がダルシムやね〜ん。燃やしちゃうゾ」
そう言いながら元気に飛び乗ってきた。
そして細い腕で俺の腰にしっかりと捕まった。
その時俺は女を乗せて走るのが初めてなのに気が付いた。
いつもは馨や貞二の後ろに乗ってる事が多いし、たまに俺が運転しても後ろに乗せるのは男ばっかりだったから大抵バイクのどこかを掴んでいる。
こんな風に密着されてちょっとドキドキした。
「バイク乗るの初めてだからちょっと怖いな」
「そっか。しっかり掴まってれば大丈夫だよ」
さっきよりも強めに掴まれてさらにドキドキした。
そしていつもよりややゆっくりなスピードで渋谷へ向かった。