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掌編小説集8 (351話~400話)

変貌

作者: 蹴沢缶九郎

あるマンションの一室で、その部屋の住人である男の遺体が発見された。遺体には事件に巻き込まれた形跡はなく、また、生前の男の様子から、病死の可能性も低かった。


現場検証を行っている鑑識を、ベテランの刑事が見つめている。そこへ、聞き込み捜査から戻った部下が報告した。


「近隣住人の話によると、男を最後に見掛けたのが約一ヶ月前、男に特に変わった様子はなく、性格に難があった訳でも、誰かに恨みを買うような男でもなかったと…」


「そうか…」


報告を聞き終えた刑事は、鑑識に尋ねた。


「どうですか? 何かわかりましたか?」


「今の段階では断定は出来ませんが、やはり自殺の線が濃厚ですね。…いや、正しくは自殺とも違う…」


「と、言いますと…」


含みを持たせる鑑識の言葉に、刑事は先を促す。


「亡くなり方が不自然なんです。死因は恐らく餓死…」


「餓死…ですか?」


「はい、ですが、冷蔵庫の中身は手付かずでそのまま。食べようと思えばいつでも食べられたはず、しかし男は一切食料を口にせず、亡くなった…」


鑑識の説明に全く要領を得ない刑事は、黙って聞き続ける。


「男がもし、食料を食べなかったのではなく、食べられなかったのだとしたら…」


「食べられなかった?」


「部屋からは検出されなかったんですよ、この部屋の住人である男の指紋が…。部屋のドアノブからも、冷蔵庫の扉からも、どこからも…」


「すいません、もう少し簡潔に話してもらっていいですか…」


「つまりですよ、これは完全な私の推測ですが、異常と言える程の潔癖症であった男は部屋のドアノブに触れる事も、冷蔵庫を開ける事も出来ずに餓死した…」


「そんな馬鹿な!? 大体、男は一ヶ月前まで普通に生活を送っていたんですよ!? 急に何で…」


鑑識は刑事を(なだ)めるように言う。


「さあね、そこまでは私にもわかりません。ただ、今の世の中、何が起こっても不思議ではありませんから…」


鑑識の言葉に刑事は何かを考えた後、部下に命じた。


「…おい、今の話を聞いていたろ。とりあえず、本部に連絡だ」


「…あ、はい、僕も連絡はしたいのですが、…その、何だか自分のスマートフォンが汚く思えてしまって…。上着の胸ポケットに入っているので、取ってもらっていいですか?」

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