地球がエイリアンたちの襲撃を受けたのは十年程前だった。エイリアンたちはあっという間に人類の作り出した構造物の九十パーセント、ニューヨークも香港も東京も、破壊した。ただしどういうわけか地上十メートル以下の構造物は残して……。その兵器は人類未踏の技術を使っていたが、宇宙からの襲撃者たちは地上にはまるで攻撃を加えなかった。地上に生活する人類にダメージを与えたのは、だから自分たちの作った構造物の残骸が降り注いでくることによってだった。
現在では、何らかの、おそらくはエイリアンたちの生態的な理由により、彼らは地表面にはまるで興味がなかったとされている。そこは、いわばエイリアンたちの視野の外だったのだ。人類は、地上にへばりついて生きることが許された。
ばらばらに寸断された人類のコロニーの一つ、新鎌倉は低く構えた格好の要塞と化していた。地上に見える部分は氷山の一角で、地下には蟻の巣のように張り巡らされたシェルターがあった。このコロニーでは、人々の組織水準は首長制国家クラスまで退行していた。
さて、地下の穴蔵から、一組の男女が顔を出した。男の方は真四角のいかめしい顔に広い肩幅をもち、女は華奢な顎をしていたが逞しい体つきをしている。二人とも質素な麻の織物をまとっていた。
二人は双眼鏡をその背嚢から出し、太陽を軸に右三十度の角度、地上から五十メートル付近を覗き見た。
「奴らだ。乱舞してるな」
男が言う。
「五、六……全部で十か。いつもああして、日の入り前になるとあの場所で乱舞を始める。一体何を考えているのか?」
と女。彼らの目には、天然水晶のいびつな結晶を思わせる形をした赤い飛行物体群が映っていた。
「奴らが何を考えているのか、我らを攻撃する意図があるのかないのか。それを全力で考えるのが俺たちまともに生活できる大人に与えられた使命だ」
彼らはどちらも十一歳のときに襲撃を経験していた。男の方はその時家族を失い、女の家族も襲撃以前なら簡単に治せた病気で死んでいた。彼らに失うものは何もなかった。
「だが、私たちは、あいつらがどんな技術を使って空を飛んでいるのかそのことさえも知らない。そんな奴らの考えることなんて、本当に分かるのか?」
「確かに。そんな奴らの行動が本当に予想できるようになるのか疑問もある。だが、上層部は多くのデータを集めることによって、統計的に彼らの行動が予想できるようになると考えている」
「天気予報じゃあるまいし……。最もあれもあまりあてにならなかったが…。それに奴らの行動原理なら地上十メートル以下の物体には攻撃を加えてこなかったじゃないか。十メートル以上の物体なら木だって破壊されてる」
「確かに。昔見たいに人間が十メートル以上の場所に生活圏を広げなければ大丈夫なのかもしれない。だが……」
「だが、奴らがいつ気まぐれを起こすかもしれない? だからデータからパターンを読み解ければいつ気まぐれでここが破壊されても、逃げ延びることが出来るかもしれない、と?」
それは彼らがリーダーと仰いでいる人物の言うことだった。よく考えれば矛盾しているのだが、誰も指摘できない。本当は、あんなエイリアンのすることなんて誰にも分からないんじゃないか、と。
エイリアンたちは一つの場所に止まり回転するものや、幾何学的な軌線を描いて飛び回るもの、滑らかに舞うものなど様々がいた。二人はその光景を、エイリアンたちがより高みに去るまで眺めて、後で報告書に正確に書き起こさねばならなかった。
なぜ、今我らにこんな苦しみが与えられているのか。それは何度となく彼らが問うた問いだろう。しかし、その問いには誰も口にしない答えがあった。
「お前たちは、自分たちが気づかぬ間に多くの生物を殺している。お前たちが歩き回るだけで、その足の下に踏まれた小さな生き物たちが死んでいる。あるいは火を使うとき、目に見えないいくつもの生物が焼け死んでいる。お前たちも気まぐれに多くの命を奪っている」 |