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冬の惑星
作:松尾大生



オロロン鳥と呼ばれた少女


それから夏がきて、秋と冬が通り過ていった。


俺は将来の進路を決められないまま、大学にはろくに行かず、アドバルーンの見張りばかりやりながら、四年生の春を迎えた。


四月、残雪の残る高校のグラウンドを横目に、昼飯を食うため、学園生協の建物に入った。


ロビーでは、学食の入り口あたりに、紺のブレザーを着た女子高生が五、六人、不安気に佇んでいた。


俺は女子高生の制服姿にギョッとした。
周囲の男子学生にじろじろと観察されて、それらの視線に戸惑っているようでもあった。


女子高生の中に、背の高い少女を見つけて、俺は声をかけた。


「ずいぶん、おがったなァ」


「お兄さん!」


少女は俺を忘れてはいないようであった。


小走りに歩み寄ってきて、笑顔を見せた。


彼女は、たった一年間で、すっかり子供から美しい娘に変貌を遂げていた。


「爺ちゃんにタコと魚ばかり食べさせられたからね」


「何センチ?」


「百六十五センチ」

といった後、


「足すことの三センチ」


ペロリと舌を出して照れくさそうに俯いて、


「それが去年の暮れの身長で、今年に入ってから、またニセンチ伸びちゃった」

といって嬉しそうに俺を見上げた。


紺のブレザーに可愛いらしい赤いリボンのネクタイがよく似合っていた。

グレーのチェックスカートから伸びている足が、細く長く、可憐であった。


髪の毛の色を黒く染めているようであった。

それをポニーテールに結び、前髪を、濃く長い形のいい眉毛にかかるあたりまでの垂らしていた。


おれの視線に気づいて、髪に片手をあてたがい、


「入学早々、髪の毛を染めているクラスメートの男子が体育の先生に呼び出されて、バリカンで丸坊主にされたの。


私も坊主にされるかと不安になっちゅった。


ヘアカラー買ってきて、寮のお風呂で染めたのよ」


「髪、痛めるぞ」


それには答えず、彼女は振り向くと、仲間の女子高生を呼び寄せた。



「みんなで食券売り場にいったら、割引はきかないっていわれたのよ。お兄さん嘘つきね」


「高校生は校内の購買で券かわないと、安くならないんだよ」

おれは女子高生の集団を引き連れて、学食に入った。


食券売り場のおばさんに組合員証を見せた。


「全部おれが食べるから、この子達に安く食券うってあげてよ」


おばさんは苦笑いして、注文を聞いて、一人一人に食券を渡していた。


みんなで席について、食事を始めた。

少女達の雰囲気と笑い声が、男子学生ばかりのホールの中で、そこだけ、異質な華やぎを形成していた。


天売の少女は、みんなから、


「オンちゃん」


と呼ばれていた


地元出身の生徒達に対抗して、天売島やオロロン鳥の自慢話ばかりするので、最初、


「オロリン」


と呼ばれていて、それがいつの間にかオンと省略され、オンちゃんになったらしかった。


オンちゃんは、ザンギ定食を食べていた。


「ここの名物なの」

と知ったかぶりを言って、


「一番やすくて美味しいの」


と言って俺に意味ありげにウイングしてみせてから、


「今日はみんなで、学食にデビューというわけさ」


「友達ができてよかったな」


それから俺は、少女達から質問ぜめにあった。


なぜこの学園はこんなに敷地が狭いのにいくつも学校があるのか、どうして顔が野蛮なのに体格だけはいい生徒や学生が多いのか、お兄さんは彼女がいるのか、ディスコには行ったことはあるか、本当は結婚しているのではないか、なんで数少ない大学の女子学生まで男の子みたいな服装をしているのか…。


おれは食事を終えると、講義の準備があるからと言って、


「ごゆっくり」


と彼女達に手をふって学食を後にした。



講義を終えて一号館の学生ロビーで掲示板をしばらく確認してから校舎をでると、外は小雨が降りはじめていた。


わだつみ像の前で、立ち尽くしている少女がいた。傘をささずに雨に濡れていた。


「オンちゃん」


ブロンズ像を見上げている少女が黙ってこちらを向いた。濡れた前髪が額にはりついついる。


「人間の本来あるべき姿って、何なのかしら」


おれも去年の校長の言葉を思い出していた。



「若者の本来あるべき姿」を「人間の本来あるべき姿」と置きかえて言っているのが印象的であった。


「その言葉、よく覚えていたな」

「うちの爺ちゃんも、戦争で死んだの」

「天売の爺ちゃんは、父方? 母方?」
「血は繋がっていないわ。天売の爺ちゃんは、戦争で死んだ本当の爺ちゃんの戦友よ。

あたし、小学生の頃、天売島の爺ちゃんにもらわれたの」


「天売島の出身じゃないんだ」


「生まれは平取(びらとり)


「通ったことあるような無いような…。名所か何かあったかな?」


すると彼女は、胸を張って、毅然とした口調で挑むように言った。


「二風谷があります」


「にぶだに?」


そんなことも知らないのかと呆れた表情に変わり、


「誇り高い土地なのよ」


「ごめん、さっぱり分からん」


オンちゃんは拍子抜けしたように肩を落として、


「お馬鹿さん」


と微笑んだ。


「寮に帰らなくっちゃ」


雨の中、商業高校の方向へと、足早に去ていった。














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