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冬の惑星
作:松尾大生



廃屋にて


北一条通りに出て、西野二股を右に進んでしばらく走ると、周囲はもう山の中であった

山の中の緩やかな斜面にできた住宅地をさらに上ると、平和霊園があり、その奥に平和湖がある。
平和湖に降りていく小さな崖ぎりぎりの場所にその木造の木肌をむき出しにしたオンボロ小屋は建っていた。

昔は旨い羊肉を食わす店として、場所柄の奇抜さもあり、繁盛していたジンギスカン屋であった。春から秋にかけては、平和湖にボートを浮かばせて、時間あたりいくらで金をとっていた時期もあった。

経営者の高齢化の為、俺が高校三年生の頃、商売をやめて、「札幌気球有限会社」に工場兼事務所として、貸し出したのである。



除雪車が轟音を響かせながら平和霊園の通路をこちらにむかってゆっくりと近づいてきた。

大量の雪を、粉砕し、太く長い鉄の筒から、猛烈な勢いで空中に吹き出していた。


除雪車の黄色いライトの強い光をうけて、雪の粉は逆流する滝のように闇の中へと飛散して消えていきつつあった。俺が車から降りて、腕を大きく振ると、除雪者はカローラの向こうで停車した。

「精が出るな」

運転手にジョージアを二本手渡しながら、       

「寒い季節だな」

ジョージアをぐいぐいと飲み干す運転手の上下に動く脂ぎった喉仏ごしに狐顔の若い助手が顔を出し、コーヒーの礼を言いつつ、     
「汗かく季節よ」
と皮肉まじりにいって首をすくめた。

「免許とれ。夜中に誘導ばっかりやって走り回っていたら、体がもたんべや」

「百年はやい」


中年の運転手はジョージアを飲み干し、空き缶を助手に手渡しながら、豪快に笑った。


よろしく頼むと頭を下げると、俺は健太を抱き上げて、オンボロ小屋へと引き返した。

「平和湖畔荘」

と赤いペンキで平屋の屋根に載せられた大きな看板は、ところどころ雪をかぶり、ペンキも剥げて、斜めに傾いていた。


小屋の中は、板張りの広間と、一段高い位置に八畳間の座敷が一室、それだけの造りであった。


明かりをつけて、板張りの広間の真ん中に置かれた昔風の大きな丸い石油ストーブに電源を入れて元栓をひねった。


点火しないので、いつものように舌打ちしながら、足元に落ちていた新聞紙をちぎり、ライターで火をつけて、ストーブの蓋を開けて炎を放り投げた。


奥の壁一面には、何十個もの中古品のカラーボックスが天井近くまで積み上げられていた。

そこに汚く畳んだアドバルーンや、ロープや網や道具類が、雑然と押し込められていた。

そのすぐ手前には、これも中古の事務用机が縦に六つ並べられており、その上にコンパネを敷き詰めた細長い作業台ができていた。

作業台の上には、作りかけのアドバルーンの看板が広げられていた。

細長い網の両端と真ん中に、一メートル弱の竹の棒を通して、網にビニールテープでシートの文字を貼っていく。

作業台の上の看板には、

「新装オープン」

とだけ赤い文字が張られ、その後の文句がまだなかった。


座敷に視線を移すと健太が敷きっぱなしの布団に座り、ダンボールから取り出したカップラーメンの包装紙を器用に剥がしていた。


俺は、広間の台所で薬缶に水を汲んでストーブの上にのせた。


「待ってれ」


おれは積み上げられたヘリウムガスのボンベの上に腰を落とした。


気がついて靴を脱いで座敷にあがると、円形の大きなハロゲンヒーターのスイッチをいれて、健太の防寒着を脱がした。

おれもヒーターにあたりながら、ジャンパーを脱いだ。


「寒いか」


健太の肩を抱き寄せた。健太は首を横にふった。

そうして包装をむいたカップラーメンの蓋を半分開けて、小さな冷蔵庫から、生卵と納豆のパックを二つずつ取り出して、布団の横の卓袱台の上に置いた。


おれも、ダンボールからカップラーメンを取り出して、包装を剥がして、蓋を半分あけて健太のカップの横にならべた。



除雪車の音が遠ざかりつつあった。

平和霊園は少し大きめの小学校のグラウンドほどの敷地の中に何百かの墓が建立されていた。

けして大きな墓園ではなかった。外苑を一周して、帰途についたのであろう。間もなく除雪車の音は完全に消えた。
















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