私…太陽が嫌いなんです…
‘環 ゆうな’は、星屑高等学校に通う18才の女の子。
普通の子と違うのは、明るい所を執拗に嫌い、ゴシック様式を愛し、真っ黒なフリフリのロリータ服に貪欲ということ。
「ゆうなー
早く起きないと、学校に遅れるわよー」
ママは、そう言いながら私の部屋に勝手に入り、黒い所々にレースが施されたカーテンを勢いよく開けた。
「ま……眩しッ…」
私は、朝が嫌いだ。
殺人的な日の光。
眼が開けられない…。
「眩しい…って、吸血鬼じゃないんだから」
ママは、笑いながら早くしなさいよとだけ言って、部屋を出ていった。
私が嫌いなのは、日光に限らず、蛍光灯や、車や自転車のライト、派手なお店の看板…など、脳が眩しいと感じたもの全てが嫌なのだ。
だから、私の部屋は常に真夜中。
明かりが欲しい時は、キャンドルをともす。
でも、決して引きこもりというわけではありません。
だって、これでも学校にはきちんと通っているのよ。
留年したくないし。
ゆうなは、眼を擦りながらベッドから起き上がった。
制服に着替え、ミルクティー色の髪を縦に巻き、黒い薔薇のヘアゴムで二つに結ぶ。
「よし…これでいっか」
ゆうなは、小さく呟いて、真っ赤な薔薇のコサージュを付けた鞄を持ち玄関へと向かった。
「ゆうな、朝ご飯食べないの?せっかく作ったのに…」
ママが、ちょっと機嫌悪そうに言った。
「要らない」
朝は必要以上に機嫌が悪いせいか、私はぶっきらぼうに返した。
玄関の扉を開けると、これでもかと日の光が突き刺さる。
「う゛っ…
と……溶けるっ…」
急いで日傘を差すと、少し気持ちが落ち着いた。
学校へ着き、教室へ入った途端、急に空腹に襲われた。
「お腹空いたぁ…」
朝食をとらなかった事を後悔しながら、ゆうなは鞄からマシュマロが入っている袋を取り出した。
「ゆうなー!!おはよー!」
「…おはよう玲ちゃん、…朝から元気だね…」
「ゆうなは相変わらず暗いね」
笑いながら、そう返すのは、私のたった一人の友人。
‘水無月 玲’である。
「だって、眩しいんだもん」
「またぁ?いい加減慣れなさいよ」
玲は、ゆうなが手に抱えていたマシュマロの袋に手を伸ばしながら言った。
良い天気の朝の二人の会話は、いつもこんな感じで始まる。
ゆうなの機嫌が良い日は、雨が降りそうで降らない、どんよりとした曇りの日。
雨は、嫌い。
だって髪型が崩れるし、濡れるし、良い事なんか一つも無い。
太陽がサンサンと降り注ぐ晴れた日は、もっと嫌いだけど。
−
「ねぇ…、玲ちゃん。
考えたんだけどさ、学校もゴシック様式で、全体的に暗くて、
制服も真っ黒なロリータ服になれば、毎日学校へ行くのが楽しくなると思わない?」
休み時間、ゆうなは突然私にそう言ってきた。
「…どうした急に…
っていうか、学校が真っ暗じゃ、授業できないでしょ」
「いやいや、教室にはキャンドルを置くんだよ」
ちょっと半笑いに答えるゆうなに、少しムカついた。……少しね。
「いつ決めたんだよ
そんな自分ルール」
私は小さい声で、反論した。
「あぁ…、私、ゆうなについていけないかも…」
何気なく言った玲の言葉をゆうなは聞き逃さなかった。
「えー、ついてきてよー」
え…私、声に出してた?
「オイ、独り言を盗み聞きするなよ」
「いやぁ、普通に聞こえるから。
その前に、私の事を理解してくれているのは、玲ちゃんだけなんだからついてきて貰わないと困る…」
「…理解してねぇよ
っていうか、ついていかねぇよ」
ついつい、毒を吐く。
「…れ…玲ちゃんが、毒舌キャラに…」
ゆうなは、オーバーに反応し、私が毒を吐くのを楽しんでいた。
……お前…Mか?
−午後−
外は、どんよりとした黒い雲に覆われていた。
今にも、雨が降り出しそう。
その時、校内放送が流れた。
「台風が接近しているもようです。
担任の先生方は、授業を中断して下さい。
生徒達は、速やかに帰りの支度をして、寄り道をせず、自宅へ帰りましょう。」
…台風が近付いてるって言うのに、寄り道なんかしないだろ
心の中で、毒づいた。
その時、他の誰よりも、明らかにテンションの高い奴が私の所へやって来た。
「玲ちゃん!一緒に帰りましょ♪」
ゆうなだ……
「ゆうなってさ、本当わかりやすい性格してるよね」
「何が?」
お前に、自覚症状はないのか!
「いや何が…って、天気悪くなった途端元気になりやがって」
「それは、闇に生きる少女としては、当然の事ですよ!玲ちゃん」
「あーそうですかー」
ゆうなの話を聞いてると、なんか頭オカシクなりそ…
……もう、手遅れか?
下校中、ゆうなは始終笑顔だった。
「じゃあ、玲ちゃん
また、明日ね」
−あ…もう、ゆうなん家の前か…
「じゃあね、ゆうな」
ゆうなと別れた後、凄く、不思議な気持ちになった。
まだ、ゆうなと一緒に居なくちゃいけないような……
まぁ、明日も学校で会えるし…
そう、心の中で思っていても、やっぱりまだ、しっくり来ない感じだった。
−うーん…何だろ…
−翌日−
私はいつものように、学校へ行き、教室へ入り、席へ着く。
でも、なんか何時もと違う。
学校全体が騒がしい。
何かあったのかな…?
その原因を知るまでに、そう時間はかからなかった。
−ゆうなが自殺したのだ。
担任の話によると、昨夜、家を出たっきり帰ってこなかったそうだ。
両親は心配になって、警察に捜索願を出し、家で娘が帰ってくるのを祈ってたみたいだけど。
…祈ってないで、娘捜せよ。
って、そんなこと思ってるのって私だけだよな…
全校集会が行われ、授業は中止。一斉下校になったのだ。
全生徒が暗い顔をしていたが、私は、とても爽快な気分だった。
友達が死んだのに…ね。
別にゆうなの事が嫌いって訳じゃないのよ。
好きだった…。
大好きだったよ…。
殺したいほど。
だから、私が昨日ゆうなと別れた後に、
やっぱり、ゆうなの家まで引き返して彼女を呼び出し、大好きなロリータのお洋服が売っているビルの屋上まで連れていって、
ゆうなが夜景に見とれている姿を目に焼き付けながら私は彼女の背中を軽く押した…って事は内緒にしておきましょう。
ゆうなは叫ぶ事もせず、暗闇の街に静かに堕ちていった。
後悔なんかしてない。
彼女は、私の中で生き続けるから。
ゆうなは、もう私のものだから。
誰にも渡さない。
警察が自殺だと、確信したのは、彼女の部屋の引き出しから遺書が見つかったかららしい。
まぁ、私は、遺書に何が書いてあったなんて興味無いけど。
警察も殺人だとは、今の所考えてないみたいだし。
男でも女でも、人を好きになりすぎるのは良くない。
独占欲が増し、ストーカー体質になり、やがて自分だけのものにしたくなる。
純粋な気持ちが、度を越えると大変な事になる。
私は、ゆうなに対して、そういう感情を抱いていた。
もう、一目に触れさせたくない。
自分だけを見てほしい。
…だから殺した。
私はもう、人を好きになる事は無いだろう。
同じ事を繰り返したくない。
「ゆうな…、私だけのゆうな……これからは、ずっと一緒だよ。」
自分の胸に手を置き、小さな声で呟いた。
瞳から、微かに涙が零れ出た。
嬉しい筈なのに、なんでだろう…
私は間違って無いよね…
貴女もそう思うでしょ…?
−終−
−遺書−
闇に生きたい。
眩しい所は、もう嫌。
ごめんね、ママ、パパ
私の、大好きな玲ちゃん
バイバイ |