唄、恋を詠う歌の詩。
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恋を謳う。
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声優やスィンガーソングライターほどの規模ではないにしろ、一応審査を受け認めてもらったギターリストなのだ、僕は。
「こんにちはー」
――来た。
振り向く。少し機械的なのは、緊張いるから以外に他ならない。
今回の主役、ボーカル担当の女性声優。給料は比べられない。なんたってあっちはゲームやアニメにも出ているし。
今日、僕がいるこのスタジオに訪れた理由もそのひとつ。
deroro軍曹名乗る人が社長を務めるブランド『CIRCLE』の作品に出演する女性声優陣のキャラソン録音――僕はそれに借り出された、いわば舞台裏の存在。
劇でいう、照明係。
曲の説明で表記されない存在。
当たり前だ。作詞、作曲にも手を出してないのだから。僕は楽譜を渡され、ただそれを弾くだけのちっぽけな存在。
……いや、だから、声優やスィンガーソングライターほどの規模ではないにしろ、一応審査を受け認めてもらったギターリストなのだ、僕は。
っと、いけないいけない。挨拶返さなくちゃ。態度の自由があるほどに、僕の地位は崖に遠くない。
雰囲気を悪くしたり、居心地の悪さを与えてしまったりしたら、僕の首は瞬く間に飛んでいってしまう。
……いや、だから、声優やスィンガーソングライターほどの規模ではないにしろ、一応審査を受け認めてもらったギターリストな――。
「あれ? ……もしかして、冬野くん?」
………………
…………
……
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恋を謳う。
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は〜ぁるはあ〜け〜ぼ〜の〜よぉ〜うよう白く
なり行くやまぎはチャッラララ・ラ・チャラ・ラ♪
「でもすっごい偶然♪ まさか、中学時代の同級生と、こんなところで再会するなんて♪」
「それは僕が言うことだよ――南條さんが声優になってるなんて、思いもしなかった」
カラオケ室は、満員というほどに満たされているわけではない。
僕の意識が向くのは、ただ一人の女性。
ジュースを飲むために離した視線を、戻す。
俺の隣で、オレンジジュースの注がれた透明コップを揺らし氷のぶつかり合う音を楽しんでいる女の子――南條奏。
六年……八年以上前に、ちょっと話したくらいの知人程度だった南條さん。
「中学のときから、夢だったの?」
「ん――どう、だったかな。歌う人にはなりたかったよ?」
じゃあ、なんで声優なんだろう。
歌手よりも席が少ないのは、わかっているだろうに。
いや……南條さんって、人前が苦手だったかも。
歌手はある程度人気になるとライブコンサート、なんてのもあっちゃうわけだし、それが嫌だったのかも。
声優は録音形式だから、歌手よりも人前に出る回数は少ない。きっとそれが、南条さんの心を引き寄せたんだな。
「冬野くん――木冬柊くんは、どうしてバンド組んだりしてないの?」
「あー……懐かしい」
中学時代、売れっ子になったらこういうネームにするぞーって俺は叫んでいた。それが、木冬柊……発音が少し難しいな、このネーム。
懐かしい。本当に、懐かしい。
「南條がおぼえてくれてるなんて、意外だな」
「そんなことないんだけどね。だって、三年間ずっと同じクラスだったし――冬野くんが最終下校時間後に音楽室で練習してる姿、何十回も見つけてたし」
全然気づかなかった。
そう……僕は、あの頃もギターをやっていた。
そして、今も――心は、大分違うけれど。
「あの頃は、冬野くんって作詞作曲もやってたでしょ? 今の役所じゃ、そんなのできる感じじゃないし――南條奏はちょっとだけ疑問に思ったのです」
「語り口調だね――毎週更新のラジオ?」
「ぴんぽーん、大正解です」
さすが大人気の売れっ子声優その4くらい。
僕とは格が違う。
「でも……ほんと、意外だな」
努力に努力を重ねていた自分の、辿り着けなかった高み。
南條が光輝いて見えた。
「そうでもないよ」
南條は、柔らかい微笑みを携えてキッパリと言い切った。
その根拠はわからない。追求しようかと思い、迷って、止めた。
別の話題で話し始めたとき、僕はもうそのことを、脳裏に掠めることさえなかった。
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恋を謳う。
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一ヶ月も経たない内に、南條と再会した。
偶然も二度続けば、運命の糸を匂わせてくれる。
収録が終わったらしく、「お疲れ様でしたー」の声が飛び交う。
同じパーソナリティの女性声優二人を左右につれた南條が、俺に気づいた。
軽く会釈。そのまま近づく。
話しかける相手は――違うけれど。
俺は南條の隣にいる女性声優へと、声をかけた。
「今日はよろしくおねがいします」
「あー……録音の?」
頷く。
雛ひな準々、なんていうネームで活動しているこの女性声優は、僕よりちょっとだけ背が高い。
さっきまでの収録がラジオだったらしく、全部を聞いてはいないので勘違いもあるかもしれないが、ひなさんは酒好きらしい。
……あと、可愛い男の子とかも、好きらしい。
大学時に、自作アニメを製作して自らが主人公の『可愛い男の子』を演じたひなさんは、『リムズ』より『ドランゴ』に移籍した人で、ゴスペルが上手いらしく、ピアノが弾けるらしい。
僕もピアノは、弾けないこともない。
だけど、なんていうか――クラシックを弾くことに意味を見出せなくなって止めたというかなんというか。
音楽でみんなに喜んでほしい、なんてキザな夢を持ってたりもしたわけで……みんなが何の曲かわからずキョトンと反応に困ってる様子は、結構キツかったおぼえがある。
「うん、よろしく……あやちゃんの、白馬の王子様?」
「な――」
なんてことを言うんだ。
あやちゃんってのは、南條の別ネーム。たち……たちなんとか、あや、だったと思う。
「お二人で良い雰囲気創ってるときに歌いまくってたんですけどね〜?」
……知らなかった。
あのときは南條のことで頭いっぱいだったし、そういえば一曲も歌ってなかったな。
「ほら、きーこも挨拶しなよ♪」
南條のもう隣を占める女性声優へと、顔を向ける。
きぃみ日登美――そういえば前のときにも会ったような会ってないような。
「はじめまして、南條がいつもお世話になってます」
言葉とともに礼。
それから、この言葉っておかしくね? と気づき顔をあげる。
案の定、きぃみさんはクスクスと笑っていて――失敗したと気づき、頬に熱さが籠もってしまう。
それでハッと気づいた。しっかりと腕時計の時間を確認して、ひなさんへ顔を向ける。
それだけで察してもらえたようで、ひなさんがもう半歩ほど僕へと近づいてくれた。
録音開始まであと数分――スイッチが切り替わる。
ギターを取ろうと身を翻したとき、そしてその後も、僕は南條と一言も話していないことに気づかなかった。
ひなさんがどうにか言って二人を退出させたんだろうと考えはしたけれど……南條のことを思い浮かべることは、なかった。
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恋を謳う
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ひなさんの歌唱力は凄いなぁ。
ボワンボワンとした余韻みたいなものが、まだ頭の中に響いている気がする。
階段を下りる。まだそんなに暗くないというのに点いている街灯。その下を過ぎ、車のガソリン音がBGMな街道へと入る。
「……っと」
ギターが肩からズレ落ちそうになった。
思わず立ち止まって、よっこらせと抱えなおす。
「――」
ガラス向こうの人と、目が合った。
意外な人物が、スプーン片手に目を瞬かせる。
………………
…………
……
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恋を謳う
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「へぇ……きぃみさんって、スクールから直なんですか」
「ええ。だから、ひなちゃんとあやちゃんとは全然面識なかったですよ?」
三人娘、と呼ばれるほどに仲良くなった三人のこれまでは、俺とは違って刺激たっぷりどきどきたっぷりなもののようだ。
僕は、地味にがんばってここまで這い上がってきたわけだし――他人に語れるようなものじゃない。
醜い、なんて喩えがちょうどいいくらい醜い足掻きで、他のブランドに派遣されるギターリストになった。
願望実現の後も美しくなんかない。今の地位をなくさぬよう、ほんとうに醜く生きている。
そんな僕には、やっぱりきぃみさんの生き様は輝いて見えた。
「それで――冬野さんはあやちゃんとどんな関係なんです?」
「え? 別に、どうというわけでも」
まだメール交換を始めていないほどの仲――悪いといえば悪いのかもな。
中学生時代は眩しいだけで、僕にとってそんなに重いものではない。
だから、再会したそのときははしゃいで喜んじゃったけど、今思えば、本当にどうというわけではない。
「お待たせしました」
顔を上げる。思考を止める。
コトンと俺の前に置かれる、コーヒー。
きぃみさんの前には、カレーが置かれた。
「……カレーですか」
「……カレーですよ」
好きなのだろうか。
わからないけれど。
目を輝かせて、一口食べる度うっとりと微笑むきぃみさんに――親しみが湧いた。
自然と僕も笑みを作り、コーヒーを傾ける。
――熱さで、コーヒーの味がわからなかった。
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恋を謳う。
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ひなさんは、楽しい。
酒を飲み合いながらのおもしろおかしい時間。愉快だ。爽快だ。
話は弾み、酒の趣味は合い、笑いのツボは同じで――これほど素晴らしい飲み友達はいない。
今はまだ二度三度しか杯を交わせていないけれど、これからもときたま会って愚痴を言い合って、爆笑し合いたいもんだ。
こっちとあっちのスケジュールの積み具合から考えて、僕の都合で飲みに行くわけにはいかないだろうから、ひなさんから誘ってもらうしかない。急かしたりするのも気分が悪いし、気長に待つつもりでいよう。
それにしても……一人カラオケについての論議は白熱したなぁ。
何時間話していても、もっと話していたくなる。変な気持ちだ。
今僕は……ギターリストになって良かったと思っている。
諦めなくて良かったと、思っている。
たとえ有能といえなくても、たとえ拍手を浴びれなくても。
そう思う僕が、南條のことを思い出すことはなかった。
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恋を謳う。
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三人娘と次に会ったのは、またスタジオだった。
ただし、今回は録音などではなく、一週間ほど先にあるライブの練習みたいなもの。
『サンデーオンザライブ〜木曜だけどっ!〜』とかなんとかかんとか。
なぜに木曜。なぜにサンデー。突っ込みどころ満載だが、気にしないほうがいいのかもしれない。
「こんにちはー」
時間より少し早めに訪れた三人娘に挨拶。
ひなさんが、親しみに溢れる笑顔を浮かべてくれる。
僕は笑みを返した。
ひなさんからきぃみさんへ目を移し、その隣へと視線を動かして――
南條と、目が合った。
気押される。なぜか、息が詰る。
思わず目線を逸らした。
ひなさんへと、近寄る。
「がんばってください……凄いの期待してますよ」
「冬野くんも、ギター弾き間違えたりしないようにね?」
へらへらと笑う自分が、なぜかとても嫌だった。
南條を見ないようにしつつ、南條のことを気にして上の空な自分が、なぜかとても嫌だった。
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恋を謳う。
道はひとつなのに。
しかし、道は無数に伸びていて。
だから、間違いではないはずで。
でも、間違いかもしれなくて。
そんな判断が、できるものではなくて。
謳おう。
歌おう。
謡おう。
詠おう。
唄おう。
みんなの胸に愛しみが幸くことを、願って。
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声優陣に続いて、逸早く退出した僕は、妙に寒々しい世界に歩みを躊躇わされた。
ふぅっと息を吐き出す。
白くなる吐息。真冬が近くなってきているようだ。ということは、そろそろクリスマス。恋人いない暦実際年齢な僕……悲しい聖夜には、ひなさんと飲み明かしたい。シャンパンを開けたら盛り上がれそうだ。
「……あ」
声。我に返る。暗闇の向こうで、白い息を吐く人影。見る。じっと凝視して、わかった。
「……南條、か」
まだ早いようにも思える、白いマフラーに白いコート。ぶかぶかのコートがとても暖かそうに思えて、季節はもう冬だと実感させられた。
「どうした? なんか置き忘れたか?」
「ん……」
近寄る。近寄る。近寄る。
「そんなわけじゃ、ないんだけどね」
「――」
ハッと、息を呑まされた。
だがすぐに、なぜと疑問に思う。
なぜ自分は息を呑んだのか。
ただ、南條が見えるようになっただけだというのに。
何か後ろめたいことがある気分で――いただけない。
そう、喩えるならば……不倫していることがバれた夫。妻は何も言わず。ジッと夫を見つめているんだ。
場面でいうなら、電気の点いていないリビングってところか。
……どんな昼ドラだよ。
思考を振り払う。南條に向き直った。
「……冬野くんを、待ってたの」
「え?」
驚く僕の頬へと、伸びてきた南條の手が触れる。
近くなる顔。僕は、南條の瞳に宿る"光"を見た。
"光"は暗かった。
しかし、"光"は眩しいほどに輝かしかった。
"光"は、ギラリと凍て付く氷のようだった。
"光"を見た僕は思わず震え上がってしまう。
「南條!?」
反射的に、南條の手を振り払う。
そのまま一歩退いた。
怖い"光"の消えた瞳を瞬かせた南條は、しかし僕へと二歩迫ってくる。
そのまま僕は――ギュッと、抱きしめられた。
「南……條…………?」
僕の言葉に、答えるものはない。
腕の抱きしめが強くなったのを、応えととらなければの話だけど。
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運命かと、思った。
運命の再会かと、思った。
赤い糸で結ばれてるんだと、本気で思った。
私の気持ち、気づいてくれてるんだと思ってた。
だって、あなたの笑みはとても優しかったのだもの。
だって、あなたの笑みはとても暖かかったのだもの。
あのとき――そう、あのとき。
私があなたに、恋に落ちたあのときも。
あなたはとても優しい笑みを浮かべてくれました。
あなたはとても暖かい笑みを浮かべてくれました。
そして、このときも。
再会を果たした、このときも。
あなたはとても優しい笑みを浮かべてくれました。
あなたはとても暖かい笑みを浮かべてくれました。
あなたはあなたのままでした。
私が、二度と見ることはないと諦めた笑顔のままでした。
何もかも変わらないままで。何もかも変わらないままで。
あなたが、私のときめきに気づいてくれるんじゃないかって、思ってました。
あなたは、実はあのころから私の恋心に気づいてるんじゃないかって、思ってました。
甘えてました。
運命に。現実に。そして、あなたの優しさに。
あなたの優しさに、触れ続けていたいって、思い続けてました。
でも私は、あのときと同じで、何も言えず、ただあなたが与えてくれるのを待っているだけ。
それじゃだめなんだ。そう気づくのは今。
あのときには、気づくのが遅すぎたけど。
このときで再び恋に落ちた私は、まだ手が伸ばせるから。
あとは、ただ願うだけ。
私のこの恋が、実ることを。
あとは、ただ想うだけ。
誰にも渡さない、と。
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「南……條…………?」
僕の言葉に、答えるものはない。
腕の抱きしめが強くなったのを、応えととらなければの話だけど。
なんだか、霧消に怖く思えた。
さっきの、南條の瞳に灯っていた"光"――怖くて仕方がなかった。
「おねがい……冬野くん…………」
我に返って、南條の言葉に全神経を集中させる。
小さな呟きは、しかし静寂によく響いてくれた。
「私の曲を弾いて……」
僕の胸板に顔を強く埋めさせて、南條は更に言い募る。
「私の曲だけを弾いて……」
この言葉には、先ほど見た"光"と同じ何かが宿ってる。
僕は、そういう確信を得ていた。
離せ。
放ちたい言葉が浮かぶ。
だけど僕は――その言葉を飲み込んだ。
保つ沈黙。
返答できないのは、自分が弱いから。
拒むことを拒んだ僕は、拒まないことを表せるほどに強くなくて。
だから沈黙。
僕は、何も答えられなかった。
南條の想いはわかっても。
南條の想いを、暖かいと感じても。
南條の想いを――怖いと感じても。
拒まないと決めて、しかし拒まないと決められなくて。
僕はただ、困惑しているだけだった。
弱い。なんて、弱い。
言葉をかけて、あげられない。
かけてあげるべき言葉は浮かぶけど、そのどれもが嘘っぽくって、伝えられない。
だから僕は、そっと南條を抱きとめる。
南條の総てを、抱きとめる。
それは、あの頃からの想いを体現した、行動。
とても愛おしく思えた。
とても愛らしく思えた。
とてもじゃないけど――僕じゃ幸せにできないと、思えた。
でも、でも。
僕はもう、諦めたくはない。
あのころ、僕のギターをずっと聴き続けていてくれた南條のためにも。
――知っているかい?
そう、話しかけたくなった。
――知っているかい?
――南條。君が、僕を音楽の世界に導いたんだ。
いえるはずがない。
こんなにも落ちぶれた僕に、言えるはずがない。
だから、そっと心の奥に秘めておく。
今は――今は。
君の面影を想い、ギターを希望としていた僕。
そんな僕を捨てた僕に、君に本当を告げる資格はないだろう。
出来心で始めたギターに、こんなにも熱中しているのは――君が褒めてくれたからだ。
なんて。
いえるはずがない。
それに、そんなことは今にどんな関係がある?
南條は僕を見ている。僕にしがみついている。僕を手放したくないって、想ってくれている。
そんなことが、僕は――とても嬉しくて。
少しだけ、怖くて。
少しだけ、戸惑って。
雪のふらない冬の中――僕らはいつまでも想いを考えていた。
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体と体は、こんなにも近いというのに。
心と心は、違う。
近いけれど、そこにはちょっとした間違いというか、違いがあって。
すれ違い、っていうのかな、これは。
今すぐ正せるようなものではなくて。
どうすれば正せるのだろうと、考えてみる。
そして、閃いたんだ。
――僕の気持ちを、歌にしよう。
そして、歌ってもらおう。
僕の想いは、歌に込められていて。
それをなぞる南條は、きっと僕の想いを知ってくれる。
そして、南條は僕の想いへの返答を――声にするんだ。
そうすればきっと、南條に灯る"光"は消えてくれる。
でも、だ。
僕は、どんな想いを込めればいいのだろう?
暗く哀しくいてほしくない、願い?
柔らかく暖かくいてほしい、願い?
何が一番良いのかは、わからないけれど。
これから見つけていこうと、思う。
あのころとこのころに空いてしまった、時間。
運命がまた僕らを遠ざけてしまうのではないかって、不安には思うけれど。
焦る必要はない。
だって僕は――南條が好きなのだから。
南條は、僕の中心だった。
南條が見てくれるから、僕は必死にギターを続けて。
南條が喜んでくれると思って、僕は難しい曲も弾けるようになって。
楽しかった。とても楽しかった、あのころ。
卒業して、南條の見ていない中での練習は――虚しかった。
楽しくなかった。全然楽しくなかった。
だからだんだんと、ギターに乗せる心が薄汚れていって。
南條は、僕の中心だった。
今までも、そしてこれからも。
簡単に僕を揺るがせてしまう。
でも、そんな一方通行は嫌だから。
僕と南條は、両想いなのだから。
――僕は絶対に、最高の歌を、贈りたい。
絶対に――
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