チャプター・9 ほーりゅう
喫茶店を出ると、途端に外の寒い空気が身にしみた。お店の中はかなり暖かかったし。……なんか最後の方は赤面するような、体温上がるような事もあったしさ。
一体ジプシーは、何を考えているんだか。
「さて、今から何処か行きたい所、ある?」
後から出てきたジプシーが、私に聞いてきた。
「え? ここのパフェだけが目的じゃなかったの? ……う〜ん。何処かって言っても、もうこの時間だし制服だしなぁ」
私は腕を組んで考えた。今、四時過ぎでしょ。今から行きたい所も特に思い浮かばない。
「なら、うちで夕食を食べていくか? お前の家は今日も叔母さん遅いんだろう?」
前に私、今日は叔母が遅い日だって言ってたっけ? 自分では記憶にないのに覚えていたらしいジプシーが言う。それは確かに嬉しい。夢乃のお母さんの作るご飯も美味しいし。
「そうしようかなぁ。でも急にお邪魔して大丈夫?」
「……実は、もうそのつもりで、今日は朝から頼んできている」
そう言って笑うと、ジプシーは私の前を歩き始めた。
私は慌てて後をついていく。
……私、かなり、ジプシーを誤解していたのかも。
私が転校して来た日に、確かに私が余計な事をしたとはいえ、殴って気絶させようと考えたり、文化祭では変な術に巻き込んで感電させたりと、女に対しても情け容赦ない奴だと思っていたけれど。
こうして二人だけで話をしてみると、そう悪い奴には思えないなぁ。
ただ普段は、裏の世界でも活動をしている関係で、そう振舞わなければならないだけなのかな……。
しばらくジプシーの後ろについて歩いていたけれど、ふと、ジプシーの家の方向ではない事に気が付く。
「あれ? 道、違うんじゃない?」
ジプシーは、私に合わせてか、歩調を緩めながら言った。
「散歩がてら、遠回りをして帰ろうかと思ったけれど。嫌か?」
まあ、まっすぐ帰っても夕食以外何がある訳でもないし。別にいいけれど。
そのまま歩いていくと、私の知らない道に出た。そう言えば、この土地に引越しをしてきて、私は三ヵ月程になるのかな。近くても普段行かない場所があるって事か。
うん。散歩も悪くない。
そのうち大きな公園が目の前に出てきた。中に入っていくと、子供の遊び場にあるような砂場やブランコはなく、逆に巨大アスレチックと言える位の大きな木製の遊具が、広場の中央にどんと置かれてあった。そこで、数人の小学生が遊んでいる。また、散歩道として想定されているのか、寒い季節の為に葉の落ちた木々に囲まれた長い道が、広場の周囲に幾重か作られている。その周りの夕暮れの散歩道を、犬と一緒にゆっくりと歩いている人々。
「知らなかったなぁ。ちょっと足を伸ばせば、こんな大きな公園があったんだ」
今度は私が先に立って、公園の散歩道を歩いていく。アスファルトじゃない。土の道だけれど、歩きやすいように整備されている。
「いい場所だね」
振り返ってジプシーを見る。
すると、私の顔を見ていたジプシーが言った。
「お前、顔に何かついてる」
え? さっき食べたパフェ、まだついていたのかな? 慌てて手の平でこすってみる。
「こすっている場所が違う。取ってやるから眼、つぶれって」
言われた通りに大人しく眼をつぶる。ジプシーの片手が私の頬を撫でる。……でも、なかなか眼を開けていいと言わない。なので、つい勝手に眼を開けてみた。
息のかかりそうな距離で、顔を斜めに傾けて眼を閉じたジプシーがいた。
思わず眼を見開いて固まった私の気配が伝わったのか、ジプシーも眼を開けて私を見た。そして、微笑みながら、ゆっくり私から離れる。
「さて、暗くなるから帰ろうか」
……ちょっと待て! 今、キスしようとしていなかった?
あまりの事に言葉が出ない私へ、ジプシーは笑いかけてから、さっさと歩き出した。 |