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ジプシーダンス
作:国沢裕



チャプター・8 ほーりゅう


「何?」
 私は考え事をしながら、ぼんやりとジプシーを見つめていたらしい。慌てて横へ眼をそらしたが、私の視線に気が付いたジプシーが聞いてきた。
「……言わない。夢乃と京一郎と、約束したから」
 横を向いたまま、そう言ったけれども、今度は逆にジプシーに見つめられているのがわかる。
 ……よそを向いてくれないと、この、目の前にあるパフェが食べにくいじゃない。アイスクリームが溶けちゃう。
「あの二人と何を約束した? そういう言い方だと余計に気になる。……まあ、夢乃の言いそうな事は察しがつくが」
 横目で無言で、私はパフェを突っついていたけれど、ふと思いなおしてみる。今日のジプシーは話がしやすそうな雰囲気だよね。私の今思っている事は現在進行形の事であって、過去の事じゃないような気がするし。
 ……思い切って言ってみようか。うん。
 私は視線を戻し、目の前のパフェを見つめたまま、一気に言った。
「……何でジプシーは、運動神経も頭も見た目も良いのに、普段はへたれのフリをして、裏では危険な事をわざわざやっているのかがわからない。でも、夢乃達にジプシーの過去は聞かないって約束したから、過去は聞かない」
 ……やっぱり直接過ぎたかな。
「お前……聞かないって言っても、そこまで、はっきり口に出したら、聞いているのと同じ」 
 あきれたようにそう言って、それでもジプシーは怒らずにちょっと笑った。
 笑いながら、眼を伏せた。

「そうだな……いろんな要因や気持ちが混ざっていて、一概にこれとは言えないが」
 再びパフェと格闘をしていた私に、しばらくしてからジプシーは、考えつつ、ゆっくりと話し始めた。
 ジプシーが眼を伏せたまま私から視線を外しているので、私はそのまま食べ続けながら話を聞く体勢になる。
「まあ、夢乃から俺の過去を多少は聞いていると思うけれども。理由としては……俺の家族を奪った犯人への復讐や、……リボルバー、俺が持っている銃を受け継いだ経緯や、……逆恨みとわかっているけれども」
 言いにくそうに一旦言葉を区切ったが、目の前の珈琲カップを見つめながら、ジプシーは続ける。
「頭では逆恨みとわかっているけれども、俺は奴が許せない。……奴に対する恨みと憎しみが、俺が普通の生活を送れない一番の理由かも」

 逆恨み……理由なんか必要ない感情だよね。
 奴って、我龍の事だよね。

 私は今、どんな顔をして、ジプシーを見たんだろう。
 視線を上げて私を見つめ返したジプシーと、眼が合った。

「で、お前はどうなんだ?」
 ……はい? 
 急に話を振られても、何の事だか? 今の私は多分、間抜け面をしているはず。
「お前も全く普通の生活とは言えないだろう。制御不能とは言っても超能力者で、お前の持っているロザリオの中の石、明らかに特殊な石だ。誰かに狙われるとか追われるとか、そんな心配はしないのか」
 心臓が、ドキンと打った。
 確かに自分自身、物心ついた時から過去に何度も危惧した事だ。でも動揺している事がばれない様に、笑いながら何でもないように言う。
「私、家族以外では成り行き上、ジプシーと夢乃と京一郎にしか、ロザリオを持ち歩いている事を言っていないんだぁ。私がここに来る前の学校の友達とかにも見せた事ないし、能力の事も今まで人に話をした事がない。だから大丈夫でしょ!」
 ふぅんという感じで、ジプシーは私を見る。……実は内心、結構気にしていること、ばれてるかな。私、すぐに顔に出るからなぁ。
 
 その時、ジプシーの眼が細くなり、表情から感情が消えた。
 ……最近、鳴りを潜めていたジプシーの殺気が広がる。私は近くで毒気に当てられたかのように総毛立った。

 でも、それは、本当に一瞬だった。あまりにも一瞬過ぎて私の勘違いかと思い、彼の顔を見直すと、ジプシーは笑いを含んだような表情で私を見ていた。殺気なんて微塵も感じられない。あれ? ……本当に今の感覚、私の勘違いだったのだろうか?
 そしてジプシーはテーブルの上の携帯を手に取りながら開き、ボタンを一つ押して元通りテーブルに戻しながら、私に言った。
「ほーりゅう、もう少し上手に食べろよ」
 ?
 話の流れがわからず、不思議そうな顔をしている私に手を伸ばし、ジプシーは私の頬に付いていた生クリームを指でぬぐった。
「顔に付いてる」
 それだけでも恥ずかしい事なのに、ジプシーは、指に付いたクリームを、自分の口に持って行った。
「なっ……何すんのよ」
 この男! 周りから見たら、付き合っているカップルみたいで恥ずかしいじゃない! ……って言うか、今気がついたけれど、二人だけで喫茶店に入ること自体が、もしかしたらデートになるのか?
 うわぁ……。
 急に恥ずかしくなってきた私は、顔を上げられなくなった。
 パフェ、食べられないじゃん!
 そんな私をジプシーは、テーブルに片肘をついて、面白そうに笑いながら見ていた。







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