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ジプシーダンス
作:国沢裕



チャプター・7 ほーりゅう


「私ってさぁ、てっきり勘違いしちゃったよ」
 目的の喫茶店への場所を一通り説明した後、私は前を歩くジプシーにそう言った。
「何。どんな勘違い?」
 ちょっと言いづらいかなとも思ったけれど、なんか今日の、と言うか今のジプシーはいつもと雰囲気が違う感じがする。なので言ってみた。
「ジプシーが私に付き合おうって言ったでしょ。付き合うって、彼女になれとかの意味なのかと思っちゃった。考えたら、ジプシーに限ってそんな事言う訳ないよね」
「……なるほど」
 そう言って、前を向いたままで、ジプシーは少し笑った。
 ……やっぱり今は、いつもの刺々しさと言うか、突き放す冷たい感じがしない。
 連日の正体の分からない気配と視線で、いつにも増してかなり神経質になっているジプシーだったけれど、こう何日か続くと神経が持たないよなぁ。そのせいかな。
 それとも、さっき言っていた二人で話をしようってのは、腹を割って話そうって意味で、それでいつもの、俺に近づくなオーラが出ていないのかな?
 ……だから、つきまとっている気配の相手はきっと、文化祭でジプシーに一目ぼれした誰かのストーカーの類だって、私は思うんだけれどなぁ。

 十分程歩き、目的の喫茶店に着く。大通りに面したわけではないので、土地を広く使った一階建てのお洒落な雰囲気のある喫茶店。表には新メニューのサンプルで、ガラス越しにいくつかのパフェが並んでいる。そう、これこれ! どれにしようかなぁ。
「これから寒くなる季節に、パフェか」
 ガラスに張り付いている私の後ろで、ジプシーがつぶやくように言った。
「分かっていないなぁ。女の子は寒い季節にアイス! おコタに入りながらとか、暖かい喫茶店の中でとかで、アイスを食べるのが美味しいのよ」
 そう言いながら私は、喫茶店の扉に向かう。飾り細工のある取っ手に手をかけようとしたら、先にジプシーが手を伸ばして扉を開けてくれた。
「……ありがと」
 京一郎だったら普通にしそうな事、一応ジプシーもするんだ。
 広い店内に入ると、かなり混んでいた。それでもいくつかあいてる席を見回していたら、ジプシーが後ろから言った。
「窓際の二人席、日が入って明るそうだ。そこでいいんじゃないか」
 意外な感じがした。
「……なんか、ジプシーのイメージとして窓際が嫌いそうなのに、いいの?」
「なんで? 裏の世界の人間に顔を見られたらとか、狙撃されたらとか? そういう連中は俺が現役高校生だとは知らない。そこまで日常生活は制限しちゃいない」
 そう言って、ジプシーが先に歩いていって席に向かった。ジプシーがいいって言うならいいのかな。なので、私も付いて行く。
 席に付いてもう一度、私はフルカラーのメニューを手に取り、真剣に眺めた。
「……私、この『ピザの斜塔』って言うパフェにする。果物とバニラアイスとたっぷり生クリームの上に、チョコレートソースがかかっているヤツ! 美味しそうだよねぇ」
 ジプシーが、注文を聞きに来たウェイトレスに伝える。
「このパフェ一つと、珈琲一つ」
「あれ? ジプシーはパフェ、食べないの?」
 ジプシーはウェイトレスが立ち去った後で、言った。
「甘い物は嫌いじゃないが、この結構な大きさを一つ、食べきる自信がない」
 なんか笑った。本当に些細な事だけれど、ジプシーでも自信がない事、あるんだ。やっぱり少々精神疲れかで気弱くなっているのかな?

 パフェが来る間、初めて入った店内をきょろきょろと見回してみた。充分に間隔を置いて配されたテーブルに、緩やかなクラシックが流れている。女性同士のグループの中に、カップルも数組。土曜日のおやつ時間だもんね。ただ、制服で来ている人達はいないや。
 店内は暖房が効いているようなので、下にカーディガンも着ている私は制服の上を脱ぐ。ついでにジプシーにも声をかけた。
「店内、結構暑いよ。制服の上着脱いだら?」
 ジプシーは、眼鏡を外しながら言った。
「……いや、今日は下に吊っているから」
 一瞬、何の事だか解らなかったけれど。……ああ、今、上着の下に物騒なものを持っているっていう意味か。
 そして、ジプシーはおもむろにポケットからシルバー色の携帯電話を取り出す。
「……ジプシーって携帯、持っていたんだ。知らなかった」
「まあね。普段は持ち歩かない」
「……それって、携帯って言わないじゃん」
 ジプシーは、それでもすばやくいくつかボタンを押してから二つ折りに携帯を戻し、テーブルの上に置いた。
「俺も夢乃も持っているが、そう必要に迫られる事がないし。今日は用事で遠出したからね。それに俺の携帯には、夢乃と京一郎の番号しか入っていない。……京一郎は普段からずっと携帯を持ち歩いているけれどね」
 そう言っている間に、パフェと珈琲が来た。私の興味は、瞬間にパフェへ移る。
 わぁ〜い! 何処から突き崩そうかなぁ。下手に食べると名前通り、上に高く、斜めぎみに絞った生クリームが崩れてくるぞ。

 生クリームの下のバニラアイスを突っついている私の目の前で、珈琲に何も入れず、ジプシーはカップを手にする。ふと、そのカップを持つ左手の指に、私の視線がいった。
 京一郎から勉強を教えてもらっている時に、京一郎はすらりとした長身に合わせて指も長いなぁと眺めた事がある。
 目の前のジプシーの指先は、男の子なのに、とても綺麗に整えられていた。
 京一郎も、本当はジプシーも、かなり喧嘩をする格闘系なのに、ちょっと意外な感じがする。普通格闘系なら、拳ダコとか作ってゴツゴツしたイメージがあるんだけれど。
 ……目の前にいる今のジプシーは、普通の、何処にでもいるような高校生の表情をして、穏やかな雰囲気が漂っていて。頭も運動神経も見た目も良いのに。
 自ら危険な事に首を突っ込まずに静かに過ごせば、普通の生活が送れそうのに。

 何故、ジプシーは、裏の世界で生きる道を選んだのだろう?







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